第十二話 プッチンパポペ大賢者②

 大見得を切った直後、ぽっぴんはハっとすると自分の両手を見つめながらふるふると震えだした。


「な……ないです」

「え? なにが?」

「私の杖がないですっ!」


 杖? そんなものはどこにもなかったと思うが、もしかしたら気が付かなかっただけで外にまだあるのかもしれないと皆で見に行った。




「やっぱりどこにもないな」

「むぅ……」


 余程大事な物なのだろうかしょんぼりと落ち込むぽっぴん。


「たぶん下の階層にあるんだろうけど、諦めて新しいの買うしかないんじゃないか?」

「嫌です。あの杖は謂わば私の分身の様なもの、あれじゃないと私は思うように魔法も使えません」

「いやいや。さっき俺のこと丸焼きにしたじゃないか」

「あの程度で? 杖さえあったら灰すら残しませんよっ!」


 おい待て、さっき放った魔法はそんな危険なものだったのか? サラッと言ってるけど下手したら俺この世から消えてたってことじゃねえか。


「あぁぁぁぁどうしましょぉぉぉだいじなつえなのにぃぃぃぃ」


 なに棒読みでチラチラこっち見てるのかしらこいつ。


「きっとしたのかいにおとしてきてしまったんだわぁぁぁぁぁ」


 だからチラチラ見んなよ。


 すると見かねたローリンが俺の肩をちょんちょんと突っつき耳元に小声で話しかけてくる。あ、なんか吐息があたってゾクゾクします。


「べんりくん。かわいそうだから探しに行ってあげましょうよ」

「馬鹿かねきみは、さっきのあいつの話聞いてなかったのか? なんかすんげーモンスターが居るって言ってただろ、無理無理絶対無理。死んじゃいます」


 こちとら喧嘩の一つもまともにしたことのない単なるコンビニアルバイトなんだ。

 そんな凶悪なモンスターの居るところにわざわざ赴いて、もしも出くわしちゃったらどうすんのよ。

 ちなみにこの階層までのモンスターは、ここにコンビニができたおかげで冒険者達が行き来しやすくなったこともありほぼ一掃されたらしい。だから俺はここでのんびり商売ができるわけだ。


 俺が渋っているとローリンはその大きな胸を張りどんと叩いて自信満々に言い放つ。


「だったらこの私に任せてくださいっ!」

「え? なに言ってんの?」

「ちょ、ちょっと! 忘れたんですか? 私これでも一応聖騎士なんですよ? 帝国からの命で魔王を倒してこいって言われるくらいの実力の持ち主なんですよっ!」


 そう言えばそうだった。ここんところずっとレジ打ちとか品出しとかしていてすっかり溶け込んでるから、単なるアルバイトのJKだと思ってたわ。


 というわけで。



 クエスト内容:ぽっぴんぷりんの魔法の杖を探し出せ。

 難易度:☆場合によっては☆☆☆になる。

 報酬:ぽっぴんが最大火力で魔法を使えるようになる。


ギルドの看板娘「大賢者ぽっぴんぷりんが魔法の杖を落としてきてしまったんだってえ。でも第16階層にはリビングデッド達がうようよしていて大変。しかもそいつらを束ねる死霊の王がとっても怖いらしいのひぇぇぇ。誰かぽっぴんと一緒に杖を探しに行ってあげてぇ~」



「……なにそれっぽい感じにしてんの?」

「いや、その方が気分が盛り上がるかと思いまして」


 シレっと言い放つぽっぴん。と言うかなんで俺が参加しているのかがわからない。ローリンと二人で行って来ればいいじゃないか。ものすごく嫌だったが、もしもの時の為にとアイテム要員として俺も行く羽目になってしまった。

 店番&万が一俺達に何かあった時の為、助けを呼びに行く要員としてソフィリーナは残ることになった。俺がそっちじゃ駄目なの?


 冒険者達からの情報でコンビニの商品は、パワビタンZ以外にも色々と特殊な効果があるらしいことは判明している。

 例えばハーブ類の入っているガムや飲み物なんかは状態異常を治したり、他の栄養ドリンクなんかはHPだけを回復したり、或いはMPだけを回復させたりするものもある。

 小腹が空いた時には【うめぇ棒】が最近の冒険者達のトレンドだ。


「お二人とも気を付けてください、ここから先は私にとっても未知の領域。他の冒険者達もまだ踏破できていない難所になります」


 険しい顔で言うローリンに、俺達も気を引き締める。


「どこら辺で落としたとか覚えてないのかよ?」

「そんなの覚えていたら、失くしたこと事態に驚いたりしませんよ」

「そりゃそうだな。ところで、【聖者の書】だっけ? それってすごいもんなのか?」


 俺は当初ぽっぴんが探しに来たという【聖者の書】とかいうアイテムについて質問してみた。


「それはもう、それには伝説の黒魔法を発動させる為の呪文が記されていると言われています。ですから当然私のような賢い美少女大賢者が手に入れるべきだとは思いませんか?」

「ローリンは知ってるの?」


 ぽっぴんのことは無視してローリンにも質問してみる。ぽっぴんは不満気な表情で「むぅ、解せぬ」とか言っているが気にしない。


「はい。噂に聞いたことはあります。ただその書がいつ頃書かれたものなのか、作者は誰なのかは不明とされ、またその呪文を解読できた者はいまだかつていないとされています」


 なんだそれは、呪文を解読した奴がいないんじゃ、そこに書かれている呪文がなんで伝説の黒魔法ってわかるんだよ。完全にガセじゃねえかそれ。


「ですからそれを私が解読してみせて、伝説の大賢者になろうと言うのですよ」


 ふふん、とぺったんこの胸を反らしてふんぞり返るぽっぴんであるが、そもそもこいつが賢者ってことすら怪しい。まあそこは突っ込まずにおいてやろう。


 そんなことを話しながらダンジョンを進んで行くとローリンが足を止め、唇に人差し指を立てると小声で言う。


「しっ、お二人ともお静かに。あそこにモンスターがいます」


 ローリンの目線を追うとそこには、簡素な鎧を纏った骸骨兵が二体なにやら井戸端会議をしていた。


「いやぁ、まじで最近仕事がキツくてさぁ。毎日16時間休みなしの23連勤、このままじゃあ過労死しちまうよ」

「ははは。俺達もう死んでるしそれはねえんじゃねえ」

「違ぇねえはっはっは。でもそれって、終わることのない地獄ってことだよなあ」


 二人で大笑いしながら話しているが、なんかすんげえブラックな内容じゃね? 俺は他人事じゃないような気がして笑えなかった。

 そんな骸骨兵が手にしている、ある物に俺は気が付く。


 ん? なんかあれ? 木の棒か? さきっちょになんか丸い水晶玉みたいの付いてるけど、どう見てもあれ魔法のつ……。



「そこの骸骨兵どもおっ! その手にしている魔法の杖を離しなさいっ!」


 止める間もなくぽっぴんが大声で言い放つのであった。

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