第八話 イチャつく底辺バイトとJKとイラつく女神
俺はスマホを手に取るとアラームを止めて時計を見た。
AM8:50
もうこんな時間か、そろそろ朝番の人と交代の時間だな。と、いつもなら思うところだが今日は違う。
俺は突っ伏していた机から頭を上げるとモニターを見た。
店内には女神ソフィリーナとローリンさんがダンボールを敷いてその上に寝ている。
ふかふかのベッドの上で寝たいと駄々をこねていた駄女神とは対照的にローリンさんは、店内は暖かいしダンジョンの冷たい地面の上で横になるより遥かに快適だと大喜びであった。これまで大変だったんだろうなぁ。本当に不憫に思えて泣けちゃったよ。
「朝ですよー起きてくださーい!」
売り場へ行くと俺は二人を起こす。眠たそうに眼を擦りながらローリンさんはゆっくりと体を起こすと朝の挨拶をする。
「おはようございます。ベンリーさん」
「おはようございますローリンさん。短い時間ですけどゆっくり眠れましたか?」
「はい。それはもう、このダンジョンに入ってから3日、初めて熟睡できました」
そりゃモンスターがうろついているダンジョンですもんね。おちおち寝てもいられないですよね。
そして駄女神はと言うと。
「んん~。あとごふん~」
はいはいお決まりの台詞ですね。そう言って5分後に起きた奴なんてこの世にはいないんだよ。
「ちょっと仮眠取るだけって言ったのはおまえだろうが早く起きろよ」
肩を揺さぶるのだがなかなか起きないソフィリーナ。涎を垂らしながらだらしない顔で寝てやがる。マジでムカつくなこいつ。俺は両手で強く体を揺さぶってみた。
「いい加減起きろよっ! おいっ! 時のオカリナみたいの探しに行くんだろっ?」
「うるせええええええええええええっ!」
叫びながら俺の顔面にパンチをお見舞いすると、またもぞもぞと横になり鼾をかき始める駄女神。マじでなんてやつなんだこいつ、腹立つなんてレベルじゃねえ。
「え? ベンリーさん? どうするんですか?」
「ちょっとした寝起きドッキリです」
俺は駄女神が横になっているダンボールの端を掴むと引き摺って行き外へと出て行く。
そしてそのまま外に放置していると……。
ソフィリーナは突然ガバっと起き上がり、キョロキョロと周りを見回している。自分の置かれている状況に頭がついていっていない様子だ。
「ぷーっw 見てくださいローリンさんあいつの顔ww」
「えぇぇぇ……ベンリーさんちょっとひど……ぶふっ! めちゃめちゃ焦ってますね」
どうやらようやく自分が外で寝かされていることに気が付いたのだろう、ソフィリーナは慌てて店内に戻ってこようとするのだが自動ドアは切ってあるので開きませんよ。
「ちょっと開けてよっ! ばかああっ! 洒落にならないわよこれっ! 昨日みたいにモンスターが来たらどうするのよっ!」
ドアをドンドンと叩きながら懇願するソフィリーナに、俺は耳に手を当てながら聞き返す。
「えー? なんですかー? よく聞こえませーん?」
「きぃぃぃぃいいいっ! 聞こえてんでしょうがああっ! いいから早く入れなさいよっ! いい加減怒るわよっ!」
「締め出された人の気持ちがわかりましたか?」
「わかったわよっ! わかったから早く入れなさいよっ!」
おやおや、まだそんな偉そうな態度をとるのですか? もう少しお仕置きが必要ですね。
そんなことをしているとダンジョンの奥の方に見える小さな明かりと、それが照らし出すなにか得体のしれない大きな影がこちらに物凄い勢いで向かってくる。
「な……なんだあれ? またモンスターか?」
「ちょ! ちょちょちょちょっ! は、はやく開けなさいよっ! はやくっ!」
さすがにかわいそうなので開けてあげようとするのだが、俺はうっかり鍵を落としてしまう。
「ば、ばかあっ!なにふざけてんのよ! 早くしてよっ!」
「はいはい。そう急かされると余計に手間取っちゃいますよ」
落とした鍵を拾おうと屈むと、ローリンさんも拾おうとしてくれていたらしく頭と頭がごっつんこ。てへ、うっかりうっかり。二人一緒に尻餅をついちゃった。
「あいたたた」
「いたた。す、すみませんベンリーさん」
「いやいやこちらの方こそ」
「なんだかおかしいですね。うふふ」
「ははは。漫画みたいですね」
なんだか照れくさくて俺は頭を掻きながら、ローリンさんは頬を染めてお互い照れ笑い。
「んなああにが、うふふじゃボケえええええええっ! イチャついてねえで早く開けろやあああああっ!」
涙目でバンバンとガラス戸を叩くソフィリーナ。やめてくださいドアが壊れるじゃないですか。
するとなにか地響きのような音が聞こえだし、地面が揺れ始めた。
「な、なんだ? 地震か? ローリンさん。こういうことってよくあるんですか?」
「いいえ。こんなこと初めてです」
「はやくあけてえええええええっ!」
「すごい地鳴りですね?」
「ええ、気味が悪いです。なにか地のそこからよくないものが湧き上がってくるような」
「いいから早く開けろよっ! おいっ! 底辺バイトっ! コスプレJK! 人の話を聞けええええっ!」
遠くを見やると洞窟の奥の明かりがどんどんと増えていき、その下の黒い塊が波の様に押し寄せてくる。
ま、まさか? モンスターの大群が押し寄せるその振動で地鳴りのような音が?
「い、いやああああっ! 死んじゃう死んじゃうっ! 早く開けてよおおおっ!」
「お、おうっ! ふざけてる場合じゃないな、すぐに入れてや……あ」
鍵を拾い上げようとするのだがうっかりつま先でキーホルダーの部分を蹴飛ばしてしまう、鍵はシャーっと床を滑り什器棚の下の隙間に入ってしまった。
鍵の行方を見つめたまま青褪める俺とローリンさんがゆっくり振り返ると……。入口の向こうから勢いよく助走をつけてダイビングクロスチョップで飛び込んでくるソフィリーナの姿が見えた……。
「あ、あのぉ?」
粉々に砕け散ったガラスドアの外から中を覗き込む毛むくじゃらのおっさんと、その背後にいる有象無象の冒険者達。
「店、やってますか?」
その問いに俺はゆっくりと返事をする。
「怪我人の手当と片付けが終わってから開店いたしますのでしばらくお待ちください」
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