第七話 酔った勢いで異世界転移
監視カメラ用のモニターに突如現れた謎の影は自分のことを女神だと言っている。
そのシルエットにJKは見覚えがあるらしいので、俺は黙ってソフィリーナと名乗った女神の話を聞くことにした。
『ジェイ・ケイ・ローリンさん。ようやく仲間が現れたようですね。そして、はじめましてベンリー・コン・ビニエンスさん。これから私が話すことはとても大事なことですので、よく聞いておいてください。これは、あなた方が元の世界に帰る為に必要なことなのです』
ごくり……。
『あなた方にはこの世界で、ある物を探して頂きたいのです。それは【時の歯車】と呼ばれている、とても重要な物になります』
ふむふむ……。
『なぜそれを探して貰いたいのかと言うと、うっかり私が失くしてじゃなかった……ある不幸な事故が原因で、それがこの世界のどこかに落ちて行ってしまったからです』
ほぉほぉそれはつまり……。
『それがないととても大変なことが起きます。時間の運行が正常に行われなくなった所為で、例えば本来死ぬべきじゃなかった人が死んじゃったり、底辺コンビニバイトが異世界に飛ばされたりと、あらまあ大変』
やっぱりそういう事か……。
「ベ……ベンリーさんこれって……」
「あぁ、そうだな……」
ペラペラと饒舌に話し出した女神の言う事など最早右から左、俺はすっくと立ち上がるとバックヤードから出て行く。
「ベ、ベンリーさんっ! いくらなんでもそれはまずいですっ! もし間違っていたらどうするんですかっ!? 完全にセクハラですっ! 痴漢行為ですよっ!!」
「離してくださいローリンさんっ! それを今から確かめに行くんですっ!」
俺はJKの手を振り解くと洗面所へと音もなく侵入する。コンビニのトイレなど、もしもなにかあった時の為ように簡単に鍵が開くような仕組みになっているのだ(フィクションです)今こそ暴いてやるぞっ! おまえの正体をっ!
鍵をちょこちょこっと弄って扉をゆっくり開けると、中でしゃがみ込む人の背中が見え、マイクにむかって意気揚々と話しかけていた。
「なのでぇ、元の世界に帰りたかったら一刻も早くそれを見つけ出して欲しいのよねー。早くしないと元の世界どころかこの世界も消滅しちゃうかもしれないし。それって結構ピンチだと思うのよ。て言うか、私の立場も結構危うくな……」
そこまで言うと、しゃがみ込んでいた人物は黙り込みゆっくりと振り返る。
「あ……あれ?」
「よお……屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……」
糞OL、もとい、駄女神ソフィリーナは正座をすると深々と頭を下げ両手を突く。
「誠に申し訳ございませんでしたああああ」
俺とJKにむかってジャンピング土下座をかます女神の姿はなんとも憐れであった。
「おうおうおう、許すか許さねえかはこの後の話しでえだなぁ? あぁん? まずはその不幸な事故ってのを話してもらおうかいのぉ?」
俺は顎をしゃくりメンチを切りながら駄女神を問い詰める。
「し……新年会で同僚達としこたま飲んだ帰りに酔った勢いで肝試ししようってなって。出るって噂のあった時の管理棟に忍び込んだのよ。結構飲んでたから、そこかしこにある時計を見てたら気持ち悪くなっちゃって……」
そう言って顔を赤らめもじもじしだすソフィリーナ。
「リバースしたのか」
「……はい」
最低だなこいつ、そんなところでゲロ吐くとかマジで信じらんねえ。てーか女神が酔っぱらってゲロ吐くとかマジでありえねえ。
「だってしょうがないじゃないっ! わたしだって次の日仕事だし最初の1~2杯でやめるつもりだったのよ。ビールだけにしとけばおしっこしちゃえばアルコールもすぐ抜けるし、ちゃんぽんはしないでおこうって思ったのよっ! それなのに酷いわっ! あいつら……あいつらっ! 幻の焼酎・冥王なんてボトルで入れだしたのよぉぉぉ! おおん、おんおん」
そのまま突っ伏して床を拳で叩きながら泣き出すソフィリーナ。女神が普通におしっことか言うんじゃねーよ。
そんなこんなでゲロの後始末をしようと歯車を解体して掃除していたら一個戻し忘れて、また後で戻せばいいやとポケットに入れたままフラフラと帰っている途中に落としてしまったらしい。そして、たまたま寄った店が俺の働いていたコンビニだったというわけだ。
「すげえ……何一つ同情できねえどころか、不幸な事故でもなんでもねえ。完全におまえの所為じゃねえか……」
「ちがうわよぉぉぉぉおおっ! わたしだけじゃなくて、他の女神達も同罪でしょ! うあぁぁん、これが時の神様に知れたらめちゃめちゃ怒られちゃうよぉぉぉぉ」
いやいや、おまえが怒られるだけなら全然構わないんだが……なんか世界が消滅するとか言ってたよなおまえ? それってマジでやばくね?
俺が虫けらを見るような目で駄女神を見下ろしていると、JKがなにやら怪訝顔で聞いてくる。
「ちょ、ちょっと待ってください。それっていつの話ですか? ベンリーさん達はいつからこの世界に来ていたんですか?」
「え? いつって、あそこの掛け時計の通りなら約二時間前くらいですけど?」
「それっておかしくないですか? オーエルさんはいつその時の歯車ってのを失くしたんですかっ!? 少なくとも私がこっちの世界に来てから1年は経過しているんですよ?」
そう言われればそうだ。時系列がまったくもっておかしいぞ。一体どういうことだ?
その質問に駄女神は、ははぁん、と顔をあげるとドヤ顔で言い放つ。
「既に時間の流れに綻びが出ているようね。ふふっ」
うわぁぁぁ、すっげえムカつくぅぅぅううう。
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