第六話 平成生まれの聖騎士様
とりあえずまたモンスターが侵入してこないように入口の自動ドアには鍵を掛けてバックヤードで話を聞くことにしたのだが、その子は涙ながらにこの異世界に飛ばされてきてからの1年間を俺達に話してくれた。
「つ……つまり、ローリンさんはジェイ・ケイ・ローリンさんじゃなくて、ただのJK(女子高生)だったってことですか?」
「はい、そうです。わたしは名もなきただのJKなんです。それがあれよあれよと言う内に聖女様って呼ばれて、聖騎士に仕立て上げられて、気が付いたら魔王を討伐しにいけって言われていたんですうううっ!」
金髪のウィッグを振り回しながら泣き叫ぶローリンさ……いや、JK。さすがの俺もこんな展開は予想していなかった。
て言うかマジかよ? なんかすんごい頼りになりそうな気がしてたのに……え? 俺より年下じゃんこの子。
泣きじゃくるJKの頭を撫でながらオーエルが問いかける。
「どうして断らなかったのよ?」
「断れるわけないじゃないですかっ! 最初は聖女なんかじゃないって否定したけれど、認めないならお前は魔族か? とか言われて、魔女裁判にかけられそうになったんですよっ!? 生きていく為には仕方なかったんですぅうぅうっ!」
うわぁ……。こりゃ完全に、体のいい生贄にされただけじゃん。
どうやらJKは、気が付いたらとある村の聖堂の祭壇の上に居たらしく、聖女様の生まれ変わりと勘違いされたらしい。
時を同じくして帝都から魔王討伐の為に大都市からだけでなく、帝国全土にある町や村からも勇者を一人派遣しろとお達しがあり、これはきっと魔王討伐の為に顕現された神の御使いであるとJKに白羽の矢が立ったわけだ。
よくよく調べると騎士としての資質もあり、剣の腕前も並外れていた為に聖騎士となって今に至るらしい。
「ま、まあこれでも飲んで落ち着いてください」
俺はあたたかいペットボトルのミルクティーを差し出すと、JKはそれを手に取りちびりと飲む。
「ふぇぇぇぇぇえええええん」
「ど、どうしたんですか?」
「久しぶりの紅〇花〇のミルクティーの味ですぅぅぅぅぅ、美味しいですぅぅぅぅ、お菓子も食べたいですううううう」
なんだか可哀相になってきたのでポ〇キーをあげたら、泣きながらそれを食べるJKであった。
しばらくするとJKも落ち着いてきたので話を進める。
「そ、それで、俺達をずっと待っていたと言うのは?」
「はい。実はわたし、ここに飛ばされる前に不思議な空間で女神様にお会いしたんです」
きましたよ。お決まりの展開。異世界に転生や転移する前に必ず行くと言う謎空間、そしてそこで女神様にチートスキルを貰ってオレツエエエエエエエエっ! ってなるあれだ。ん? おかしいな? 俺はそんなイベント挟んでないぞ。なんで?
「その女神様の姿はぼんやりとしか覚えていないんですけど、言われたことははっきり覚えています」
「な、なんて言われたんですか?」
「なんかわたし、現実世界ではなんかの手違いで死んじゃったらしいのでこっちの世界でなにかひとつ大きな功績を残せば生き返らせてあげるって、そんでもってその為の仲間もその内連れてきてあげるからがんばってねって」
うわあ! ひでえっ! 最悪だ。ありがちだけど最悪だっ! てーかそれ異世界転移じゃなくて異世界転生じゃん!
そこまで聞いて俺はあることに気が付く。
「ちょっと待ってください……」
「はい?」
「と言う事はつまり……」
「つまり?」
「その仲間と言うのが俺達……だと?」
「え? 違うんですか?」
はい違いまああああああすっ! だって俺達そんな女神には会ってないしっ! なんでここに飛ばされたのかもわからないしぃっ! だいたい死んでないもんねっ! 死んで……ないよね?
俺が「うーん」と呻って悩んでいると徐に立ち上がるオーエル。
「どうしたんですか?」
「ちょっとお手洗い、アルコール入ってるからなんか近いのよ」
はぁぁぁ、なんて緊張感の欠片もない奴なんだ。人が真面目な話をしている時に催すとは、これだから酒飲みの酔っぱらいは困ったものですよ。
まあここで漏らされても困るのでトイレの場所を教えてあげると、俺とJKは再び話に戻る。
「JKさん。実は我々はその女神様には会っていません」
「え? どういうことですか? だってあなた達はわたしの居た世界、日本から来たんですよね?」
「はい、そうです。我々は間違いなく西暦2017年、平成29年の日本からやってきました」
「うぅぅぅぅ、もう2017年なんですねぇぇぇぇぇ。平成28年ではないんですねぇぇぇぇ」
西暦を聞いて再び泣き出すJK、可哀相によっぽど大変な1年間を送ってきたんだろうな。これは俺があとでゆっくりと慰めてあげるしかあるまい。変な意味じゃないよ?
「ときにJKさん?」
「はい、なんでしょう?」
「なんで金髪のヅラなんて持ってるんですか?」
「ああ、これですか? わたし趣味でコスプレをしているので宅コスの最中にここに飛ばされたんですよ。どうもその時のコスが聖女っぽかったらしいので今でもこうやって金髪のウィッグをかぶってるんです」
なるほど、よく見ると結構痛んできているな。まあそれは仕方あるまい。
身に着けている甲冑は所々傷ついてはいるものの、かなりの値打ちものなのか。大きく破損している所もなく美しい白銀の輝きを放っていた。
一応聖騎士様ではあるのでそれなりの装備を貰ってはいるのだろう。
「それにしてもおっせえなあいつ。うんこか?」
「田中さん、女性に対してそれはちょっと……」
「今はベンリーと呼んでください」
「あ! その名前。やっぱ、便利なコンビニエンスからきてるんですか?」
「Exactly!!」
「じゃあ、オーエル・ビッヒ・ステリックさんってのは?」
「OL、ビッチ、ヒステリックですっ!」
「あはは、なんですかそれ、ひどいです」
ようやく笑顔をみせてくれたJKに、俺は少し胸を撫で下ろすのだが、急に監視カメラのモニターが光り輝き画面が切り替わると謎の影が浮かびあがる。
「な!? なんだ急に?」
「ベンリーさん! なんか見覚えがありますこのシルエット!」
モニターは普通のテレビなのでスピーカーも付いているのだが、勝手に音量が上がるとそこから人の声が流れた。
『あーあー。マイテスっ! マイテスっ! んっ……んんっ! 私は、女神ソフィリーナ。聞こえますか?』
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