第五話 聖騎士とパワビタンZ②

「なるほどつまり。このダンジョンの最奥部にいるであろう、魔王を倒す為に高額の懸賞金が懸けられたけれども、本当は払いたくないから冒険者達よりも先に倒して来いと命令されたわけですね」

「ま、まあそういうことになりますね」


 身も蓋もない俺の言い方に軽く口元を引き攣らせながら答えるローリンさん。

 俺とオーエル、ローリンさんの三人が話している間、他の人達は店内になにか良い物はないかと物色して回っている。

 僧侶のサーヤさんは、パワビタンZドリンクを一口飲んだだけでステータスが全回復したらしい。なんだか状態異常も治ったらしいのでこれはすごいアイテムだ。

 まさかパワビタンZにエリクサーのような効能があるとは思わなかったが、そんな貴重なアイテムをタダで譲ってくれたことにパーティーの皆は感謝しきりであった。主にクズOLに対して。


「ところでベンリーさんとオーエルさんは、いつからここで店を開いているのですか? ここは地上から下って15層目の結構深い場所で、ベテラン冒険者でもなかなか来ることの難しい所なのですが」


 ローリンさんの質問に俺はどう答えたら良いものかと悩んでしまう。いつからと言われてもつい1時間ほど前に突然ここに転移しただけなので、正直に言っても信じてもらえないだろう。


「い、いやぁその、それはなんと言いますか」

「なんにしても助かりました。それに、ここを中継地点にすれば今後のダンジョン攻略もだいぶ楽になると言うものです」

「そ、それはお役に立ててなによりです」


 そんな俺とローリンさんのやりとりをさっきから怪訝顔で見つめているオーエル。なんか静かなのがかえって不気味なんですけど。


「ところで、お二人のジョブはなんですか? こんなところでたった二人でお店を切り盛りしているのですから、さぞかし上位クラスのジョブなのでしょうけれど」


 やべえ。そうきましたか。やっぱそういう設定ありましたか。

 あれだろ、なんか冒険者ギルドとかで適性を見てもらって自分にあった職業ジョブを登録するってやつ。そんでもってそのジョブ特有のスキルとかそういうのをレベルアップしたら覚えることができるってやつだ。

 俺も自分のステータスとか見れるのかな? あ、なんかそれやってみたい。俺のステータスってどのくらいなんだろ。どうせジョブはアルバイト、スキルはレジ打ち、とかなんだろ。お約束だよな。

 まあとりあえず今は適当に答えておこう。


「バ……バイト戦士です」

「ぶふっ……失礼。せ、戦士ですか? バイトと言うのがよくわかりませんが、ちなみにオーエルさんは?」


 ん? なんか今笑われたような? まあいいや、それよりもそいつに話しを振っちゃダメですローリンさん。たぶんなにもわかっていないから、普通にOLです。とか言っちゃうよこいつ。


「え? わたし?」

「はい。オーエルさんのジョブは?」

「うーん。わたしは……」


 聞かれて考え込むオーエル。しばらくすると手を打ち答える。


「きし、です」

「え? 騎士……ですか?」

「はい騎士です」


 なにを言っているんだこいつは、おまえが騎士だと? 笑わせるんじゃねえ。アルバイトのことを見下し馬鹿にして、あまつさえ俺のことを見殺しにしようとした。そんなノブレス・オブリージュの精神のカケラもないお前が騎士だとぉ?


 俺は小声でオーエルに問いかける。


「なんで騎士なんだよ?」

「企業戦士だから。略して“きし”よ」


 うわぁぁぁ……くだらねえぇぇぇ。


 げんなりしているとパーティーの三人が近寄ってきた。


「ローリン様、これからどうしますか? このアイテムのおかげで私はすっかり回復したのでまだまだ行けますよ?」


 サーヤさんがそう言うと、ローリンさんは深く息を吐いて答える。


「いえ、今日は一度戻りましょう。この階層にこんな商店を見つけることができたのは僥倖です。この情報を冒険者ギルドとも共有すれば、今後のダンジョン攻略もより効率化を図ることができるでしょう」

「このことをギルドに教えちまうんですかい? 俺達だけの秘密にしていればやり易くなるし、他を出し抜けると思うんですが?」


 確かにおっさんの言うとおりだな。このダンジョンがどれくらい深いのかもわからない他の冒険者達は慎重にならざるを得ないけれど、途中にこんな店があることを知っているこのパーティーは少し大胆になることができるってものだ。

 ここで回復できるのだから、この階層まではアイテムや魔法なんかを温存する必要はなくなるし、この先を進むにしても撤退ポイントを作ることができるのでやり易くなるだろう。

 そんなアドバンテージを他の冒険者に教える必要はないのだが、ローリンさんは小さく首を横に振って答える。


「いいえ。どんな理由があるにせよ。他の方々が危険な目に合うのを私には見過ごせません。少しでも命を落とすリスクを減らせるのであればそれに越したことはありません」


 その言葉にパーティーの全員が深く頷き納得した様子だ。

 ローリンさん、この人はほんと女神の様な人だ。皆にも慕われているようだし、見ず知らずの俺に偉そうに命令したあげく、見殺しにしようとしたオーエルとは月とすっぽんだな。

 そんなことを思っている俺の視線に気が付いたのか、目が合うとオーエルは一瞬不思議そうな顔をしたあとにニコっと笑う。なんかうぜえ。


「皆さんは先に戻ってこのことを報告してください」

「え? 先にって? ローリン様は?」

「私は他にもまだお聞きしたいこともありますので、もう少しここに残ってから戻ります」

「だったら俺達も一緒に」

「いいえっ! 私なら大丈夫です。それよりも一刻も早くこのことを地上に知らせるほうが先決です。このお二人が居れば私の安全も保障されますでしょうしお願いしますっ!」


 ローリンの気迫に三人は渋々納得し店を後にする。ローリンさんも見送りにと一緒に外に出て行った。

 まあこちらとしてもローリンさんにまだまだ聞きたいこともあるし助かったと言うか、これからどうしよう?

 そう思っていると三人を見送ったローリンさんが店内に戻って来た。

 店に入ってくるなりローリンさんは小走りで近寄ってきてオーエルに抱きつく。


「ずっとお待ちしてましたあああああああっ! 早く元の世界に帰らせてくださぁぁあああい! わたしもう限界ですぅぅぅぅっ!」



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