ー27

 現地解散という事でクッキーを買いに行こうと一人で歩いていると、いろいろ考えてしまう。

 あの後、彼らヒーロー共がどうなるか。話では問題が起きないようにヒーロー記憶消去カウンセリングを施されるとのことだがどこまで本当なんだか。

 どこまで消えるのかもわからないし、偽の記憶カバーストーリーも覚えとかないといけない。

 超常現象対策課の情報操作部隊が様々な隠蔽工作を行うらしいが、記憶とかデータをすべて改竄するとか信じられない。記憶に干渉する魔術とかは一人に対して時間が大量に掛かるからあまり信用できないが、超対は何かとんでもない技術でも握っているのだろうか?能力かもしれないがどっちにしろ碌でもないことだろうから知らない事が吉だろうけど。

 クラスに戻って来た桃乃と仲良くなれる気がしないし、仲良くする気もない。記憶がなくなるのならもう関わらない方だいいだろう。

 下手に思いだされて問題になったら超対からクビで済めばいい方だろう。実家から人知れず処分除籍されるかもしれないと思うと楽観視は出来ないが。

 親父の影響力が超対でどこまであるのかわからない限りフォローとかは無いと思って行動した方がいいだろう。

「それにしても公命堂のクッキーってどこだ?近くで売ってるのかと思ってたのにないな」

「それなら駅前のデパートで売ってる高級品ですよ坊ちゃん」

 駅前のデパートに売ってるのかよ。しかも高級品とか。近くの菓子屋を覗いてもないわけだ。

「えーマジかー。それなら早くいくか」

「そうですね。お荷物お持ちします」

「ああ、頼むよ木下――っておい!?なんでお前がここにいる!?」

 咄嗟に距離を取るがいつの間にかいろんな荷物を取られている。

 仕方がないのでそのままデパートの方へ歩き出す。さりげなく俺を守れる位置取りする木下は部下の鑑だな。

「坊ちゃんが元気そうで何よりです。いきなり独り暮らしをさせると御屋形様に聞いておりましたが、あれだけ甘やかされて生きてきた坊ちゃんには無理だと思っていました。――ですが坊ちゃんも男の子。成長するのですね」

 そう言ってほろりと涙を見せるのは、俺の召喚師の師匠兼世話係の木下だ。甘やかされていたあの家で俺を甘やかさない珍しい人間だ。

 俺としては結構こいつ苦手なんだよなあ。なんて言うか真面目なバカだからな。なんというか対応しづらい相手である。

「相変わらずだな木下。なんでここに?」

 呆れながらも会話を続ける。なんだかんだで親父の次に俺に忠誠心を持っているので、相手にするのは嫌ではないのが困ったものだ。

「もちろん。坊ちゃんの様子を見に――と言いたいのですが、この周辺で仕事がありましてな。その帰りと言った所です」

「仕事?親父の使いっぱしりか?というか俺が知っていい内容か?」

 うちでも5本の指に入る優秀な術者だ。任されるとしたら結構な大任だろう。

「別に隠せとも言われてませんからお教えしますよ。御屋形様の実験の後始末としてのした召喚です」

 実験の後始末としての召喚?どういうこ――あれ?何か超最近、その心当たりがあるような気がする。具体的にはさっきの仕事とか。

「…………………………知りたくないけど知らないとヤバそうだからあえて聞く」

「別に知らなくても構いません」

「—— あ え て 聞 く。何を召喚した?」

 一瞬心が揺らいだが、危機感を持って振り払うように覚悟を決めて聞き直す。

 俺の心情を見抜いているらしく、小さく笑う木下はなに考えているのかわからない。

 笑顔は無表情より感情が読めないというが、なるほど本当に何考えてるのかわからない。

「坊ちゃんが先程相手しておりました生命体です」

 あのヘドロは生命体に分類されるんだ。俺からしたらなんかの現象としか思えない。俺からすると人型だがあのヘドロに自意識のような意志があるとは思えない。

 祟り神とあの時は言ったけど竜巻みたいに突然現れて、被害だけ撒き散らすような類に見えた。

 あんなやばいのを召喚できるのは親父くらいかと思ったけど、木下ならそれも可能かもしれないな。

 正直、中堅程度の実力でしかない俺からしてみると底知れないトップの技量とは相当な格差がある。トップがどこまで何まで召喚できるのかわかって無いのだから想像できないと言った方が正しいか。

「やっぱりか。どうすんだよあんなの召喚したってバレたら下手すれば取潰しだろ」

「それはないかと」

「は?」

 どういうことだ?

 あんなやばいのを召喚してるんだ。下手すれば――いや下手しなくても朝敵とか難癖つけて潰しに来そうな気もするが。

「この召喚は超常現象対策課も知っております」

「え?なんで?」

「新任の坊ちゃんの実力を知らせるためのデモンストレーションですから」

 ……え?

「もしかしてヒーローとか悪の組織とか全部用意されてたの?」

「ステインに関してはそうですがヒーローは違います」

 悪の組織ステインは用意してあったのかよ。俺なんかの為によくやるな。

「少し異世界を汚染してアレを作ったのに吸収させる予定だった数匹に逃げられてしまいましたから」

「サラッと恐ろしい事言うな」

 吸収ってなんだよ吸収って。蠱毒でもやってたのかよ。

「似たようなものです。異世界を壺に見立てて、いろいろなものを入れ込み強力な何かを作るつもりだったようですが――失敗したので処理しようと思いましてね」

「ついでに俺の実力を示すために使ったと、イイ親を持って泣きそうだよ」

 新人の俺の実力を示すことで一族の実力を示そうとしたっていう所か。

「坊ちゃんが御継ぎになるのですから実践は必要でしょう」

「そんなもんいらねえけどな」

 とは言っても一人っ子だし周りが勝手にそうしようとしてくるし、この三年は最終試験と見るべきか。

 退屈しなさそうか。

「ところでクッキー高くない?」

「これはお小遣いです」

「……貰っとく」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る