28

「さて、先日はお疲れ」

 翌日を休日に当てて、明後日。作戦に参加したメンバーは事務所に集まっている。

「ん」

「お疲れ様です」

「ホントですよー。次、桃乃と顔合わせたらどうすればいいんですか」

 そんなもん知らんわ。

「まあ、相手にしない事だ。本来彼女たちは裏世界こちら側に関わる資格がないんだから夢見たことにでもしとけば?」

「毒にも薬にもならないありがとうございます。……適当にはぐらかすことにしますよ」

「そうしとけー」

 適当に任せて話を進めようとしたらクラウディアが何か言いたそうな顔をしている。

「どうしたの?」

「む。資格って?」

 ?

 何の話だ?

「所長。それでは勘違いしてしまいますよ。資格というより覚悟という方が正しいです」

 あー。こちらの業界に関わる条件の事か。自分で言っててわかって無かったな。

「どっちも似たようなもんだと思うけどね?多かれ少なかれ世界の裏側に関わるなら、それを必要があるわけさ。個人的には資格だけど。エリちゃんからみたら覚悟だわな」

「む?」

「……それだとあいつらは資格を持ってるんじゃないですか?ってなんで蹴るの!?」

 クラウディアの疑問を代弁するように英毅君が言う。台詞を取られて怒るのはわかるけど股間は狙うなよ。

「一見するとそう見えるが資格なんぞ持っちゃいないよ。あの場合はね」

 特に男性陣はビックリするぐらい見込みがなかったね。

「まず前提条件の特別な力だけど。あれは次元の違うところに存在していた謎生物ぬいぐるみの力なわけだ。変身から戦う力まですべてを依存してたわけ」

 捕獲した謎生物はビックリするくらい正直にすべてを話してくれた。『正直に話さないとあいつらヒーロー共の命の保障は出来ない』といっただけでこれである。ちょろいもんだ。

「……あいつら選ばれたとか言ってましたけど?」

「波長が合っていただけで選ばれたのは違うよ。現に波長が合う奴を使ってこっちの世界に干渉してただけさ。変圧器で電圧を変えるようなもんだ」

 ヒーロー共変圧器使えない電圧を送って、必要な戦う力使える電圧を生みだしていただけである。

「適性なんかは多少あるけど、誰でもよかったみたいだね」

 良い人そうな奴だから声を掛けたらしいから利用するつもりだったんだろうねえ。

「ヒーロー共に特別な力はない。故に資格はないわけだ」

「……なら覚悟は?」

 英毅君とエリちゃんは相対したから黙ったか。逆に召喚しただけのクラウディアはそこら辺はわかりにくいかな。

「少し脱線するけどクラウディアはエリちゃんと英毅君からいろいろ習ってるよね?」

「ん」

「なんで習い始めたの?」

「いつも危ない事件の時は蚊帳の外だし私も戦いたいから」

「もしかしたら死ぬかもしれないのに?」

「覚悟の上」

 クラウディアは本当に肝が据わってるなあ。なんでこんな過保護な集団の庇護下にあって、そんな覚悟が生まれるんだろうか。それはさておき。

「ヒーロー共にはその覚悟がないわけ」

「死ぬ覚悟?」

「死ぬ覚悟というより戦う覚悟だな。あいつらには戦いで自分達が死ぬことをほんの少しも考えていなかった」

 考えていたらヘドロ退治の時に自分勝手な怒りを持つはずがない。

「物理無効に胡坐をかいてましたからな」

「それもあるな。最初は知らないけど怪我しない防御陣のせいで最後には怪人退治が遊び感覚になっていた。危機感の欠如が甚だしかったからな」

 遊び感覚でなく本気なら警察官にあんなにあっさりと取り押さえられるはずがない。死に物狂いで暴れるはずだ。

「あー。だから好きになれなかったのか」

「不愉快でした」

 英毅君は召喚失敗したら死ぬような召喚ばかりをしているから命を大事にしているし、エリちゃんは普段の仕事から命懸けである。

 だから上っ面だけの言葉に酔っているあいつらの事を好きになれないのだろう。命を賭ける覚悟がないことがわかるから。

「赤いのは正義のためとか言って安全地帯で戦うことに酔ってたし、緑はみんなに認められるという承認欲求だったしな。他の連中は知らんが似たり寄ったりだろう」

 周りが真面目に受験勉強している中、勉強ゲームをして勉強しているってアピールされたらイラつくのと同じである。

「話は脱線したけど。二種類の謎生物は同じ世界の住人だったらしい。あの祟り神みたいなのが発生してどうにもできずに滅んだらしい」

「祟り神などには対処法を持っていなかったら、滅んでしまうのわからなくはないな。……同情は出来ないが」

 対処法がなくても何度も挑戦していればいつかは正しい対処法が生まれそうな気がするけど。

 というか魔法(笑)が発展している世界ならそういう事に対処するための方法論が確立されてないとおかしいんだが。どれだけぬるま湯のような世界で生きていたのだろうか。

 天敵のいない島で生きてきたドードー鳥が外来種によって絶滅させられたように一方的に抵抗も出来ずに滅んだようである。

「こっちの世界に逃げてきたあれらは人間の悪性に曝されて、ようやく戦闘という意思を得たそうだ」

 あの時なんだかんだ言っていたが、ただ恐ろしくて真っ先に逃げた臆病者だと気付かれたくなくて虚勢を張っていただけのようである。

「やっぱり処分ですか?」

「上に生き残りを仕留める様に要請したんだがな……」

「動いてくれなかったと?」

「いやちゃんと動いてくれたよ。暇つぶしで次元ごと消滅させたそうだ」

 ラスボスと言っても過言ではない重役の一角が快くストレス発散の為に引き受けてくれた。

「問題なのはなぜか一匹だけ送り返されたんだよ。好きにしろってね」

 それがこれと言って机の上に出すのは最初に汚れたライオンのぬいぐるみを閉じ込めた魔道具。

 なぜかそれを見て目を輝かすクラウディア。こういうのが趣味なのか?

「これいる?」

「ん」

 即答されるとは思っていなかった。

「これクラウディアちゃんに渡すのは不味くないですか?」

「俺もそう思う」

「む!」

 あ、梃子でも動かないつもりだこの子。

「……それなら使い魔にするのはどうですか?」

「おねえちゃん師匠?」

「——ッ!――んん。主従の契約で魔力を糧に生きるように契約すれば問題ないかと」

 なんで照れたんだろこの娘?

「後は危害加えないとかの制約をつければ問題ないでしょうね」

 そうなるとただの喋るぬいぐるみでしかなくなるな。それなら脅威はほとんどないわけだし。唆されないように気をつけていればそれでいいかな。

「クラウディアはそれでいい?」

「ん」

 じゃあ、それでいいか。

「今日話すことはそれで終わりだよ。それじゃその契約やらなんやらはエリちゃんと英毅君主導でよろしく」

「「了解」」

「ん!」

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