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 そこで終わればめでたしめでたしなのだろうが、そうは問屋が卸さない。

 話はヒーロー共を保護することになった次の日まで遡る。

「——というわけで問題はきちんと解決しました。あとは謎生物達こいつらの残党を始末すれば終了ですね。それをお願いしても?」

 上層部の一人に報告しろと呼び出されたので、超常現象対策課の本部にまで顔を出していた。

「なるほど。いやはや結構なお手並みですね。残党の件は任せて下さい。塵も残さず消滅させますので」

「そうですか」

 流石、上層部。禍根を残さないためとはいえ、世界一つ滅ぼすのに眉一つ動かさないとは化け物じみてるな。

「ところで一つ聞いておきたい事があるんですが」

「ほうほう。なんでしょうか?愚息が世話になっていますので一つと言わずいくらでも聞いていいですよ?」

 超常現象対策課・序列9位・地獄の縁者――閻魔えんま博英ひろひで

 英毅君の父親にして表の顔は現役の代議士政治家、裏の顔は凄腕の召喚師サモナー一族の頭首である。

「単純になんで英毅君をうちみたいな木っ端支部に?一人息子を育てる場所としては不適格じゃないんですかね?」

「そうでもありませんよ。むしろ甘やかされて生きてきた愚息を自発的に動くようにするには最適だと判断しました」

 あの子の自堕落さは周りが勝手に甘やかすがゆえなんですよと続けるように言う。

 人手不足だから正規メンバーの英毅君を遊ばせるわけにはいかないから、歩合制で仕事を任せてたからな。その結果ある程度自分から働くようになったのだから――そう考えると確かに最適に思えてくる。

「不自然なくらいすんなりとうちに決まったのはそれが原因ですか」

「それにあなたは派閥争いに興味ない人間なので、ちょうどいいと思いましてね」

 派閥争いに興味がないんじゃなくて、関わる前にいつの間にか蚊帳の外に置かれてただけだから関われないって感じなんだけどな。

 まあ確かに今更関わろうとも思わないから英毅君の親を知った所で面倒な事になるんじゃないかと思った程度で、媚を売ろうとは思わなかったし、うちの事務所のバランスを取ると考えるとちょうどいいんだよな。

 エリちゃんは武装巫女の一族で彼女以外は派閥上は無所属だったから、なんとなく武装巫女派閥に近い中立みたいな扱いされてるみたいだし。

「あなたの思惑は知りませんが、人手が足りなかったんで助かりましたよ。誰があの事件の裏で糸を引いてるのか調べる必要がありますけどね」

「ほう。先程の報告ではボスを倒したと聞いていますが?それならもう解決したのではないのですか?」

「俺は先日の事件でヒーローを潰すのを主眼に考えていましたからね。悪の組織ステインの尻尾を掴めれば恩の字程度の考え作戦だったわけですよ。まるでグズグズ進む展開に切れた様にラスボスが登場するとか都合が良すぎだと思うんですよね」

 そしてそんな風に信じられるほど楽観的でもない。

「誰かが超常現象対策課に対して仕掛けてきたと?」

「というより何かの目的に失敗したから処分して欲しかったって感じがしますね」

 あのヘドロがまともに発生するとは思えないし、発展具合が遅いとはいえ曲がりなりにも魔法を使う生物である倒せないまでも封印あるいは遅延戦闘くらいは出来るはずだ。

 それなのに一瞬で滅ぼされるとかそこまでヘドロが脅威だったようにも思えない。

「あるいはとか邪推してしまいますねえ」

「はっはっは。それは面白いですねえ、そこまで妄想できるのならば小説家にでも転職したらいかがかな?」

「生憎、今の生活が気に入っているんで」

「そうですか。面白い考えですが違いますね。

 ……。

「その言い分だとヘドロは自然発生したように聞こえますね」

「ええ。あの汚れ一つない調和した世界に『穢れ』を送りこんだらどうなるか試したくなりまして。そしたら面白いものが発生しましたよ」

 栄養たっぷりの水が入った水槽に泥を投げ込んだら、なぜか泥のモンスターが発生した感じか。

「恍けるかと思いましたか?しかし、この程度の事隠す必要性を感じていませんので」

「そうですか」

 聞いてる感じ他にもいろいろやらかしているみたいだが知らない方が良さそうだな。

 それに俺にバラしてもどこにも影響を与えられないとでも思っているんだろう。実際、その通りだから困る。

「それで才能とやらは見つかりましたか?」

「それは良かったですねえ」

 あのヒーロー共にそこまでの才能は無かったと思うが、いったい何を奴らの中に見たのだろうか?

「本当はわざと汚染した界の一つからある程度優秀なのをこの世界に逃がしてそれと波長の合う人間を見つけようと思っていたんですけどね。想像以上に頭が悪いので使えないと思っていたので諦めていましたが

「その言い分だとうちの事務所の人間ですか?」

 こんなのに目をつけられるとか。誰が目をつけられたのかによって対応が変わるなこれ。

「はい。確かという少女ですな」

 ……マジか。てっきりエリちゃんの方かと思ってたが見当違いだったな。

「あげませんよ?」

「別に貰うつもりはありませんよ。なぜかは知りませんが愚息の弟子のようですからね」

 なるほど。クラウディアが目をつけられた理由はそれか。

 一応、釘刺しとくか。

「彼女は特異能力者ですよ」

 こう言っとけば変に引き込もうとすることは諦めるだろう。

 魔術師の派閥の長が能力者を引き込むのは、能力者の派閥と魔術師の派閥はいい顔しないからな。

「おや、そうなんですか?てっきり魔術師の見習いかと思いましたよ」

「英毅君だけじゃなくてエリちゃん――武装巫女の弟子も掛け持ちしてますし。俺みたいな大きな派閥に属していない状態じゃないと火種になりますねえ」

 強いて言うなら能力者派閥の人間だけど、簡単な除霊みたいな簡単な魔術を使うからハブられてるし。

「それはそれで問題だと思いますがまああなたが手綱を握っているならいいでしょう。ああ、ライオンのぬいぐるみこれは彼女にプレゼントしましょう。

 能力者であるクラウディアが魔術を使うとなると、どっちサイドの派閥もいい顔しないだろうし、戦力となるのなら確保しとくのもありか。 

「……渡しておきます」

 あー、クソ。全部こいつの思い通りの展開かよ。

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