エピローグ

「——お主にワシの魔術の秘伝を授ける。覚悟はいいか?」

「はい!お師匠様!死ぬ覚悟は出来てます!」

「死ぬ気でやるが死ぬなよ」

「覚悟の上です!」

 とある山奥にて次の世代を育てる魔術師――魔導士が弟子に最後の教導を行おうとしていた。

 その秘術を継承して世間に解き放てばどこまでの被害を撒き散らすのかわかっていながらそれを止めることはないだろう。

 師も弟子もそれだけを望んで師弟関係を結んでいるのだから、止まるわけもなく止められるわけがないのだ。

 人知れず最悪の悲劇の始まりの芽が芽吹こうと――

「おっ邪魔しまーす」

 ――が、そんなことは関係ないと壁をぶち抜いて何者かが入り込んでくる。

「な、何者だお前ら!?」

 俺は爺に鍛えられたとおりに狼狽えたふりをしながら必殺の一撃を撃とうと

「やめろ!抵抗するなバカ弟子!勝てる相手ではない!」

 いつも飄々としている爺が初めて本気で恐怖していた。

「爺さんは現実見えてるようだな」

 リーダー格の男が見下すようにそう言い、誇るように名乗りを上げる。

「どうもー。超常現象対策課でーす」

「超常現象対策課?」

「もう嗅ぎつかれたのか――すまぬ。もうお主に教えることは出来ぬようじゃ」

 そんな!?いつも不敵な爺がここまで骨抜きになるなんて!?

 相手は5人だが爺の分解魔法にかかればこいつらなんて一瞬で――グシャッ――へ?

「登録法違反と――分解魔法だっけ?それの試し打ちでぶっ殺した殺人の罪で叩き潰しました」

 え、嘘だろ?あの爺が一瞬でやられるなんて。いやそんなのはあり得ない。だって爺の分解魔法は誰にも対抗できないはずなのに。

「あの所長――私たち必要なかったのでは?」

「むー」

「いや、お前らだけでどうにかしろって言ったのにあの爺さんに魔法使わせるところだったじゃん。だから仕方なく介入したんだよ。まあ、弟子の方はまだ動けるみたいだしそっちはちゃんと無力化しろよ?」

「え?」

 嘘だろ?いやおかしいだろ!?

「はー。かったるいですけど俺がやりますよ。今日俺なんもしてないですし。バイト代なしとか勘弁してほしいし」

 ここは。そうでなくても横やりが入ったとしてもとか、とか。!?

 世界を滅ぼすも救うことも可能な力を授かるべきだった俺がこんなぽっと出のモブキャラに。

「ふざけるなああああああああああああああああああああああ!?」


   ☆   ★   ☆


「まったく。油断し過ぎだぞ閻魔。私が魔術を祓ったから良かったものの下手すれば塵となっていたぞ」

「いやー、分解魔術師。強敵だったなこれは。バイト代弾むことも間違いなしでしょう」

『けっ。せっかくの俺様の出番がなかったじゃねえか』

「しんじんさんが出番の邪魔した」

「痛い痛い!蹴らないで!?」

 あいつら凶悪な指名手配の魔術師――魔導士だったか?――の師弟を叩き潰したのに何の後悔もない。物語で言うなら主人公のような人物を叩き潰したのに特に何も感じていないらしい。

 まあ、慣れといえば慣れなのだろうけど。

 なんだかんだでうちの事務所もいいチームになってきたと見るべきなのかなー?


 俺はいつも通りにしてもあの戦いからみんなは少し変わった。

 エリちゃんはヘドロを一回で浄化出来なかったのは自分の落ち度だと考えて、自己鍛錬を少し厳しくした。

 こういう時は大幅に増加させそうなものだがエリちゃん曰く「地道な積み重ねでしか強くなりません」と、当たり前といえば当たり前のことを言いきれるのは性格だろう。

 実際、無茶な特訓でいきなり強くなるなんてなのだし、すぐに強くなる必要も理由もない俺の庇護もあるのだから今はそれでいいのだろう。

 クラウディアは謎生物ライオと主従契約を結んで使役している。最近では召喚術を応用して、異世界に収納している怪人ボディで働かせることを目論んでいるらしい。

 クラウディアに絶対服従な上に懐いているライオは完全にクラウディアのぬいぐるみオモチャである。あの子は妙にまともじゃないのに好かれる傾向があるからなあ。気を付けないといけないな。

 そして英毅君。

 彼が一番変わったのではないだろうか。

 生まれが恵まれていたせいか、いつも成り行きのように生きてきた彼はこの事務所に入ってから自分の意志を持つようになったように思う。

 最初は親の息が掛かっているだろうから、甘やかしてくれると思っていたらしいクソガキからは想像もつかないほど自分で行動するようになった。

 本人は関わりを断つつもりだったらしいのだが桃乃に説得され友達になったらしい。自分では罪悪感で関わりたくなかったらしいが桃乃の一途な願いを受けて多少救われたらしい。

 てっきり恨んでるのかと思っていたが分相応というものを理解し、妥協したといった所か。

「はいはい。じゃあ、この二人を麓で待機してる連行員に渡すまで気を抜くなよー」

 これにてこの物語は一旦終了だ。

「はい」

「はーい」

「ん」

『おい!これで終わりかよ!?俺の出番は!?』

 終わりだよ。

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