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「はぁ。死ぬかと思った」

 バリアの外に出てそう言い捨てる。

 正直言って初陣(本来の一回目は意図せずサボったが)で戦う相手じゃねえよ。ベテランでも苦戦する内容だよあれ。

 とりあえず事情を協力していた警察の皆さんに話して、いつでも動けるように要請しておく。

 とりあえず魔道具虫籠を置くために超対用のスペースに入り、適当に置いて休憩する。

「後は先輩に任せれば」

「おい。なんで出てきた」

 椅子を蹴りでひっくり返された。

「痛っ」

「もしかして逃げだした?お姉ちゃんの盾として死ねばよかったのに」

「——クラウディアちゃんは俺の前だと横暴過ぎない?」

 召喚術を教えてからわかったことだがこの子は所長と先輩の前では猫被っている。――わけではなく、単純に好き嫌いが激しいだけである。

 なぜ嫌われているのかは不明である。

「で、何してたの?逃げたなら――潰す」

「何処見て言ってんの?それよりどこでそんな言葉覚えた?先輩でもそんなこと言わないよ?」

 先輩はよく人をボコボコにするが急所狙いというか一部の人間が喜ぶようなことはしないし、妹のようにかわいがっているクラウディアちゃんが真似るようなことはしないだろう。

 所長も娘みたいに甘やかしてるし、そういうことは教えない……と思う。

 あの人よくわからないから何とも言えないんだよなあ。

 閑話休題それはさておき

「ヘドロが襲いかかって来て、足手まといだから追い出された?――(盾として命を賭けろよ)」

「ボソッと怖い事言わないでくれ。邪魔になるからそうするのが一番なんだよ」

「へー」

 ゴミを見るような目で見られている。小さな子にこんな目で見られるとか心が折れそうである。

 それにしてもまったく信じてないなこの子。まあそれならそれでいいか。一々説明したくないし、この子を納得させられるとは思えない。

「それでこれなに?」

「これ?」

 なにかと思ったら魔道具虫籠の事か。所長から預かったという事は中に何か入っているのだろう。

「あー、ほら説明にあった魔道具だよ。これの中になんか入ってるんじゃないかな?」

「なにかって?」

「……魔王とか?」

 適当なことを言いつつも取説を読んで不可視状態かつ音声遮断を解除する。

『どこだここ?』

 ライオンのマスコットだかぬいぐるみだかよくわからないのが入っているようだ。

「なんだこいつ?桃乃についてるぬいぐるみみたいだな」

「……ライオンさん?」

『ライオンじゃねえよ!ステインの幹部ライオ様だ!』

「ライオンさん!」

『だーかーらー!』

 なぜだか知らないが目をキラキラさせてライオンのぬいぐるみと会話しているクラウディアちゃん。魔道具虫籠に顔をあんなに近づけて話し込んで。こういうぬいぐるみ好きなのだろうか?

 あ、魔道具虫籠を弄り始めた。

「危ないかもしれないからあんまり弄るな。怪我したりしたら(監督不届きで俺が)怒られるぞ」

「む」

 ああ、よかった。渋々とはいえ言うこと聞いてくれたようだ。

 たぶん。所長が戦場に連れてくるのを渋ったのを思い出して止めたのだろう。そんなに戦いたいのだろうか?俺にはわからない感覚だな。

『おいお前』

「なに?」

『小娘じゃない!そこのお前だ!』

「え?俺?」

 ライオンのぬいぐるみが俺になにか言いたいことがあるようだ。

「なんか用?クラウディアちゃんに睨まれてるから要件は早く言ってくれない?」

「むー」

「あとでこういうのぬいぐるみ買ってあげるから」

『ぬいぐるみじゃない!』

 知らないよ。

「いらない」

 いらないのかよ。まあ負担にならないからそれでもいいか。

「公命堂のクッキーを頼む」

「……よくわからないけどそれでいいなら、あとで買って来てあげるよ」

 こんな事を安請け合いしたせいで後で財布が死ぬのは関係ない話である。

『聞きたいことがある』

「なに?俺もやることあるんだけど」

 今思いだしたけどあのヘドロを召喚した奴を探さないと。ヘドロの正体がわからない以上、ほっといたら再召喚とかされて無限ループに入りかねないぞ。

『お前どこかで会ってないか?』

「は?ナンパするならボンキュボンの女になってから――ガンッ――向う脛を蹴るな!」

 なぜかクラウディアちゃんに蹴られた。もしかして独占欲でも――ガンッ――変なこと考えない方が良さそうだな。こんなちっこく――ガンッ――ても先輩と同じように女の勘と言う特殊スキルを持っているらしい。

『なんというか似たような雰囲気を持つ奴と会ったような会わなかったような』

「曖昧だな」

「ん」

 ――ガンッガンッ

「無言で蹴るのを止めようか。流石に痛いからそろそろ我慢できそうにないから」

『ボスと一体化している時に――面白い実験になると言ってそれから――どうなったんだっけ?』

「いや知らないよ」

 そもそもボスと一体化している時ってなんだよ?吸収分離する性質でもあんのかアレ。

 ……ん?俺に似た雰囲気ってもしかして召喚師サモナーのことか?

「おい。その会った人間どんな奴だった?」

『覚えてない。だが、お前のように妙な生物を引き連れていたはずだ』

 ……もしかして地獄の生物か?

 すぐそこにあったホワイトボードに牛頭と馬頭の絵姿を描く。よし、こんな感じかな?

「もしかしてこんな生き物か?」

「上手いね」

「こういうの得意じゃないと陣とか札を書くのに苦労するからね。で、どうなの?」

『ああ、こういう奴らを連れていた』

 ホシ確定。

 犯人は俺の親父だ。

 親父なら何かの実験で異世界とか滅ぼしたり普通にするだろう。あのヘドロを作ろうとしたのか、それともアレの制御方法でも探すために無茶したのか。

 どっちにしても俺以外にこんな事がばれたら……。御家取潰しで連座式に俺も処刑されるんじゃないか?

「頭痛くなってきた」

「バカだから?」

「違う」

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