25

 特に劇的なこともなく浄化は進んでいるが、エリちゃんの浄化が終わりに近づいても消滅させることは出来ないようだ。

 元々のヘドロステインの用量から浄化で削った量を考えても1/4は残ってしまいそうだ。

 それくらいなら魔道具で封印できる範囲だろう。祟り神クラスからヤバい怨霊程度にまで危険度クラスが落ちているんだし、たぶん大丈夫だろう。うん。

「————。」

 終わったか。削り切れなかったのは残念だが……切り替えてさっさと封印するか。

「ふういーん」

 適当なことを言いながら俺の方向の壁を消して魔道具を作動させる。

 ヘドロから魔道具に吸い込まれていく。

 ――ヘドロから分離した一部だけが。

「はあ!?」

 慌てて別の壁を作って逃げれないように細工する。

 動作の終わった魔道具を見て見るとちゃんと中に何か入ってる。……これは汚れたウサギのぬいぐるみ?

 これが本体――なわけないな。どう見てもあのヘドロが本体だと思うが。残ってるヘドロもまったく変わらずに蠢いているし。いや、よく見たら謎生物みたいなのがヘドロのあっちこっちからチラチラと見える。

「所長?これは?」

「さあね。ちょっと試したいことがあるから余ってる魔道具を作動させてみてくれない?」

「わかりました」

 エリちゃんが魔道具を作動させたのを確認してから、俺も別の魔道具を作動させる。魔術の構造上、同一の目標に対して作動するはずのない魔道具が作動して別々のものを吸い込み封印する。

「これは……ヒーローたちと一緒にいるマスコットか?」

「汚れてるけどそうみたいだねえ?なるほど。あのヘドロの特性が見えてきた」

 こんな事なら魔道具をたくさん用意しとくべきだったなあ。まさかこんなのステインのボスが出てくるなんて思ってなかったしなあ。

「ヒーロー共の周りにいる謎生物なんかを取り込んで自分の一部にしてんだろうな。取り込んで汚染し、自らの為に行動させる」

「危険なカルト集団みたいですね」

「性質は違わんだろうな」

 道理でいろんなものを無理矢理詰め込んで人型にしているような歪なシルエットになるはずだ。

「まいったなこれ。この方法じゃ魔道具が足りなさすぎるし、根本的に倒せる保証もねえぞ」

 いくら魔道具で封印していっても、ストックがある限りトカゲの尻尾きりで本体には致命傷にはならないだろう。

 最初に捕まえた謎生物はヘドロをボスとか言っていたが、そもそもあのヘドロには自我の有無以前に本体があることすら怪しい。

 群棲型と言って差し支えの無い、無数の個が集まって大きな個に見えるようなそんな存在だ。明確な核があるわけでもなく、明確な指向性があるわけでもない。漠然と動くだけの災害みたいな存在だ。

「これの行動原理は何だ?それがわかればこれ退治できそうな気がするな」

「……浄化される事ではないでしょうか?所長の逃げられないとはいえ抵抗があまりなかったですし」

「確かに浄化され始めてから抵抗が弱くなったけど……それが理由か?」

 理由ではなく本能かな?

 この世を彷徨う魂があの世に逝くことを拒みながらも求めるように、ヘドロも浄化されることを望んだ……のか?

 それで説明できる気もするし、まるで見当違いの事を考えているような気もする。

「それでどうしますか?」

「どうしようかねえ?エリちゃんも今の浄化でガス欠気味だし、俺じゃ倒せんだろうし」

 どう考えても詰んでるなこれ。

「——面倒臭くなってきたし逃がしていいかなこれ」

「ダメに決まってます」

 ですよねー。

 本当にどうしようもないなこれ。

 ………………本当に嫌だけど。他の支部に応援を求めるかなあ?他の支部に頼んだら根こそぎ資金を取られるだろうしなあ。

 給料減らしたくねえんだけどなあ。

「所長。他の支部に応援を求める前に彼らを使うのはどうでしょうか?」

「……あいつら逃げてなかったのか」

 あれだけこっちを嫌ってたくせにバリアを張り続けて眺めてたのかよ。バカだろあいつら、協力するか敵対するかのスタンスぐらい決めとけよ。

「おいヒーロー共。これ倒す方法持ってるのか?持って無いなら持って無いでいいけどよ」

 正直期待してないし、あまり頼りたくもない。あいつらを一時的に利用するならともかく、報告で上に有用だと思われて部下なんかに押し付けられたくないからだ。

 正義ぶって自分のためだけに動いてる奴らなんぞ身内にするものじゃない。上の命令に従わない癖に独断行動で害しかないからだ。無能でバカな働き者ほど恐ろしい存在はいない。

「……ない」

 全員近づいて来ていう事はそれか。まあ期待はしてなかったけど。

『でも方法はある』

『どういう事だ?』

『今見た魔法を再現すれば――』

「お前ら意見纏めてから来いよ」

 というかエリちゃんの術を再現するとか呆れて物も言えない。あいつらの魔術とエリちゃんの魔術は鉛筆と消しゴムくらい用途が違う。

 鉛筆で塗りつぶすして文字を消すのと、消しゴムで文字を消す違いみたいなものだ。再現できるわけがない。

 使えばあの謎生物が消えるだけだ。自分達の存在を消し去ってまでやるほどバカだとは思えな『私達が先程の魔法を再現してステインを消し去ります』——想像以上のバカだったようだ。

「そんなことしたらあなた達消えますよ?」

『覚悟の上だ。なあみんな!』

 ヒーロー共は各々返事をする。謎生物ならともかく人間の方は若干戸惑ってるようだが、謎生物たちの覚悟を尊重するといった感じか。

 仲間とか言ってるくせに反対はしないんだな。ま、種族を超えた友情なんてあり得んし、偽りの友情なら別に問題ないか。

『俺達では彼女ほどの威力は出せないだろう。だが、残りを倒すことぐらいは出来るはずだ!』

 信用できねえなあ。謎生物

「さっさとやれよ。あれ空気の部屋を維持すんの疲れるんだけど?」

『……わかった。みんな!配置についてくれ!』

「「「了解!」」」

 ヘドロを囲むように等間隔で円になる五人。それぞれが最後の言葉を交わしているようだが、そんなこと知らんからさっさとやれよ。

「……なんだあの馴れ合い?バカにしてるのか?」

「気持ちはすごくわかるが落ち着け」

 本人たちは真面目なんだろうけど命かけて仕事しているこっちからすれば、あの光景はドラマや演劇のようなわざとらしい行動フィクションにしか見えないだろう。

「ま、失敗しても時間が掛かるんだからガス欠も多少はマシになってるだろうし。休息に専念しとけ」

「……はい」

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