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 作戦は単純だ。

 俺の合図と共にヒーローと英毅君の最大火力でヘドロを削り、弱った所でエリちゃんの浄化でトドメを刺す。

 仮にそれで削り切れなくても捕縛の魔道具で封印すればいい。封印出来ない可能性もあるが時間稼ぎとしては十分だろう。

「で?なにか不満か?」

 赤タイツの変態が俺に話があるとか言って、エリちゃんの説得には応じたがこっちに来た。

 英毅君とエリちゃんには時間の無駄だし、準備に移って貰う。魔道具にとっ捕まえている謎生物は騒ぎ出したので黙らせて外に聞こえないようにしてからしまっておく。

「不満でなく信用してない!」

 あんまりこんなのに時間かけたくないんだけどなあ。ヘドロを封じ込めるのにも限界がある。こっちの能力も限界がないわけじゃないんだからな。

「処刑だの減刑だの!あんたらに何の権限があってそんな事を言うんだ!」

「一応、ここら辺は俺の管轄での事件なら裁量を任されてる程度の権限はあるんだがな?」

 まあ、この手合いにこういう話は通じないから困るんだよなあ。

「大体、超常現象対策課なんて聞いたことないぞ!」

「表沙汰に出来ない事件を扱っている政府直下の秘密組織だが?一般人のお前が逆に知ってたら情報源を知るために聞き込み拷問しないといけないんだが……」

「嘘を吐くな!?」

 怯えるんだったら変に探りを入れなければいいのに。信用なんかしなくてもいいから準備にでも移ればいいのに。

「お前程度にそんな嘘ついて何の得があるんだ?」

 騙す理由もないし隠す理由もない。一時的に協力することにしているとはいえ敵対しているのだ。真っ向から叩き潰すのに策を廻らせる必要もない。

「…………………………お前らにとって俺達は何なんだよ」

「邪魔者・仕事の妨害者・取り締まり対象・犯罪者。どれがいい?」

 どれでもいいし、彼の望んでいる答えは無いだろう。

 誰かに必要とされて誰かの為に戦うことが、一部のバカが褒め称えるた功名心に依存しすぎたのだろう。

 人のためと言い訳した自己愛精神である。むしろ他人を自分の名前をあげる為に利用している分、余計悪質で気持ち悪いことこの上ない。

「……そうか」

「それで?手伝わないならそれはそれで構わないが?」

 司法取引に応じないなら減刑しないであの謎生物を処刑すればいいだけだしな。

 俺は困らないし、謎生物に特殊な処理をしてこの世界の外へと永久追放二度とこの世界へと来れなくするより仕事が軽くて済む。

「……1号たちは友人だ。処分させないし追放もさせない。――俺達だけじゃあいつは倒せないだろう。だが、あれステインを放ってはおけない。……あいつを倒すまでは協力してやる」

「はいはい。3分後に合図だから準備しとけ」

「わかっている!」

 肩を怒らせて仲間の元へ行く赤いのは――倒したら逃げる気満々だなあ。

 それはそれで構わないけど、二対一でエリちゃんに押される程度の実力しかないから仮に必殺技でも撃ってすぐ逃げたとしても逃げられんんだろう。

 自分達が送って来た退屈な日々日常に戻れば安全だなんて思い込み幻想が通じることはない。

 そもそも住所も何もかもこっちは把握してるのだからすべてを捨てて逃げるつもりならともかくそうでないなら逃げ切れるわけないのにな。

 すべてを捨てて逃げた方が危険だと説明しても理解できないだろうし、俺の管轄が比較的安全な優しい方だなんて理解できないだろうしな。他の管轄なら問答無用でだろう。

「で、そっちは準備が間に合いそうか?」

 長らく付き合いのあるエリちゃんの方は大体の儀式の時間を把握しているが、英毅君の準備がどれくらいかかるかはよくわかって無い。

「本来は半日くらい時間を掛ける陣を突貫工事の超簡略化した陣で代用してるんで間に合わないも糞もないんですが!?もっと時間下さい!」

「無理。引き延ばしてもアレを封じるのがそれぐらいが限界だからな」

 本当はその倍は持たせられるけど、不測の事態に対処できる程度の余裕を残しとくにはそれぐらいが限度だろうしな。

「あーもう!やるしかないんですね!?なんでこんなブラック組織に入っちゃたかなあ!?」

 グダグダ言いながらも正確に召喚陣を書いているあたり、プロ意識は強いらしい。

「エリちゃんは準備OK?」

「いつでも動けます」

 エリちゃんは問題なしっと。ヒーロー共の方を見て見ると妙な光と共に武器を召喚していた。

 変形武器か?なんか組み立てて五人で支えるバズーカを作り上げてたけど。

 あれ自体にはそんなに威力があるようには見えないな。

 謎生物を組み込むことで怪人とかを倒せる程度の破壊的な威力にでもなるのか?

 今まで怪人退治してきたのだから大丈夫だと思うが信用できないなあ。

「あいつらも準備は整ったみたいだな」

 さて、合図をして集中砲火だ。

「エイッと」

 信号弾を投げ上げ、気の抜けるようなパンッという音が響く。それを見計らって二方向の壁を消す。

 そしてその瞬間には待ってましたとばかりに二方向からの強力な攻撃が叩き込まれる。

 ヒーロー側からはバズーカからの強烈な砲撃。

 英毅君からは地獄から召喚した業火が間欠泉のように吹き上がりヘドロを焼く。

 どちらも威力抜群だが、ヒーロー側の攻撃は貫通力が高かったのかヘドロに穴が開いただけであんまり意味ないようだ。反対側の壁までぶち抜きやがったな。閉めとかねえと。

 英毅君のは一度燃え始めたら地獄に堕ちた罪人を焼き尽くすまで消えない炎だ。ヘドロ退治に有用だと判断した通りに勢いよく燃えている。

 ……ヘドロがまき散らされないように閉じ込めとくか。

「————ッ!」

 ヘドロの声とも雄叫びかもわからない音が辺り一帯に響く。

 おいおい。閉じ込めた箱の中の音はほぼ外には出ねえはずなのになんて音量だよ!?

「行きます!」

「おうよ!」

 エリちゃんのお祓いの邪魔にならないように箱を一層を残して解除する。

「————ッ!」

 音量が数倍に上がったか!?流石にきついぞこれ。

「これ逃げて良いですよね!?」

「ああ。下がるならこれ持っていけ!」

 閉じ込めた謎生物入りの魔道具を渡す。

「それじゃ俺はこれで!」

 あっという間にバリアの外にまで逃げ出した。逃げ足速いなあいつ。

「————」

 ヘドロの大音量の中でも不思議と聞こえる凛とした声で謳うエリちゃん。その腕を振るうたびに少しずつヘドロが縮んでいく。

「準備しとくか」

 ヒーロー用に用意していた魔道具を準備しておく。

 エリちゃんのお祓いは詠唱する時間はそこそこ長いが、その特性上、短くすることも長くすることも出来ない類のものだ。

 だからこそ最悪の事態に備えて、準備をする必要がある。

「嘘だろ!?あのヘドロが縮んでいく!?」

「あたし達の攻撃じゃビクともしなかったのに……」

 ヒーロー共は驚きで逃げる様子はないようだな。

 有り難い事だが余計な手間追いかけっこは取らせないでくれるようだ。

 ゆっくりとエリちゃんのお祓いが終わるのを待つ。その瞬間を逃さないように細心の注意を払いながら。

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