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 いつの間にか超対とヒーロー共が協力して、ステインと思われる怪人と戦っていた。

「なんだあのヘドロみたいなの?祟り神かなんかか?」

 ジ〇リとかポ〇モンであんなのがいた気がする。あれは祟り神じゃなかったが見た目がそっくりだ。

 いろんなものを詰め込んで無理矢理人型にしたのか半端に人型っぽい見た目なのが逆に気持ち悪いな。

 これが不気味の谷って現象なのだろうか。いや人に近いわけじゃないからただ単純にヘドロの不潔さに生理的な嫌悪感を感じてるだけか。

『ステイン様……なぜここに?』

「は?」

 片手に持っていた魔道具むしかごの中から唐突にぬいぐるみが声を上げる。いつの間にかスイッチをオフにしてる。手持ち無沙汰に押しちゃったのかな?

「ステインって組織名じゃないのか?」

『……ステインは組織の名前でありボスの事を指し示す名前でもある』

「——あれがボスか?理性があるようにも見えんが」

 理性どころか思考すらあるようには見えない。考えて動くのではなく、反射的に意思もなく活動してる。

 人間や魔法生物みたいな知的生命体というより単細胞生物みたいな生命活動を単純化していった存在のようだ。

『ボスはボスだ。我々はボスから生まれボスへ還る。それだけだし、それ以外に目的は無い』

「組織っていうか生態だな。というかお前らステインだけですべて完結してないか?」

『我々のような子分は組織としてボスのエネルギーを得るために動いているのだ』

 本体であるボスから分裂して、分裂した子分が栄養を取り子分ごと吸収して栄養を吸収する。そういう生態か?

 それにしてもこいつ何か協力的だな?諦めたのか?

「じゃあなんでこんな所に?本体が動いて暴れる必要は無いだろ?」

『……そんなこと言われても知らない。ボスは急に他の世界へと飛び出して暴れだすことがある』

 あ、英毅君が地獄の炎まで召喚し始めた。これヤバいかもしれない。

 地獄の炎に耐えられないのかヘドロの塊の暴れ方が激しくなった。

 ヘドロの弾丸とでも言えばいいのか、身体を震わせてまき散らせる。

「うおっ!?壁ぶっ壊しやがった」

 すこし離れた所にいる俺の所でこの威力か。保身用に壁を3枚も張って無かったらヤバかったなな。

 近場で直撃したら死にかねない。現にヒーロー側は直撃を受けたのか遠くで吹っ飛ばされて動かなくなった。

「仕方がない。これ以上は様子見するのは止めるか」

 まずはこのヘドロ弾の根元から止めるか。

 これ以上辺り一帯を壊されたら直すのにどれだけの金が掛かるか。……あまり部下に任せすぎて手遅れになってしまったら、その責任でうちの支部の予算を減らされるかもしれない。

「ほれ」

 軽い掛け声を合図に左右前後と上を空気の壁で塞いで、ヘドロ弾を止める。

 そのまま合流するかな。

「へーい。大丈夫ー?」

「……なんと(ぜーはー)か(ぜーはー)生きて(ぜーはー)ます(ぜーはー)よ(ぜーぜー)」

「遅いです!面白がって放置してましたね!」

 バレテーラ。

 まあ敵う相手でもないのに戦わせ続けたのはよくなかったかな。いい訓練になると思ったけど、エリちゃんはキレてるし英毅君は疲労でぶっ倒れてるしで経験以外は特に得るものはなかったようだ。

 窮地で真の力が目覚めるとか、新たな力が使えるようになったら面白かったのに。

「碌でもないこと考えてますね?」

「まあね」

 あのヘドロの塊は空気の壁に身体をぶつけ始めた。

 ヘドロ弾が意味ないとわかったのではなく、これ以上は本体の体積を減らしたくないとのことかな?

「壁を三重にして中の壁が壊れたら、次の壁が圧縮し外に新たな壁を作って封じ続けている……」

 小声で化け物とか言うな。流石の俺でも一時的に行動不能に出来てもこいつを捕まえ続けるのは不可能だぞ。

 こいつを圧殺するのは俺の技量じゃ無理そうだし、いつもの窒息死が効かないのが一番きついな。

「俺も流石に疲れるよこれ」

 ん?動きが変わったな?

 蠢き方が変わって壁にぶつからなくなった。地面から逃げられても困るし浮かせるか。

「浮かせるのが一番面倒なんだよなあ」

「これは……」

 ヘドロの下に三角柱の空気の塊を押し込み、無理矢理動かして浮かす。

「……あんなに苦戦したのあっさりと」

 変に気にしなくてもいいのに。

「ただの適材適所だから気にしなくていいよ。物理特化の俺じゃこいつは殺せんしね」

 というわけでこいつを倒すことにしようか。

「私一人じゃ穢れが凄まじすぎて無理です」

「ならそこでへばってる奴の力も借りればいい」

 チラッと見ればようやく復活できたらしい英毅君が立ちあがるところだった。

「死ぬかと思った」

 膝がガクガクして立ってるのもやっとのようだな。

 あと気持ちはわかるがエリちゃん、そんなゴミを見る目で英毅君を見るな。肉体労働派のエリちゃんと同じ基準を頭脳労働派の魔術師に求める方がおかしいんだから。

「これに何ができるんです?」

「このヘドロを削るくらいは出来るはずだ」

 浮かしているヘドロが本体でさっきのヘドロ弾には命は無いようだな。ヘドロ弾を観察していたが動き出すことはない。あれはただのヘドロのようだ。

「というわけで英毅君ちょっと頼みたいんだけど」

「……なんですか?疲れてので帰って寝たいんですけど」

「こいつ倒したらね」

「……………………………………………………………帰りてえ」

 自分を偽る気まったくないなこいつ。欲望と本能がダダ漏れ過ぎる。

「それはいいですけど。あいつらヒーローたちはどうするんですか?」

 倒れているヒーローの一人を介抱しながら、こっちの行動を見守っているようだ。英毅君だけじゃ削るのにも限界があるだろうし……仕方がないあいつらも使うか。

「ああ、あれ?減刑を盾に協力させる。エリちゃんは協力を取り付けてこい。英毅君は準備ね」

「準備ですか?」

「さっきの炎なら削れるだろうしねえ」

 あからさまに嫌そうな顔をするな。

「……わかりました。どういう計画でいくのですか?」

「ん?それはだねえ――」

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