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 その場の勢いと先輩からの迫害自業自得から逃れるためにバリアの解析を行うはめになっているが、そうでなくても俺は解析をしていただろうと思う。

「これはこっちの回路かな?」

 あの時に解析した分と特殊な札に転写したバリアの欠片からバリアそのものを再現しようと動く。

 それにこのバリアにはどこか懐かしいにおいがする。主に俺の本業、召喚師系のにおいがわずかにする。

 召喚師の結界には召喚したものを一定範囲内でのみ実体化する結界があり、それを応用した形跡が見られた。異世界の魔術のはずなのにやけにあっさりと半分も解析できたのはそれが理由だ。

 最も残りは初めて見るなにかなのでどっちにしろ解析はこっからが本番であるが。

「なかなかうまくいかないもんだな」

「どーよ調子は?出来そう?」

「所長……」

 手が止まってるのを見て、話しかけてきたなこの人。

「半分が簡単だからって侮ってましたね。もう半分がこっちとはまるで別の理論を使ってるみたいで取っ掛かりがないんですよ」

 全部が全部理解できないならまだしも、半分解析してしまったがゆえに下手に投げ出すことが出来ないのである。

「手伝いにエリちゃんとか使う?」

「所長に手伝って貰った方がマシです」

「どういう意味だ?」

 うげっ。聞こえてたか。確かに魔術の専門家ではあるがそれでも。

「先輩と俺じゃあ魔術のベクトルが全然違いますからね。下手に手伝って貰ってお互いに不具合が起きたら最悪ですもん」

「陰属性など使うのが悪い」

「あー、まあそう言う意味です。所長はそこまで陽属性が強くないんでそれならそっちかなと」

 なるほどと納得して貰えたようだ。実際には能力者である所長は足手纏いだろうし、手伝うとか言われる方が怖かったがそこら辺はちゃんとわかっていたようだ。

 先輩はフンと鼻を鳴らして、道具整理に戻る。所長はもう少し話すつもりのようだ。

「あれ?半分は解析できたんだよな?」

「ええ。解析はしてますが解析できる半分じゃ意味のない術式ばかりで本当にお手上げですね」

 手をあげて降参をアピールする。ボーナス目当てだったけど下手に解けなくて罰則があるよりかはましだろう。

 だが、所長には別の所が引っかかったようだ。

?」

「はい。それっぽい意味はあるんですが、簡単に説明すると力を別の所に流すだけで――延長コードに延長コードを刺して無駄に長くしてるだけって場所が結構あるんですよ」

 簡単に解析できたことから解析妨害ダミーに引っかかったと見るべきだろうか。

解析妨害ダミーって事か?」

「それならそれでいいんですけど何か引っかかるんですよねえ」

 解析妨害ダミーなら使用魔力を無駄に引き延ばして肝心の術式の出力を下げるようなことをするだろうか?

 それも加えて話してみると所長は少し考えたようだが、途中で考えるのを止めたらしく

「今回のバリアの解析は英毅君に任せるからあんまり口に出すつもりはないが、行き詰ってる部下にあえて適当なこと言わせてもらうけど。戦闘で無駄は出来るだけ省きたいはずだしそれにもなんか意味あるんじゃねーの?」

 適当に言って依頼人が怯えるかもしれないからと隣の部屋へと追い出される。

 所長の言う事にも一理あるが、解析妨害ダミーならそれだけで説明がついてしまうのだが。

「あれ自体に意味があるとは思えんが……仮にあるとしたら?それはどんな意味がある?」

 まず真っ先に思いつくのは解析妨害ダミーだが、一瞬であそこまでの規模のバリアを張ることが出来るヒーローたちが解析を嫌がるだろうか?

 たまに映るTVとかを見る限り、そこまで魔術に詳しいようには見えないし、極端な話、頭が良いようにも見えない。

 他にはなにがあるのだろうか?

 転写したバリアの欠片を眺めてみる。やはり解析したこともあり半分はなんとなくわかるが、もう半分は未知の術式だ。

 ……あれ?

 

 もう一度、欠片をはっきりと見る。

 一度、疑問を持ってバリアを観察してみれば、見れば見るほどおかしな術式だ。

 例えるなら日本語と宇宙人の言語が混ざってた文章を読んでいるように、全く別のものが混ざっているのにそれが違和感なく調和している。

「となるとこの解析妨害ダミーかと思ったこれは変圧器みたいなものか?別世界の魔力なんかをこの世界で使えるように変えるために……?こっちに魔力を流せば魔力波でこっちの回路に魔力が流れる?それがありえるのならこの無駄にしか見えない解析妨害ダミーモドキも無駄じゃ無くなる。……それどころか最重要の部品になる」

 元となった魔力とかどう変換しているのかなどを解析する必要があるが、行き詰っていた状態よりかはだいぶマシになった。これで取っ掛かりは掴めたといってもいい。

 一週間もあれば本当に解析が終わるかもしれない。

「よし!気分が乗って来た!」

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