10

「終わったぁーーーーーー!!」

「五月蠅い!」

 ぎゃふんと吹っ飛ばされる英毅君。流石に五月蠅かったから擁護はしないけどな。

「ん」

「ああ、これはこうやってこうすれば解ける。それじゃ解いてみてごらん」

「ん」

「無視しないでくれません!?」

 クラウディアの宿題を見ていたら、しばらく研究に没頭していた部下に突っ込まれた。

 仕事しろよ給料減らすぞ。

「乳繰り合ってるの邪魔するのもアレかと思って」

「どこからどう見てもただの虐待ですが!?」

 知らんわそんなもん。

「で、なんでいきなり叫んだの。理由によっては真面目に減給するよ?明日までだからね期限」

「ようやく解析が終わったんで勘弁してください」

 あ、終わったんだ。

 毎回見るたびに寝てるかエリちゃんにシバキ回されてから仕事してるだけかと思っていたよ。

 クラウディアには少しの間、自力で勉強して貰うことにする。不満そうだが我慢して貰うしかない。不満そうだがしぶしぶ勉強するクラウディアかわいいな。

「解析が終わったという事はようやくヒーロー共を潰せるのか」

「あ、いや。解析終わっただけで無力化するための道具はまだ出来てないです」

「そういう事は早く言え!」

 勝手に勘違いしただけだろう。まあ解析できたのならすぐに何とかできるだろう。

 ここら辺までは夢日記の内容通りだな。しばらく予知なしだけど、問題はないだろう。

 元々、夢日記による予知はないよりかはマシと言うレベルなわけだし。本格的な介入にクラウディアを巻き込むわけにもいかないし。

「解析ってバリアの再現だっけか?キチンと再現できるのか?」

「えぇ。小規模な実験で再現を確認しましたよ」

「たまに結界張ってると思ったらそれか」

 魔術は門外漢だから何やってたのか知らないが解析できたのならよしとしよう。

「そのバリアの構成要素等の情報はまとめといてくれ。終わった後の報告書に必要だから。それ今日中に提出ね。終わったら帰っていいよ」

「……わかりました」

 嫌そうだが組織に属する以上は必要な事である。キチンと報告書に上に提出せんと怒られる所じゃ済まない。

 特に重役の一人がそこら辺に厳しいからどちらかというとルーズなうちの事務所では嫌がられる仕事ではある。嫌がらないのはエリちゃんぐらいである。

「ちなみにバリア無力化までどんぐらいかかるんだ?」

「無力化より排除無効の方が早くできますよ」

 逆のような気がするが本人が言うなら信じてやろう。時間稼ぎしたいのは見え見えだがこっちもいろいろ調べたいし載ってやろう。

「3人分作るとしてどれくらいかかる?」

「月末には」

 一週間半か。だとすると調べる時間としてはちょうどいい感じである。

 あと4人もそれくらいあれば判明するだろう。

「英毅君はしばらくそれに専念してくれ。エリちゃんは英毅君の報告書からヒーロー戦のための対策を練っといてくれ」

「へーい。その前に報告書か……」

「わかりました」

 二人はこれでいいとして

「む」

「どうした?」

 クラウディアが不満そうである。いったいどうした?

「あたしも戦う」

「いやクラウディアは戦えないじゃないか。というか俺が出させないよ」

 彼女に下手に怪我させるようなことをさせるわけにはいかない。エリちゃんが本気出せないし、俺があまりえぐい攻撃が使えなくなるという欠点しかない。

「む」

「誰が何を言おうとも参加させないからね。怪我させたくないし、怪我したらキレるから」

 エリちゃんがキレたら俺じゃ止めにくいだろう。エリちゃんをノーダメで抑えるのは厳しいし。

「先輩がですか?」

「私もですがそれよりも……所長ロリコンの方が危険でしょうね」

「いや俺が危険人物のようなこと言うなよ」

 この中では一番強いのは俺だが、それは相性によるものでしかない。場合によってはなにも出来ずに負ける。

「十分、危険人物ですよ。クラウディアちゃんこっちに」

「ん」

 え?なんで危険人物扱いされてんの?長い付き合いだから何となくわからんでもないけど。傷つくぞ。

所長ロリコンですから」

「別にクラウディアは年齢的に恋愛対象じゃないからな?」

「もっと下が好みという事ですか!?」

「おいちょっと待て。エリちゃんの中では俺の評価どうなってるの?」

「幼女の為にいくつもの組織を潰した危険人物ですよね」

 クラウディアと出会った時の事は例外みたいなもんだからロリコン扱いされるのは解せぬ。

「(いつもクラウディアちゃんにデレデレのあの所長が強い……?話を聞く限り強いらしいが……とてもそうには見えないけど強いのか?)」

 英毅君。英毅君。小声で何か非道いこと言ってるの聞こえてるから。そうは見えないってどういう事だよ。

 というか俺の普段はそんな風に思ってたのかよ。今度のバリアの件でミスしたらシメようか。

「む」

「不満なのはわかるが我慢して頂戴。暇な時に戦い方なら教えてあげる。……閻魔」

 ……自衛手段はあった方がいいし、それ自体は良いかもしれない。能力者である俺は体術はともかく、魔術なんてそういうのは俺は教えられないしなあ。特にエリちゃんみたいな変わり種は適正ないと使えない類だし。

「……なんでしょうか」

「暇ならクラウディアちゃんに召喚術でも教えてあげて頂戴」

 ……考えはわからなくもないがなんで忙しいであろう英毅君にそれを頼む。召喚術を学べば直接戦闘するよりかはマシだろうけど。

「……拒否権は」

「ない」

「ですよねぇ~」

「ん。よろしくしんじんさん」

 畳みかけるように頼むことで無視できない空気を作るあたり強かだな。それにクラウディアの中では新人さんで認識が固定されてるな。

「まあ、暇な時に教えるから。師匠と呼びなさい」

「失笑?」

「失笑するようなことしか言ってないからそれで良いかな(……師匠と呼ばれるもいいかもしれないわね)」

「おねえちゃん師匠?」

 あ、エリちゃんが萌え死した。

「俺のことは?」

「しんじんさんお茶入れてきて」

「扱いの差!?」

 クラウディアの中で格付けが完了しているらしい。いつの間にそこまで舐められるようになったんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る