9
悪の組織だのヒーローだの問題があっても日常的の仕事がなくなるわけじゃない。
「覗き?」
「はい。家の中で何かに見られている感じがしまして」
表向きは心霊系を扱う探偵事務所として出しているため、こういう依頼が後を絶たない。それは探偵の仕事じゃないというツッコミは禁止である。
別に広告もなにもしてないのになぜかちょいちょい依頼が来るのが謎である。
「粗茶ですが」
「……お構いなく」
神官服のエリちゃんがお茶を淹れてるのに気にしない辺り相当まいっているようだ。ちなみに部屋の隅でブツブツ言いながら解析の続きをしていた英毅君は相談者が怯えるので隣の部屋に放り込んでいる。
「その見られている感覚はここ最近になって感じ始めたんですか?」
「はい。先月辺りから視線を感じ始めて……」
「それは窓の外や玄関などの外からですか?」
「いえ、部屋の中で視線を感じてるんです。そのせいで着替えやお風呂なんかに入れなくて……。夜も眠れないんです……」
考えられるのは透視の能力かただの勘違い、或いは盗撮してるカメラあたりだな。
「なるほど」
「あの……。もしかして私憑かれてるんでしょうか?」
サインを出してエリちゃんが依頼人に霊的な焦点を合わせて貰い、真相解明を任せて情報収集を優先する。異能力関係ならともかく、妖魔等の霊能力関係ならエリちゃんに任せるしかない。
多少霊とかは感じることは出来ても、専門職のエリちゃんと比べるまでもない。
「それはないと思いますよ。今現在憑いているようならわかりますから」
俺にはぼんやりとしかわからんが、憑いてるなら入ってきたときにエリちゃん
「感じる視線方向は決まってますか?」
「方向……ですか?」
「ええ、どちらの方向から見られているか。方向が固定されてるかされてないかだけでも手がかりとしては十分ですからねえ」
まあ、大した情報にはならないだろうけど。気を逸らすには十分だろう。
「……すいません。よくわかりません」
「気にしないで構いませんよ。わからないのが普通なので」
エリちゃんが解析終わったらしくサインを出してくる。
「助手にあなたを霊視して貰いました」
「そちらの女性ですか?」
「そうです。それでは助手、後は頼む」
「わかりました」
そう言って、エリちゃんに任せる。
「まず結論から言いますが犯人は人間です」
「え」
「痕跡を見る限りおそらく幽体離脱しての覗きですね」
「え」
「貴女の家に行けば犯人をぶちのめせますよ」
「え」
「エリちゃん?お客さん混乱してるからちゃんと説明してやって」
「か、解決できるんですか?」
日頃の鬱憤を晴らしたいのであろうエリちゃんが怖いので釘刺したら依頼人に話を振られた。
エリちゃんが怖かったのだろう。わかるようん。
「はい。依頼として受け付けますよ?」
「お願いします!」
「……受け付けました」
こういうのをエリちゃんに任せると犯人逮捕どころか処刑しかねないので、俺も一緒に行くしかないか。
「とりあえず今から被害現場――あなたの家に向かいますか」
「わかりました。お願いします」
「それじゃあ行きましょうか」
行く前に英毅君に声を掛けておく。
「依頼で出てくるから留守番頼むぞー」
「これだと再現できないから逆にここに――ブツブツ」
聞いてないなあいつ。まあ、今日はクラウディアもいないから別にいいか。
☆ ★ ☆
依頼人の家までやって来た。
どこからどう見てもただのマンションだ。新築だしその土地に変な謂れがあるわけでもない。場所が悪いから起こったわけじゃないみたいだな。
「この部屋です」
「入っても?」
「あ、はい」
「お邪魔します」
「失礼します」
早速、あっちこっちを睨むエリちゃんに依頼人が怯えて背中に隠れる。エリちゃん敵探すためとはいえ怖いんだよ。
美人なのにキツめの印象があるから怖いんよねえ。黙ってれば美人なのに。おっぱいも大きくてモテ――ひゅん――こんな狭い所で木刀振り回すな危ないだろ。
「
「突っ込みきれないから妙にボケ無いでくれ。で、犯人出てきたのか?」
「ええ。所長に嫉妬して出てきたみたいです」
嫉妬?
ああ、依頼人がくっついてるからか。よく見たら変な靄みたいなのが出てきている。まとわりつくな鬱陶しい。
「とりあえず根元を潰して来い」
「わかりました」
どこに行くのかと思えば玄関ぶち抜いて隣の部屋に殴り込みをかけるエリちゃん。犯人すぐそこなのか。
「お隣はお知り合いで?」
「ええ。でも隣は女性だったはずですけど……」
「女性だからって犯人じゃないとは限らないけどな」
同性に対するストーカー被害だってあるんだから別に女性が犯人でもおかしくないだろう。
中から人とは思えない悲鳴と共に妙な靄も消える。
「殺してないよな?」
殺しても別に問題はないが、揉み消すのが面倒だから殺さないといいが。
まあ、エリちゃんは真面目だから生きてる人間には致命的な攻撃することはないだろう。
「大丈夫なんですか?」
「まあ死なないでしょう」
とりあえず中を覗いてみる。
「あとどんぐらいかかる?」
「死ぬ時以外幽体離脱出来ないようにしますので、もう少し待っててください」
妙に髪の長い女をボコボコにしてから、縛り上げているエリちゃんは札やらなんやらの道具で儀式を行っていた。
あれは死にかけの人間にかけることで死なないようにする儀式だったかな?魂が肉体から離れる幽体離脱には効果的なのだろう。
「わかった。こっちはこっちで簡単な除霊でもしとく」
「お願いします」
というわけで依頼人の部屋で簡単な除霊をする。
「これでもう霊的な覗き対策は終了です。週に一回程度に掃除すれば効果は永続しますので」
「あ、ありがとうございます」
「あんまり隣人がひどい場合、警察に相談してください。うちの名刺を持って行ってくれればすぐに対処してくれるです」
この名刺を持っていったら猶予無しで
「何から何まですいません」
「いえいえ。ちなみに料金はこれくらいです」
そう言って、一連の仕事の料金を提示する。大人とはいえ、大学生には少々高いかな。
「う……。思ったより高い……」
「そこら辺の似非と違ってぼったくりなんてしてませんし、キッチリ仕事しましたんで安い物ですよ」
「……わかりました。分割でもOKですか?」
「構いませんよ?5回払いまで受け付けてます」
その場合の期間と値段を提示する。
これなら払えるようだ。しばらく贅沢出来ないようだが、それに関しては知ったことではないので指定の口座に振り込んでもらうように契約を結ぶ。
ちゃんと約束を守るなら害はないし、この娘もそういうことにはキッチリしてるようだから問題ないだろう。
「ちなみに契約を守らないと大変なことになるんで気をつけて下さいね」
「何する気ですか!?」
「契約さえ守れば何も起きませんよ?」
多少釘を刺してから依頼人と別れる。これからバイトなんだそうだ。なかなかたくましい娘である。
そろそろエリちゃんと合流して帰ろうかと思っていたところで、予想外の人物を見かけた。
「ん?あいつは英毅君とデートしていた女の子じゃん」
たまたま外の道を歩いている姿を見つけたが様子がおかしい。
誰もいない空間にあたかも誰かがいるかのように話している。場所を見る限り飛び回る妖精のような感じだ。
目を凝らしてみるとなにもいないはずなのに、ぼんやりと何かが飛び回っているのが感知できる。
「こりゃあ一発で当たりを引いたかな?」
いろいろ探る必要がありそうだな。
くくく。これをうまく使えればヒーローも悪の組織も一網打尽に出来る。
楽しめそうだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます