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駅から徒歩10分。地図通りに寂れた道にその建物はあった。
「ここが今日から俺が働く場所か」
廃ビルと言われたら信じてしまいそうなくらい火箱相談所と書かれた看板は古臭いく何年も手入れしてないことは一目瞭然だ。
とりあえずチャイムを鳴らして中に招いて貰おう。
見た所、特定の条件を満たさないと認識できない&入れない結界が張られている。無理に入ろうとしたら弾き飛ばされるようだ。
「はいはい。どちらさんでー?」
「どうも」
出てきたのはボサボサの髪によれよれのスーツを着たどこにでもいそうなおっさんだった。
……見たことないな。てっきり親父の部下の一人かと思ったが俺の知らないという事は、そこまで重要な人物ではないのだろう。追い出されるように向かわされたしこりゃあ勘当されたか?
「今日からうちで働く新人だっけか。じゃあ他の奴にも紹介するからついて来て」
雑な対応だな。
いつもならウザいくらいに勝手に気を使われるのに。――そう考えると新鮮だな。親父の威光で機嫌を取られるか関わることを避けられることしかなかった。
そう考えると親父の計らいかね。
「どうした?」
「なんでもないです」
この人は細かいこと気にしなそうだし、だらけられそうだな。中々よさそうな職場かもしれない。
「二階が事務所で三階は俺の居住スペースだから、君の部屋のこと聞いてる?」
「アパートで独り暮らししろって言われましたね」
「ならいいや。それじゃ挨拶するから入ってね」
そう言ってさっさと入っていくおっさんについて入る。
「あなたが新人ですか」
そこには冷静を装っているがどことなく、そわそわとしている女性だけがいた。
あれ?これだけ?小規模な支部は大体5、6人って聞いてるけど二人は流石に少ないだろ。
「エリちゃん緊張してる?」
「気のせいです」
「ふーん?あ、こいつが今日付で配属になった閻魔英毅だ。ほら自己紹介しな」
どうせ、親父の手が回ってんだろうしやる気起きないなあ。ならいつも通りだらけて甘えるか。
「あー。本日よりーこちらにー配属にー成りましたー。
そう言って、さっさと空いているソファに寝っ転がる。あ、このソファ結構寝心地がいい。
「せめて、こっちの挨拶聞いてからだらけない?別にいいけどさ。俺は火箱健次郎って言う。一応ここの責任者だ。で、こっちが英毅にいろいろ教えてくれるエリちゃんね。エリちゃん後よろしく」
あれ?何か呆れられてる?
親父に俺のこと押し付けられたなら俺のことを聞いてたんじゃないのか?
「本日からあなたの教導をすることになりました神坂恵理華です。早速ですが閻魔英毅くん」
「なんすか?」
どうせ
「あなたには礼儀から教えないといけないようですね」
彼女の言葉と共にビリビリとした殺気が俺に当てられる。あれ?おかしいな?なんでこんな殺気を浴びせられるんだ?
「あのー?その木刀は何ですかね?」
「これですか?礼儀作法のなってない愚かな後輩を物理的に叩き直すための魔法の杖です☆」
教育的な暴力って体罰って言うよね?そしてそれは一切魔法じゃない。
「物理的ってそれただの木刀ですよね!?いやそんなので殴られたら俺死んじゃいますよ!?」
「問答無用」
「ちょっ!?危ね!」
転がり落ちるようにソファから逃げだし、そのまま先輩から距離を取る。
もしかしてここ親父の派閥に属する場所じゃないのか!?
いや、そんなわけはない。俺は一族の後継者として育てられたんだ。サボり癖はあっても処分されるほどじゃないはず!?
なら、本当にヤバくなったら止めてくれるはずだ。
「助けて下さいそこの偉い人!」
さっきの説明だと、この危険人物を止めれるのはたぶんこの人だけだ。
親父の部下ならきっと――
「それって俺のことか?あー、エリちゃん」
やっぱり止めるか。はぁー。びっくりした。そうだよなこんな所で親父の不評を買いたくは――
「
「一応、それ新人だから再起不能にしないようにね」
――あったようです。
嘘でしょ?ねえ嘘でしょ!?
必死にアイコンタクトを試みてみるが。
(親父に言うぞ!?)
(?)
あ、ダメだ通じてない。
「
「わかってねええええええ!」
うわっ!?掠った!?今、首元を掠ったぞ!?殺す気だこの人!?
「え、ちょっと冗談ですよね?」
「冗談は嫌いです☆」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
全身を木刀でボコボコにされて俺は悟った。
俺は本気で親父の庇護の無い場所に来たこと。
そして
「いてえええええええええええええええええええええ!!」
木刀で殴られるのは滅茶苦茶痛い事。
「あー。コーヒーが美味いな」
これからは自分の力でどうにかしないといけないという事を文字通り、身体で覚えさせられるという事をだ。
というか新人がイジメられてるのに呑気にコーヒーを飲んでないで助けてくれよ!?
自業自得だけれども!
「意外とタフですね」
「え?初めて言われましたねそれ」
おべっかならともかく生まれてからまともな評価を貰ったことないし。もしかして俺の実力がどの程度か把握するチャンスなんじゃ――
「ならもう少し力を入れても問題なさそうですね」
「ちょ――びゃああああああああああああああああああああ!?」
――そんなことより命の危機のようです。
誰か助けて下さい。
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