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「それは本当ですか!?」
狭い事務所の中、彼女は俺、
「なんかどこも欲しがらなくてなー。この前に人手が足りないって言ったからかこっちに回ってきたんだよねー」
どこも人手不足な上、最低限の実力があるとなればどこも欲しがるものだが、上が何処から連れてきたのかは知らないが今回の新人君に関してはよくある人材の奪い合いとしてのやり取りが全くない。
嬉しそうにしているエリちゃんには悪いが、これは厄介な物件を押し付けられたかもしれないという言葉を俺は飲み込む。人手が足りないことには変わりないのだ。本当に贅沢は言ってはいられない。
「つまり私の後輩という事ですね」
日頃の苦労が報われたとイイ笑顔で言うのは
見た目は気真面目そうな女子高生だが、なぜか木刀を帯刀している事でさらに鋭い雰囲気になっていて一般人は話しかけづらい孤高の戦士。
……のはずなのだがなにかのコスプレにも見えなくはない。最近では一般人になにかのコスプレだと思われて写真をねだられるらしく、よく愚痴っている。この娘、コスプレで押し通せば?と言ったらブチ切れるしどうすればいいんだろうか。
それはともかくとして、俺の管理する支部の中で最も下っ端かつ真面目な魔術師であり、うちで最も仕事している人間である。他の人間が全く仕事してないともいうがそこは気にしない方向で。
「そうなるねー。あ、新人研修はエリちゃん。君に任せることにするよー」
「わかりました。泣き叫ぼうが使えるように仕込みます」
せめて教育と言いなさい。
「使えるようになるんだったら教育でも調教でも構わないけど殺さないようにね?」
「わかっています」
小声でこれで仕事が楽になるとか言っているが、そんな簡単に仕事は楽にならないだろう。むしろ新人研修とかで仕事が増えて忙しくなることは頭からすっぽり抜けているようだ。ある意味幸せだな。
「……ま、頑張れ」
「それで新人はいつ配属になるんですか?」
「来週には来るそうだ。そいつの資料なんかはあとで渡すから今日の分すませたらちゃっちゃと帰っていいよー」
「わかりました」
そう言って今日の分の仕事を始めるエリちゃんを横目に一服する。
「仕事してください」
「いいじゃん一服ぐらい」
☆ ★ ☆
(主にエリちゃんが)ドキドキワクワクしながら待っていた新人がやって来る日となった。
「あー。本日よりーこちらにー配属にー成りましたー。
無気力なのを隠す気もなく彼は自己紹介をして、さっさとソファに寝っ転がる。
「せめて、こっちの挨拶聞いてからだらけない?別にいいけどさ。俺は火箱健次郎って言う。一応ここの責任者だ。で、こっちが英毅にいろいろ教えてくれるエリちゃんね。エリちゃん後よろしく」
問題児とは聞いていなかったが予想以上に扱いにくい駒のようだ。そして今にも怒りで爆発しそうなエリちゃんが怖い。あからさまに怒ってるんじゃなくむしろ笑顔なのが超怖い。
「本日からあなたの教導をすることになりました神坂恵理華です。早速ですが閻魔英毅くん」
「なんすか?」
ここに来てようやくエリちゃんの怒気に感づいたらしい。いろいろ遅い。遅すぎる。
「あなたには礼儀から教えないといけないようですね」
「あのー?その木刀は何ですかね?」
「これですか?礼儀作法のなってない愚かな後輩を物理的に叩き直すための魔法の杖です☆」
木刀を魔法の杖と言い張る奴初めて見たよ。ついでにあそこまでブチ切れたエリちゃんも初めて見た。
「物理的ってそれただの木刀ですよね!?いやそんなので殴られたら俺死んじゃいますよ!?」
「問答無用」
ザクッという軽い音を立てて木刀がソファを貫通する。英毅君は間一髪のところで避けたようだ。結構反応がいいな
とりあえず壊れた備品は二人の給料から天引きして新しいの買う事にしよう。
「ちょっ!?危ね!助けて下さいそこの偉い人!」
「それって俺のことか?所長と呼べ」
「所長助けて下さい!」
追いかけまわされているにしては元気だな。すぐに死ぬことはなさそうだ。
「あー、エリちゃん」
「
「一応、それ新人だから再起不能にしないようにね」
自業自得だが一応釘は指しておく。壊されて再起不能になっても問題だし、一日目で新人を潰したら下手すれば上から解隊されかねない。
「
「わかってねええええええ!」
キレたエリちゃんは一撃一撃が鋭い。新人をあっという間にボコボコにしていく。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
この先やっていけるんだろうか?
とりあえずブチ切れて我を忘れてるエリちゃんを止めるか。
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