「本当に申し訳ございませんでした」

「何に対して謝ってるのかはっきり言え」

 木刀を持った女の子にボコボコにされてマジ泣きで土下座謝罪している男の子がいた。

「舐めた態度を取って本当に申し訳ございませんでした!」

 言わずと知れたエリちゃんと英毅君である。

「本当に反省してる?」

「本当に反省してます」

「本音は?」

「もうボコられたくないです」

「素直でよろしい」

 それを見せられるこっちの身にもなってほしい。エリちゃんが怖いから矛先がこっちに向きそうなことはなんも言わないけど。

「SMプレイに励むのは「励んでません!」勝手だけどちゃんとこれ片付けなよ?」

 ほれと思いっ切り荒れた室内を指して言う。

 壊れたり無くしたら困るものにはとりあえず防壁を張ったがそれ以外はビックリするほど荒れ果てている。

 主にいろんなものを投げながらも逃げ回る英毅君とそれを迎撃しながらとっ捕まえてタコ殴りにしようとしていたエリちゃんのせいである。

「とりあえず二人はしばらく減給ね」

「申し訳ありません。頭に血が上り過ぎました」

「イタタタ……。え?給料貰えるんですか?」

「当然だろう?遊びじゃ無く仕事をして貰うからね。そこら辺はキッチリしてるよ。というか給料払わないと俺がクビ飛ばされるし」

 よくわからん秘密結社と違ってこっちは労働法が適用されるれっきとした仕事である。

「というか試験パスして入ってきたんじゃないの?あ、エリちゃんとりあえずそこの君が細切れにしたのは片付けておいて」

「わかりました。それ閻魔はどうしますか?」

 こき使いたくてうずうずしてるようだ。もう少し待ってもらおう。

「ちょっと話したら手伝わせるよ。ちゃっちゃと始めちゃって」

「……早くしてくださいね」

「ほいほい。で、英毅君どうなのよ?」

「いやー、親に試験受けてこいって蹴り込まれて受けただけで、ぶっちゃけよく知らないんすよ」

 親御さんは試験が厳しい事を知っているからそこで現実を知って貰おうと思って受けさせたのだろうか?

 だとしたら目論見が外れたんだろうな。合格してるし。

「よく合格できたね?」

「たまたまです」

「運が良い程度で受かるような試験じゃないんだけどなー。まあ、一応説明しとくか。詳しいこととかはあとでエリちゃんにでも聞いてね?しばらく君の指導担当だから」

 うげっとか言わない。それを聞いてエリちゃんが不機嫌入ってるから。

「日本超常現象対策課。通称:超対。幽霊から悪の組織まで幅広い超常の存在に対処するのがお仕事だ。一応、身分は特殊公務員ってことで給料は国から出てる」

 最も表に出せない仕事だから兼業でこっちに参加してる奴も結構いるんだよねえ。エリちゃんも高校の合間に仕事してるし。本業のことも考えるとあんまり強く言えないし。

「幽霊とかはわかりますけど悪の組織っすか?たまにニュースでやってるヒーローみたいなことをするんですかね?」

「いや、あいつらヒーローは勝手に悪の組織とやらと戦ってるだけだから。というか超対から見たらどっちも排除対象だな。どっちも無許可の武装組織だし」

 悪の組織は明確に世界征服とか痛いことを言っていて、ヒーローは世界征服を阻止するためとか言って戦っているが、分類上はどちらも国から逃げ回っている犯罪組織ヤクザである。

「え?そうなんですか?ヒーローの方は正義の味方っぽいですけど」

「正義の味方だったとしても、こっちからしてみたら変なスーツ着て戦ってる変態程度の認識でしかないし。暴れるだけ暴れて破壊痕とか直さずにいなくなるからな。悪の組織と戦う正義の味方とかなんの免罪符にもならんよ」

 ついでに言えば、異世界からやって来た侵略者を止めるために別の異世界生命体の力で戦ってるとか何の免罪符にもならない。

 というかあいつらヒーローが一般人を隔離するバリアとか言って異世界の力を持たない奴を追い出すバリアで先にいた俺らを追い出して邪魔するせいで被害が加速してるんだよな。

 悪の組織の方は適当な敵をとっ捕まえて元の世界の次元を特定して送り返すのが最短なのにヒーローとやらが問答無用で戦うからそれも出来ない。

「大体あの程度の悪の組織なんてヒーローが邪魔しなければ表に出る前に消せるレベルだからな。ヒーローが邪魔してるせいで表にまで被害が出てるだけで」

「もしかしてヒーローいない方がもっと早く解決してるんですか?」

「当然だろ。あんな素人に力与えて戦わせてようやく拮抗してるような連中に何を期待しろと」

 変身解いたら一般人に紛れるせいで特定が難しいんだよな。一匹でも捕まえれば芋づる式に一気に解決するのに。

「話が逸れたが超対の基本方針は早期発見早期根絶だ」

「ガンの検査みたいですね」

「まあ似たようなもんだ。俺らは一般ではありえないとされている存在に対する安全弁として戦うのさ」

 幽霊に魔術、超能力。果ては神の奇跡から異世界からの干渉までありとあらゆる超常現象あり得ない事に対して、見つけ次第対処するのがお仕事だ。

「はぁ……?あんまりピンと来ないですけどわかりました」

「それじゃあ入隊を記念してこれを渡しておこう」

 そう言いながら準備していたソレを渡す。

「真っ黒ですけどなんですかこれ?キーホルダー?」

「そういう風に使ってる奴もいるけど違う。認識票ドッグタグ……身分証みたいなものだよ」

 ほれと首に下げている先程渡したのと同じ黒いタグを見せる。

「今日は俺が連れてきたから無くても入れたけど。それないとここに入れないから。ちなみに無くしたら再発行できないから無くすなよ。新人を処分したく無いし」

「処分されるんすか!?」

 何驚いてんだこいつ?重要アイテム無くして処分お仕置き無しだとでも思っているのだろうか?だとしたら随分舐めているな。

「無くしたらね?それ通信機能とかGPSみたいな効果もあって割と重要なものだから人にあげたりしないように」

「無くしたら処分されると聞いて軽々しく誰かにあげるほどキモ据わってませんよ……」

 それ聞いても速攻で売り払って厳しい処分を受けた先人バカがいるんだが、ここでは関係ないか。

「今渡したタグそれとこっちの装置に血を一滴垂らしてくれ」

「契約かなんすか?」

「ここの支部の人間と登録するだけだ」

 ほれと水晶玉と箱が合わさったような妙な装置を指す。

 言われるがままに血を垂らすと、一瞬光ってから何事もなかったかのように元に戻る。

「うん。登録されてるな」

「これは魔道具ですか?」

「詳しくは知らないけどそうらしいな。これに登録させることでここの拠点への自由な出入りが出来るようになるらしい。あとタグの場所がわかるくらいかな」

 魔術畑の人間らしく、そこら辺は気になるらしい。今、話をしたこと以外知らないからこれ以上聞かれても答えられないけど。

「それじゃ、俺からはこれくらいかな?それじゃあ早速」

「仕事っすか?」

 仕事といえば仕事かな。自業自得だけど。

「掃除しろ。そろそろエリちゃんもキレそうだし」

「それでは所長。新人研修を始めますね」

「え?」

「はいはい。じゃ、後は任せるよ」

「えぇ!?」

「それじゃあ英毅君。暴れた分は掃除しましょうね?」

 こき使う気満々のエリちゃんのイイ笑顔を見て早めに話を切り上げて正解だったな。

「いやほとんどは先輩が壊したんじゃ「掃除しましょうね?」――アッハイ」

 この後、ノロノロと掃除する英毅君にまたエリちゃんがキレたがそれは語るのも面倒臭いので省略する。

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