学校の遅刻ギリギリの時間となると、窓の外からは慌てるように走り去っていく学生達が見える。不良にでもならない限り遅刻というのは嫌なことらしい。遅刻して怒られるのが嫌なのかもしれない。いや、内申点とかが気になるのかもしれない。

 とっくの昔に学校から卒業した俺からすれば気にすることではないが実家暮らしや一人暮らしで学校に通ういう事は時間に追われる事らしい。

 普通の社会人なら学生時代の方が忙しくないのだろうが、特殊公務員として秘匿されてる上に必要に駆られないと事件が起きない限り働かない今の職場はある意味理想である。

 ただ、仕事が入ったら鬼のように忙しくなるが。いや、それが社会人として普通なのか?

 それはともかくとして高校くらいは卒業しとけという親の意向と仕事したくないという英毅君の願望がかみ合った結果、英毅君は事務所の近くの高校に入学している。エリちゃんもそこの学生だし、先輩後輩の関係になるわけだが……あの二人実は相性悪いからなあ。真面目なエリちゃんと不真面目な英毅君では良くも悪くもかみ合わないからなあ。下手に事件を起こさないといいけれど。

「で、なんでここにいるの不登校児問題児?」

「学校なんてつまらん」

「学校に限らずどんなところでもつまんないものだよ。……楽しめないやつには」

「おい。それは私が楽しめてないと言ってるのか」

「そう言ってる」

「むー」

 フランス人とのハーフの上に白髪に白い肌、赤い目のアルビノという属性てんこ盛りの幼女。鳥見とりみクラウディア。

 特殊能力を持っている事で……なんかではなく、単純にアルビノというわけで見た目が物珍しいことと美幼女という事で、すごく目立つ上に見世物状態が嫌で不登校かつ学校の時間はうちの事務所に時間つぶしに居付いてる。

 人目につく彼女は割と人間嫌いなこの子はなんでか知らないけど俺に懐いている。

 ちなみに正式にはこの事務所の一員ではない。

「はいはい。ジュースでいい?」

「オレンジジュース以外認めないぞ」

「ジュース飲むのお前だけだからオレンジ以外ないよ」

 他にある飲み物は水とコーヒー。あとエリちゃん専用の紅茶がある。

「む」

 本格的に拗ねる前にジュースを注いで渡す。お茶請けとして戸棚に置いてあったクッキーを出す。

 こんな高級そうなクッキー買ってたっけ?まあ、いいや。置いてあるもんだし食べていいだろう。

 勝手に高級クッキーを出したことで放課後に事務所に来たエリちゃんにボコられるのは別の話。

「うむ。よきにはからえ」

「どこでそんな言葉覚えたんだい?」

「テレビ」

「時代劇かな?」

「うん」

 モリモリとクッキーを食べながら答えるクラウディア。ほっぺについた食べかす可愛い。

「それで今日のは?」

「ん」

 ランドセルから取り出した日記帳を受け取り、中身を確認する。


  4がつ○にち

 あくのそしきのむしのかいじんがまちであばれました。

 ひーろーがでてきておじさんたちをおいだしてかいじんをたおしました。

 おいだされたときにしんじんさんがばりあをかいせきできるといってかいせきをはじめました。


 しんじんさん?ああ新人さん――英毅君か。彼がバリアを解析する?なにか隠してるのか?

 あ、もう一日分ある。


  4がつ×にち

 しんじんさんがばりあをかいせきできたといっておねえちゃんがよろこびました

 むりょくかするためのじんができるのはもうすこしかかるとしんじんさんがいったらおねえちゃんがはやくいえとおこりました


 今回は珍しく二日分の予知が書かれてるな。

 一番近いのが今週の土曜日か。ようやくあのバカ共を排除するために有益なことが起こることがわかったのでとてもうれしいな。

 もう一つは来週だな。これが実現するのなら、上からいい加減に排除しろってせっつかれてる悪の組織とヒーロー潰しがようやく出来る。仕事が進む。

 報告しとくか主に一個目の日記。

「おじさん今日は何か書かれてた?」

「ああ。おじさんにとっては有益なことが書かれてたよ」

「ふーん?」

 クラウディアの能力は超感覚系C群に分類される夢日記。

 寝てる間に書かれる日記には、未来で彼女自身が見て聞いたことを日記のように書き記すという自動書記の類である。

 ただ彼女にはその日記を読むことが出来ず、本人には白紙の本にしか見えないらしい。また不定期で書き記すため毎日確認しないといけないためかなり不便だ。

 それに彼女自身の主観に基づいた情報しか書かれないため、欲しい情報が必ずしも得られるわけじゃ無い上に、書かれる内容もそれを知って行動すると下手すれば結果が変わるため本当に使えない。

 だが、指針くらいにはなる。

 それが理由でうちの事務所で保護しろという上からの命令で保護対象として扱うことになっているが、ガチの保護になるとどこかの超対の施設行きなので準職員扱いアルバイトとなっている。

「いつもいつもありがとね」

「大したことじゃない」

 彼女にとっては意識して書いてることじゃないからかあまり自覚してないらしい。

「それじゃちょっと待ってて報告してくるから」

「ん」

 そう言って確認した内容を報告できるところに報告する。

「——では、報告は以上です」

『了解した。報告を感謝する』

 電話を終え、ふと彼女を見るとおいおい。

「もうクッキー食べきったのか……」

「ん」

 その目は言っている。もっと食べたいと。

「今日はもうおやつなしね」

「む」

「不満そうだけどお菓子ばっか食べてたら昼ごはん食べれなくなるよ?」

「……わかった」

 不満そうだが素直ないい子である。

 かわいい。あとで昼御飯用に出前で何か頼もう。

 あとでエリちゃんに甘やかすなってキレられそうだが教育するのはエリちゃんの役目だし、甘やかすのはおじさんの役割だ。うんうん。

「なに一人で頷いてるの?」

「おじさんもいろいろあるんだよ」

「あんまり変なこと言ったらおねえちゃんに言いつけるよ?」

「それは止めて、真面目にボコられるから」

 あの子、真面目な上にクラウディアに過保護な上に手加減しないから下手なことすると昨日のアレがこっちに向くから本当に止めて欲しい。

「お昼はなにか希望ある?」

「口止め?」

「チガウヨー」

 棒読みになったのは気のせいだろう。

「それでなに食べる?」

「お魚がいい」

 魚か。

 刺身食べたいな。でも刺身だと出前としては微妙だし、安くて派手な丼ならちょうどいいだろう。

「それなら海鮮丼なんてどうかな?」

「うむ。よきにはからえ」

「お嬢様の御心のままに」

「越後屋よ。お主もわるよのぅ」

「いえいえお代官様ほどでは」

 ……今の時代劇でこんなベタな台詞逆に見ない気がするがどこで知ったんだろうか?いや、俺が知らないだけでテンプレとしてまだやってるのかな。 幼女とノリノリで悪者風のテンプレのような会話をするあやしいおじさんがいた。

 俺である。

「あ、ワサビ抜きで」

「わかってるわかってる」

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