22

 話は少し遡る。

「俺達二人を相手しておいてまともに戦えるとは、お前本当に人間か?」

「鍛え方が違う!」

 赤い方は剣、青い方は槍――というより棒か。飛び道具がないのは幸いだったな。

 それに連携が取れていない。

「行くぜ!」

「ああもう!突っ走るなと言って――ッ!」

 赤が特攻をしかけて、それを青がそれをフォローする。といえば聞こえがいいが、バカが考えなしに突っ込んでそれを青が助けてるだけである。

「ふう――はっ!」

 それを受け流し、一撃を加えて追撃をせずに距離を取る。

「何度繰り返したら気がすむの?」

「悪い悪い」

 反省してるようには見えないが、膠着状態に陥っているのは単純に青山先輩の存在が大きい。

 赤羽先輩のフォローだけでなくこっちの隙を的確についてくる為に、あまり踏み込んだことが出来ない。手札が丸見えのバカと違ってほとんどなにもわかっていない。それに一対一ならともかく特に考えずに突撃してくるバカの対処もあり、戦闘のリズムがかみ合わない。

 これは――やりにくいことこの上ない。

「その動き。剣術というより舞の動きに近いですね」

「——我ら武装巫女は元々は神へ剣舞の奉納を主な仕事としていた。その名残だろう」

「ん?どういう事だ?」

「わからないなら黙ってて」

「はい」

 情報では赤羽先輩がリーダーという話だったが実際の力関係は少々異なるようだ。

「それが本当ならなぜこのような場所で戦うのですか?」

「妖魔の穢れを祓い民を救うためだ。理解して貰おうとは思わん」

 例え妖魔が友であろうとも、救うべき民に恨まれても戦い、祓って救わなければならない。

「そう。優しい上に覚悟もあるのね」

「……人心を惑わすそいつらを放っておくわけにはいかない。そいつらを渡してくれないか?」

 なんていうかあまり戦いたくないタイプの人だ。正直、苦手である。

「わたしは構わないけど……」

「1号たちは俺達の仲間だ!渡すわけにはいかない!」

「——というわけでごめんね?」

 なるほど。惚れた弱みというわけか。

「……これなら怪人を相手にしていた方がマシだったな」

 今更後悔しても遅いが仕方がない、さっさと倒して

 ――ボッ

「なんだ!?」

 所長の方から何か光っただと!?

 その方向を見ると所長は怪人相手に何か話している。どうせ煽って撃たせたんだろう。あまり気にしなくてもよさそうだ。

「魔法空間が破られた?!」

 ん?上の方で妙な気配が?

「なんだあれは?」

 割れたバリアから何かが入り込んでくるのが見える。チラッと所長の方を見ると煽るのに夢中で気がついていないようだ。

 変な所で役に立たないなあの男。

「ヘドロの塊……か?」

 人型のヘドロがそこにはいた。

「穢れが溜まり過ぎている。アレを一人で浄化するのは厳しいか」

 人型のヘドロとは言ったがどうもいくつもの塊が寄り合わさった姿のようだ。よく見ると無理矢理様々な動物の要素を組み込まれたキメラが偶然人型に見えるだけという感じだ。

 アレを相手にするのは最低でも同業者があと二人は欲しい。アレは祟り神クラスの化け物だ。

『1号あいつ!』

『ああ、俺達の故郷を滅ぼしたあいつだ。とうとう見つけたぞ!』

『ステインめ!この世界も滅ぼす気か!』

 どうする?

 流石にこの二人と戦ってる場合じゃ無くなったぞ。アレを放置すれば下手すれば町どころか国が消えかねん。

「先輩!なんすかアレ!?言っとくけど俺は召喚してませんからね?」

「あんなものを召喚できるならとっくに貴様を切っている!ともかく合流しろ!」

 閻魔の手を借りるのは癪だがそうも言ってられない。いやそれ以前に。

「……提案がある」

「いいわよ。私達はアレ倒さないといけないし、あなた達も放っておけないみたいね」

「……不愉快だが倒すのに協力したら減刑する」

「詳しくは?」

 背に腹は代えられない。

「何があっても処分予定だったその妖魔を追放するだけで許そう」

「ま、いいでしょ」

 これで急ごしらえの共同戦線を組めた。協力して倒すなんて無理だがお互いの邪魔をしない程度の事は出来るだろう。

「動いてない今刺激するのはマズい。下手すれば一瞬でやられるぞ」

「とりあえず私たちは左側から攻めるから、あなた達は右側からというのはどう?」

「合図は私が出す。それまで攻撃はなしだ」

「突っ走らないように気をつけるわ」

 そう言って陣営ごとに二手に分かれる。

「あんなの見たことないですけどなんですかねあれ?見た感じ神様クラスですけど」

「恐らく穢れ過ぎて神ではいられなくなった存在のようだ。今までにいろんなものを呑み込み存在を肥大化させてきたのだろう」

 元に戻ろうといろいろ試して取り込んでツギハギだらけになっていき、いつの間にか最初の目的もやりたかったことも見失ったのだろう。

「どうするんですか?あれ本当の意味で倒せるの先輩だけですよ?」

「だろうな」

 他の奴らでは膨張するのを多少抑えられても最後にはあれに取り込まれかねない。穢れを祓える私以外には根本的にダメージを与えられないだろう。

「元の世界に送還することも考えましたけど、元の世界の次元を知りませんし。それってその場しのぎにしかならなそうですよねー」

 そう言いながら召喚した存在を送還しているあたり、状況はよくわかってるらしい。

「私では強大すぎて浄化しきれない。封印でもできれば別だが」

「あれ相手だと俺が召喚する奴ら全体的に栄養になるだけですし、ちょっと困りますねー」

 結論は出ない。だが、そうも言っていられないようだ。

「——動き出しやがった!」

「仕方がない――おい!攻撃開始!」

 その合図で左右から挟撃する形で攻撃を開始する。

「これ制御できないからあんまり出したくないんですけどね!召喚サモン地獄の業火ヘルフレア!」

 悪行により地獄に堕ちた亡者を燃やす炎か。

 あれ自身の再生力のせいで増殖と拮抗するのが精いっぱいのようだが、それで構わない。

「それでは場を区切り浄めましょう」

 縄と杭を使って結界を作り、浄化の効果を底上げしていく。他の奴らの魔術の余波であまり増幅できないが仕方がない。

 浄化の力を弾のように打ち出して削る。今の私にはそれしかできない。

「所長。後は頼みます」

 あとは所長に何とかしてもらうしかない。あの人はこの場の誰よりも強いのだから。

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