20

「——行け!牛頭馬頭!」

 牛頭と馬頭の強烈な一撃によってヒーローたちを分断する。

 僕の担当は黄色と緑とピンク。牛頭と馬頭、頭数では同数ではあるが俺自身は戦闘能力はあんまりない。実質、二対一である。

「牛頭は黄色、馬頭は緑を相手しろ!」

「…わかった」

「了解よぉ」

 よし、残りのピンクに対しては逃げ回って時間稼ぎでどうにかしよう。

「閻魔くん?」

「ん?誰だお前?」

 声を掛けてきたピンクの何某かの正体はわかってはいるが、あえてすっとぼける。

「大人しく降伏するならもしかしたら罰則が軽くなるかもしれませんよー」

「それなんの保障にもなってないですよね?」

 まあね。別に安心させるつもりも説得するつもりもないからそんなこと気にしてないけれど。

「(気づかれてないならこのまま正体を明かさないようにして――)」

『あー!あんた明のクラスメイトの怪しい奴じゃない!やっぱりステインに与したのね!?』

「早速ばらさないで!?」

 向こうもバレたくなかったみたいだな。相方が無能だから速攻でバレたけれど。流石にこれ以上は誤魔化せんか。

「ちげーよ。大体あそこで怪人とっ捕まえてるのにステインとやらに与してるわけねえだろ。それと誰かと思ったらその謎生物連れてるってことは桃乃かよ。仕事増やさないでくれない?」

 こっちが気づいていないフリするのにも限界みたいなので今、気がついたフリをしておく。

「閻魔くんは一体何を?」

「何って――」

 黄色を追いかけまわしてる牛頭と緑をあしらってる馬頭を見る。

「——弱い者イジメ?」

『取り締まりだ!』

「うおっ!?聞こえてた!?」

 向こうの方で二対一で戦い押している先輩の怒鳴り声に驚く。なんで聞こえてんだあの人!ホントに人間か?

「まあいいや。その謎生物を引き渡してくれない?」

 それ捕まえれば最低限の仕事をしたことになるし、引き離せば力の供給が途絶えるため、普通の生活に戻れるだろう。

「……5号を?引き渡したらどうするつもり?」

「侵略的外来種。もっと簡単に言うと侵入種がどうなるかなんて少し考えればわかるんじゃない?そいつらは一般人を唆して戦わせてるんだから、あんたらの罪は軽くなる見込みだけど」

 そこら辺の罰則なんかの規定は詳しくないから、所長の受け折りだけど。

「……駆除ですか」

「元の世界に追い帰すって可能性もあるけどね。それが適応されるかどうかは――あれだ。署で聞きますよって感じだ」

 うまく言い訳すれば処分されることはないだろう。それでも追放されて二度とこっちに入り込めないように細工されるだろうけど。

「5号たちの故郷である魔法世界はステインに滅ぼされています」

「ふーん。で?」

 そいつらが弱いからじゃね?

「可哀想だと思わないんですか!」

「思わないね」

「あなたは――っ!」

「だいたいさー」

 何にキレてるのかわからないが、とりあえず自分の意見を言う。

「その謎生物の故郷を滅ぼしたのがステイン?とやらならさー。その謎生物の力で戦った所でステインとやらには勝てないだろ。故郷を滅ぼされかけてるのに本気を出さないバカはいないだろうし」

『……あたしたちじゃ勝てなかったのよ。特に力を持ってたあたし達5体と同じ――いやそれ以上の存在が数で圧倒してきたのよ。勝てるわけないでしょ』

 知らんわそんなこと知らんわ。残念なことに相性が悪かったとしか思わねえが、同情するとでも思ってるんだろうか?

「それはご愁傷さま。だからと言って一般人を唆して戦わせた罪が消えるわけじゃないけどな」

『唆してない!ただこっちの世界で戦うにしても魔法体じゃ勝ち目がないから相性のいい明にお願いして一緒に戦って貰ってるだけよ!』

「それを唆すというんだけどな」

 魔法体……霊体の事かな?物質界では影響力が低くなるんだから低級以下雑魚が戦えるわけないだろうに。

「総合的に考えると人に憑りついて暴れる悪霊だな。除霊しとけって言ったのによう」

『だからあたしは悪霊じゃなーい!』

「大して変わらんだろ。むしろ何が違う。で、ここまで茶番に付き合ってやったんだ。降伏するの?しないの?」

 さっさと降伏しろと目線で促す。しかし

「それは無理です。確かに五号たちは負けてこちらの世界に逃げてきたのかもしれません。ですが、この世界を救うため、故郷を取り戻すために戦っているんです。それを否定させません!」

『そーだそーだ!明とあたしは一心同体だ!』

 結局こうなるのかよ。ならさっさとどうにかするか。

「降伏勧告はした。こっからは手加減なしだ」

 時間も十分稼げたし、もう戦闘できるくらいストックも堪ったしな。

 パチンと指を鳴らし、辺り一帯から召喚する。

「なに?これ!?」

『あんたやっぱりステイン側の存在でしょ!』

 謎生物の声はあえて無視する。

「鬼火――ウィルオウィスプの方が有名かな?こいつらは人間や動物の死体から生じた霊、もしくは人間の怨念が火となって現れた姿。簡単に言えば恨みつらみを燃料に燃えている幽霊だ」

 辺り一帯から召喚された鬼火はおよそ千。思ったより少ないが雑魚相手にはちょうどいいだろう。

「つまりアレだ。俺みたいな召喚師サモナーからしたら鬼火は手頃な弾丸って所だ。BANGバーン!」

 そう嘯き、鬼火を打ち込んでいく。

『ちょっ!?掛け声軽い割に数がおかしい!』

大きな魔法の盾マジックガード!」

 盾――いや壁か?それを召喚――いや具現化かな?して鬼火の爆撃を防ぐ。一発一発が鉄板くらいなら凹ませる程度の威力はあるんだけど頑丈だなあれ。

「子供ながらに思ってたことがあるんだけどさー。特撮なりアニメなんかで正義の味方とかがわざわざ敵と正々堂々戦うけどさー」

 一拍置いて言う。

「最初っから必殺技使って相手に何にもさせずに倒す方が絶対いいよね?」

 あの壁、見た所前方の一方向からの攻撃しか防げないようだな。――なら全方位からぶち込めばいい。

「先に言っておくけど。死んでも責任取らねえからな?」

「ちょっとm――」

BANGバーン!」

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