16

 事務所内に化け物がいる。

「…なに?」

 牛の頭の獣人がこちらを気だるげに見てくる。

「なにか文句でもぉ?」

 馬の頭の獣人が苛立たしげに見てくる。

「いや何も」

 人化してない本来の牛頭と馬頭である。普通に見た目が大きな化け物なので圧迫感というか、恐怖感というか。

 エリちゃんが除霊の仕事に出ててよかったな。あの娘は妖魔が大っ嫌いだし、これ見たら襲いかかりそうだ。

 ……次の作戦で一緒に行動できるかなあの娘?公私混同はしないと思うけど作戦前にキチンと釘刺しとくか。

 お互いが干渉しあって戦力低下とか笑えないぞ。

「ん!」

「すごいわよねぇ。あたしたちを召喚できるとは将来有望よぉ」

「…精進しなさい」

 化け物と幼女の会話を横目に英毅君に小声で話を聞く。

「(英毅君英毅君。クラウディアに何を教えてるの?どう考えてもあの二体の召喚を教えるのには早いよね?というかあんまり戦闘に繋がる事を教えないようにって言ったよね?)」

 牛頭と馬頭の召喚が初心者であるクラウディアにはレベルが高くて適性ではないと思うんだが。

「(あの二人牛頭と馬頭の召喚方法に関しては教えてないですよ。……というか難易度が高すぎて初回で狙って成功させるとか俺でも無理です)」

「(あれ英毅君が教えたんじゃないのか?)」

「(違いますよ。俺がいつも召喚してる召喚陣を見て覚えて召喚してみたいです……。俺召喚するまで半年かかったのに……)」

 あ、若干落ち込んでいる。でもあのレベルの化け物を半年で召喚出来るまでこぎ付けるって普通じゃないぞ。

「(ん。覚えるだけだったから簡単だった)」

「(結構難易度高いんだけど簡単って。やっぱり天才って奴ですかねえ)」

「(ん。私天才)」

「(初めて一か月も経って無いのにあそこまで出来るとか才能に嫉妬しちゃいますよ)」

 おい気付け英毅君。途中から会話してるのクラウディアだぞ。

「…私達が選んで来た」

「そうよぉ。魔力に覚えがあったからねぇ」

「つまりクラウディアの才能じゃないわけ?あと狭いから出来れば人化してくれ」

「わかったわぁ。ほら牛頭も」

 小声で話してたのはバレてたようなので普通に話すようにする。あっちではようやく気づいたのか叫ぶ英毅君をクラウディアが牛頭に命じてぶっ飛ばす。おい、事務所を壊すなよー。

「才能もあるわよぉ?3:7くらいで私達の力だけどぉ。あと牛頭ぅ。人化しなさぁい。部屋が壊れてるわよぉ」

「まあ、そこまで天才じゃないか。それともっと早くに止めてくれ」

 そこまで天才だったら別の意味でクラウディアが狙われる羽目になるだろうし。それでよかったかな。

「ん。これで私も戦力になる」

「……ああ、そうだね」

 ……この子もしかして次の作戦に危険かつ身の安全を確保できないって理由で参加させない事にしようと考えてたのバレてる?

 それで戦闘力になろうと召喚出来るように努力した?

「次は私も参加する」

「……いや、危ないから流石に参加は見送りで」

 怪我させられないからね。何を言われても前線に出すことは出来ない。というか安全確保できないから参加させたくない。正式なメンバーでもないしな。

「む。出る!」

「安全なら先に私達を召喚してれば問題ないわよぉ?」

「俺の負担がデカいんで多少は減らしてくれてもいいんじゃないですか?」

 お前ら他人事だと思って。

「リスクの問題だ。混戦となったら召喚師とはいえ流れ弾で危ないかもしれないだろ。うちの事務所で一番価値があるのがクラウディアなんだからな?お前らの命より圧倒的に重い」

 下手に怪我させたら重役たちに怒られるどころか処刑されかねない。せっかく上に持ってかれないように安全守るのには俺がいれば十分って言ったりして、いろいろやってたのに台無しになるかもしれん。

「ん。死ぬ気で守れしんじんさん

「英毅君を盾にするならありか?最悪、英毅君が死ぬだけだしそういう呪いをかけて――」

「あ、ごめんなさい。面白そうだからって適当に煽ってすみませんでしたー!!」

「じゃあ最初っからやるなよ」

 そう言いながら取り出したよくわからない呪いの道具を封印し直す。……これ処分すんの忘れてたな。エリちゃんに処分して貰わないと。

「む。ダメ?」

 上目遣いで俺のこと見てもダメだからね?可愛いけど。

「ダメだね。クラウディアの安全が最優先だ。前線なんて持って他だ」

 おい。速攻で却下したからって何とかしろって英毅君にあたるな。無理だろうけどその人任せの精神は

「あのー、召喚してから後方にいて貰えばいいんじゃ?召喚師の基本戦闘パターンはそんな感じですし」

 ……その発想はなかった。

「む?」

 それなら文句ないだろと見てくるクラウディアの決心は固いようだ。落とし所としてもここが限界かな。

「……それなら参加させてもいいかな。よく考えたら前線要員求めてないし」

「む」

「不満みたいだけどクラウディアは敵と殴りあいたいの?」

「む。我慢する」

 除霊とか教えてるエリちゃんに直接戦闘教えないように言っとくか。あの娘、今度剣術教えるとか言ってたし……手遅れな気がするけど。

「それならいいか」

 正直、戦闘に参加させるのは反対だが変に遠ざけて意地になられて怪我されても困るしな。

「それじゃあ俺も召喚の監督として」

「英毅君は前線だからね。前回サボった罰だ」

 それに対ヒーロー戦では重要な役割を果たして貰わないといけないといけないからな。主に時間稼ぎとして活躍して貰わないと。

「ですよねー……はあ」

 自業自得だよ。

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