13

 黄瀬と緑山の監視することになったので遠くから監視することにした。本日は黄瀬の監視である。

 同行者はいつもの登校拒否児ことクラウディアである。一応、小学校に連れていこうと思ったんだが駄々こねられたので諦めて連れてきたわけである。

 授業中の監視しても特に意味ない気がするがよく見たら口が動いてる。小声で誰かと話してるみたいだ。

 んー。あれとの個人的な波長が合わないからかピントがうまく合わないので、ぼんやりとしたものがいるくらいにしかわかんないなあ。

「ん」

 双眼鏡を覗いていたらクラウディアに服を引っ張られたので視線を外すとなにか言いたい様子。……ああそういう事か。

「あれはっきり見えるの?」

「ん」

「どんな姿なのかわかる?」

「鳥のぬいぐるみ」

 そう言われればそう見えなくもない気がする。ぼんやりとしか見えないからそう言われればレベルなので見わけはつかないが。

「他になにかわかる?」

「授業聞いてない」

「確かにそうだけど。それ君が言う?」

「私は行かないだけで行ったら授業は聞く」

 保健室登校が何言ってんだろうか?というか保健室登校って授業あるのだろうか?

「む」

「ああ。ごめんごめん。それで他になにかわかる?」

「結構なお調子者」

「笑わせようとしたようだけど滑ったようだな」

「あとあのマスコット悪い奴じゃない」

 それは予想出来た事だけどまあ知ったことじゃないな。害があるなら絶対処分、害がないだけで使えないなら追放あるいは処分、使えるのなら場合によっては味方下僕にする。

 基本方針は処分である。それに処分が後先考えずに処理するなら一番楽だしな。

「悪い考え持って無くても害があるならどうにかしないといけないんだよ」

 野生動物がわかりやすいだろうか。山から下りてきた動物は害があるなしに関わらず対処しないといけない。

 前に熊が山から下りてきたから狩猟したというニュースがあったが、それに対して可哀想なことをするなという苦情が寄せられたそうである。

 狩られた熊が可哀想という直情的な考えなのかもしれないが、熊が人の味を覚えたら狩りやすいから積極的に人を襲うようになるという情報はそいつらの頭の中には入って来ないのだろう。

 熊ではわかりにくいなら猫ならどうだろうか?

 そこら辺に野良猫がいる状態なら誰も文句は言っても積極的に駆除しようとは思わないだろう。

 ならばその猫が虎やライオンほどの大きさなら?それが街中をうろついているなら駆除するなって言えるだろうか?言えないであろう。

 熊や猫が悪いというわけではない。放っておいたら最悪なことになるかもしれないという条件があるなら大多数の誰かの為に何とかしないといけないのである。

「……殺すの?」

「あの謎の生物が危ないならね」

 ……これ以上観察してても意味なさそうだな。飯食ってから緑山の方の監視に動こうか。

「早めにご飯食べに行こうか?」

「ん。ハンバーグ」

「じゃあ、ファミレスかな」


   ☆   ★   ☆


「こちらクラウディア。こちらクラウディア。聞こえますかどーぞ」

「こちら所長。こちら所長。聞こえますよどうぞ」

「たいしょうに動き無し。どーぞ」

「了解しましたどうぞ」

 すぐそばで無線で遊ぶ大人と子供がいた。俺達である。

「周りを飛んでるのが何かわかりますかどうぞ」

「お魚みたいですどーぞ」

 魚って、それが空中を泳いでるのか?シュールだな。

「……魔法界とやらどんな世界なんだ?」

「知りませんよどーぞ」

「いや、今のただの独り言だよどうぞ」

 口に出てたか。それにしても動物型のぬいぐるみが話してると考えたらファンタジーというかファンシー……いやシュールかホラーかもしれないな。

 よく考えたら動くぬいぐるみとか普通に恐怖だったな。

「紛らわしいですどーぞ」

「ごめんなさいどうぞ」

「許してやろう。どーぞ」

 やっぱりピントが合わないからぼんやりとしか見えないなあ。見えにくいから干渉されにくいけど逆にこっちからも繊細な干渉できないから良し悪しだなあ。

 逆に鮮明に見えてるっぽいクラウディアに対して対抗策を身に着けさせることは急務だな。エリちゃんと英毅君の魔術講座が前もって役に立つとか予想外すぎる。

 この子特異能力者……つまり超能力者という分類なのに魔術まで実践レベルまで身に着けたら、自分の意志では扱えない能力が薄れていって魔術師として登録しないといけなくなるかもしれない。

 通常の超能力なら魔術を使えば使うほど超能力の出力が下がってどっちも中途半端になるから使わせないべきなんだろうけど、クラウディアの能力である夢日記は例外的な特異能力にあたるのか通常の超能力と同じように特異能力が使えなくなるのかまったく判断がつかない。

「対象は真面目みたいですどーぞ」

「秀才タイプっぽいし日々勉強してるんでしょうな。どうぞ」

「あたしも秀才ですか?どーぞ」

「クラウディアは秀才よりの天才だと思いますどうぞ」

 真面目に勉強していて面白くないな。これ以上監視しても意味なさそうだ。

「こっち見てます。どーぞ」

「本当だな。気がつかれたか?どうぞ」

 一応、数百Mは離れてるはずなんだが目がいいのか勘が鋭いのか。ともかく気をつけた方がいいな。

「お魚さんが怪しい動きしてますどーぞ」

「そういえば忙しなく動いてるようにも見えるな。他にはなにかわかりますかどうぞ」

「時々止まってなにか話してるようですどーぞ」

「あ」

 目が合った。こっちを認識したかな?

 何はともあれ今日は撤退した方が良さそうだな。

「それでは撤収しますどうぞ」

「OKです。片付けますかどーぞ?」

「手伝いをお願いしますどうぞ」

「OKですどーぞ」

 あの魚が索敵の要なら早めに潰しといた方がいいな。もしくは利用するか。こっちの事を認識したのなら俺らの事をどう考えるかだな。ただの変質者ととるか、悪の組織ステインととるのか。

 まあ、超常現象対策課という事まではわからないだろうが、そこまでわかるんだったら協力して悪の組織ステインを倒した後に不意討って倒すのが一番いいだろう。

 機材等を片付けてから車に積み込み事務所に戻る。さてさて、どうするのが一番楽で被害が少ないかな?

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