第13話 恐れるもの
「ご無事ですか!?」
闘技場から外へ案内された三人に、イネスが駆け寄ってきた。
「……」
「……」
「……まぁ」
三人は三人ともひどく疲弊していて、彼らの相手をする余裕すらない。
「本当に……ご無事でよかった…!」
そう言って三人の前に膝をつくイネスに、裏があるようには思えなかった。
彼は心底、「神子」という存在を必要としているのだろう。今日一日の中でも、彼がどれだけ「神子」に傾倒しているのか、いやでもわかった。
だが。
――この世界は、どうだろうか……――
「神子」を必要とし、こうして心底身を案じるものがいる一方、役に立たなければ死ねばいいと、簡単に殺そうとする者までいる。
どちらが真意なのか、三人ははかりかねていた。
「……疲れた」
つぶやいたのは留だ。一応の危機を乗り切ったことで疲れが一気に出てきたようだった。今にも座りこみそうだ。
「……魔術の行使は精神的に疲弊する。慣れない身ではつらいだろう」
「ハインケル邸へ行きましょう。あの方ももう無茶をさせるようなことはないと思います。今日はもう、夕食をいただいてゆっくりと休みましょう」
そう言って、三人を馬車のような乗り物に案内する。
「寝たい」
「おなかすいた」
那毬と誠も歩きながらつぶやく。
けれど、考えることは山積みだ。ゆっくり休んでばかりはいられないだろう。
「神子様」
車に乗り込んですぐ、イネスが口を開いた。硬い表情をしている。
「ハインケル伯爵は乱暴な手段をとりましたが、選別式自体は正しく行われました。力に、目覚められましたね?」
「……」
直球で投げられた言葉に、どう答えていいものかと三人は口ごもる。
はい、と頷いてしまうのは簡単だが、三人目の、「箱」と「鍵」以外の神子がどうなるか、この状況ではわかったものではない。イネスは共に行動できる、というようなことも言っていたが、ハインケル伯爵の態度を見る限り、それも怪しいものに思えた。
能力が判明した瞬間、一人だけ離されることもありうるのだ。それだけは避けたかった。この世界のことを、ほとんど知らない今の状況では。三人以外、頼る者がいない状況では。
「……よく、わからない、です」
長い沈黙の後、答えたのは誠だった。
「何か、違う、けど……箱とか、鍵とか、よくわからない」
嘘だった。三人は自分がどのような能力を持ったかをすでに知っている。
「それは、どの力を持っているか、種類がわからない、と?使い方がわからない、と?」
「どっちも……」
「いま、使って見せることは?」
黙って首を振る。
那毬も留もそれに倣った。
「……何を、恐れているのですか……神子様」
イネスの中の疑惑は確証に変わる。この神子たちは、能力を隠そうとしている。文献では、選別式を行った後には能力が発現すると書かれていた。そして、神子たちはその力を、その瞬間から行使できるようになるのだ、と書かれていたのだ。
彼らはなぜか、嘘をついている。
「……たくさん」
「え?」
呟いたのは那毬だ。
「こわいこと…たくさん」
その言葉に、イネスはしばらく口を開けなかった。
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