第2話

今日はバイト、10時で終わるで、そう告げると孝は「授業こおへん?」と誘って来た。

別に由美は孝と同じ学部というわけではない。なんなら文理も違う。由美は農学部、孝は法学部だ。

だから聞いたって全くわからないし、ちっとも面白くない法律の授業に由美はしばしば顔を出していた。もちろん彼女の横には必ず孝の姿がある。

あの先生授業のとき教科書ばっか見てるくせにな、ときどきこっちチラ見してくんねん

え、嘘やろ?

ほら、いまこっちみた!

え、見逃したわ

もう、ちゃんとみててや

しらんがな

ずっとクスクス笑いながら私たちはそんなことを話している。

出席はな、とられんから大丈夫やけど、政治史の先生は教室を歩き回ってマイク急に渡して来たりするから気いつけや

嘘やん、ほなその授業は呼ばれても行かへんわ

え、呼んだらくるやろ?

そやなあ、わたしもそんな暇ちゃうからなあ

嘘だった。

わたしは孝に呼ばれるともったいぶるような言葉をライン上に打ち込みながらも、必死にそこにいくための口実を探していた。

急に約束がなくなったから、そっちにいく用事があるから、返すものがあったから、話したいことがあったから、なんでもよかった。

あってしまえば用件なんてあってもなくても一緒だったし、たとえほんとうに用件があったときでも楽しすぎてしばしばその用件は果たされなかった。

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