お酒が飲めないあなた、コーヒーが飲めないわたし

@now9310

第1話

わたしは何が知りたいんだろう。

わからないままスマホの電源を入れ、いろいろなアプリをつけては先ほどとほとんど変化がないことを確認して、すぐ閉じる。

そんな儀式のようなことを1日に何十回と繰り返している。

明日は朝が早いのでもう眠らないといけないが、ふと思い出してスマホの画面をまたつける。だが知りたいことは特にない。

新しいことも何もない。なにか物足りない気持ちを抱きながら、わたしは観念して目を閉じる。



「モーニングビュッフェはお客様の今日1日の最初の“ハッピーなこと”です。だから決して不快な思いをさせないようによろしくお願いします。じゃあ理念詠唱の声出しを‥高原さん、お願いできるかな。」

はい、と言いながら由美はあほらし、と考えていた。ビュッフェは確かに美味しいし楽しい。だが観光に来た人の何割が将来旅行のことを思い出した時に朝ホテルで食べたご飯のことを思い出すだろうか。それが目の前でオマール海老を焼いてくれたり、シェフが一人一人に最後の仕上げとしてキャラメリーゼしに来てくれるような一流のおもてなしをしてくれるホテルであれば別だ。

だがここは本当に普通のホテルだ。ベーコン、スクランブルエッグ、何種類かのフルーツにパンくらいしかない、どちらかといえばコスパ重視の宿。そこで一体何をそんなに頑張ることがあるだろう。

それよりも早く孝に会いたい、そう思う。

孝は別に由美の彼氏というわけではない。由美と孝はただの大学の同級生で、むしろ由美は孝にもう二度も振られている。だが振った後何度も連絡をよこし、食事に誘い、遊ぼうといってくるのは孝の方だ。

だから仕方がない。わたしが孝のことを3年たった今もまだ好きでいるのも、孝の誘いにホイホイついていくのも、みんな孝のせいだ。







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