第九話 フィグ村 ②
こんな夕暮れ時の時間に、お墓でお祈りとは……しかも良く見たら、小さな女の子みたいだな。誰かに襲われたりしたら危ないぞ。
そして俺は、その子が驚かないようにわざと足音を立てながら近付き、その横に立ってから声をかけた。
「知り合いの人のお墓か?」
「……お姉ちゃんの」
「そうか……」
身内だったか。そりゃ声をかけるべきじゃなかったな。だけどなぁ、ジルに対しての思いを消すには誰かと話さないとな……。
とにかく、俺も祈りを捧げておくか。一応礼儀としてな。ただ、手を合わせちゃマズいのかも知れない。この子の様に、胸元に手を当てて祈っておくか。
「ありがとう、お姉ちゃん」
すると、その子は後ろを向いて俺にそう言ってきた。だから、俺も祈りを解いてその子を見る。
その子は7~8歳くらいに見える女の子で、綺麗なロングの黒髪をしていて、前髪を水平に切りそろえていた。前髪はボブカットってやつで、後ろはストレートロングだな。
目もパッチリしていて綺麗な瞳をしているし、第一印象は純粋そうな感じの子だな。
「お姉ちゃん村の人じゃないね。旅の人?」
するとその子は、俺の姿を一通り眺めてからそう言ってきたが、俺が羽織ってるジャケットを見て付け加えてきた。
「……あっ、軍人さんか」
そう言えば、そう見えるようにしていたっけ。他人からそう言われると実感湧くな。
「まぁ、ちょっと色々あってな。この村に寄らせて貰ってるんだ」
「そっか~それじゃあ、今日の泊まる所決まってるの?」
「いや、まだだな」
「それじゃあ、お姉ちゃんの所なら泊まらせてくれると思うよ~案内しよっか?」
すると、その子は急に生き生きとしだし、俺の腕を引っ張ってくる。あれ? もうちょい大人しい感じの子だと思ったが、ちょっと活発だな。それと、お姉ちゃんは亡くなってるんじゃ……。
「ちょっと待て、君のお姉ちゃんならもう……」
「あ~お姉ちゃんはお姉ちゃんだけど、本当のお姉ちゃんじゃない方のお姉ちゃん!」
おぉ、分かんねぇよ。流石は小さい女の子だわ、自己完結するな。
「そのお姉ちゃんって誰だよ」
「薬屋のセリーヌお姉ちゃんだよ!」
ほぉほぉ、薬屋なのに人を泊まらせる事もしているのか? まぁ、俺が聞く前に既に、その女の子が俺の腕を引っ張りながら走り出してるんだけどな。元気いっぱいな活発な子じゃねぇか!
そして結局村に戻った俺は、大きな家の前まで連れて来られた。そこには、眼鏡をかけた壮年の男性が立っていたけれど、驚いた事にジルも一緒だった。しかも、ジルは少し息が乱れているぞ。
「マリナさん! 良かった……後を追いかけても見失ってしまって、こちらの村長さんに協力を仰ごうかと思って、話をしていた所なんです」
ほぉ……追いかけてはくれたのか。それは悪いことをしたとは思う……思うんだけど、やっぱりジルの顔は見られない! どうしちまったんだ俺は。
「ニナ……またこんな時間に墓地へ行ったのか?」
すると、今度はその壮年の男性が、俺の横にいる女の子に向かって話しかけてくる。ちょっと待て、この男性が村長と言う事は……この子は村長の娘さん?!
「だけど……お姉ちゃんが寂しがってると思って……」
「そうか……」
すると、村長はニナと呼ばれたその女の子に近付くと、その子と視線を合わせるようにしてしゃがみ、そしてゆっくりと言い聞かせるようにしながら話し始めた。
「ニナ、お姉ちゃんも会いに来てくれて嬉しいとは思うけれど、遅くなったらニナが危ない目に合うかもしれないって、心配しちゃうよ。それと、お姉ちゃんもそろそろ休む時間だろうからね」
「あっ、そっか……」
「だから、今度からは朝に行って上げようか、お寝坊さんなお姉ちゃんを起こしにね」
「うん、分かった!!」
おぉ……見事に怒らずに小さな子を納得させてしまった。子煩悩な父親じゃねぇか……あのクソ親父とは凄い違いだな。
「さて……お話は聞きました。さぞお困りだと思います。ここはグランクロス国の国境とも近く、そちらの国の人の往来もあります。気兼ねなくこの村でお休み下さい。もちろん、お迎えの兵が来たら知らせますので」
そして、村長は俺達にそう言うと、優しげな笑みを浮かべてきた。だけど、俺はこういう笑みを浮かべる奴は怪しと決め込む事にして……いるのだが、妖精がまたチェック入れていやがる。
更生プログラムの事を忘れていた。聞きたい事だあったのに、聞きそびれていたんだった。とにかく、人を初っ端から怪しいと決めつけたら駄目と言うわけか……。
「それじゃあ、ニナがセリーヌお姉ちゃんの所に案内する!」
「ニナ、あなたは……あ~頼まれた薬草摘みをしていたんですね。そのついでに墓地ですか……仕方ないですね。直ぐに帰ってくるんですよ」
「は~い! それじゃあ行こ、えっと……」
「あぁ、悪い。マリナだ」
「ジルと言います。宜しく」
そして、元気に俺達を案内しようとするニナに、俺達は自己紹介をした。その後……。
「宜しくねマリナお姉ちゃんに、彼氏さんのジル君!」
「ぶぅ!!」
何言ってるんだ、この子!!
「えっと……ニナちゃん、どう見たら俺達がカップルに見えるのかなぁ?」
「いえ、それよりもマリナさん……僕は君よりも年上です。君付けは止めてくれないですか?」
それよりもそっちかい。別に良いだろうが、小さい子なんて自分とそんなに歳が変わらなければ、皆「君」付けか「ちゃん」付けだっての。
「ジル……落ち着け。この年頃の子ならしょうがな……」
「マリナお姉ちゃんって、小さい男の子が好きなんだね~」
ジルにトドメを刺すな! そして俺を変態にするな!! そんなんじゃねぇよ!
だけどニナは、そのまま俺達の前をスキップしながら進んで行っている。急がないと見失うんだが……俺達はなんだか色々とダメージを受けてしまった。
「……別に、僕は他人への感情がないので良いのですが……小さな男の子……ですか」
いや、十分に感情出てるぞ。プライド傷付けられてんじゃねぇか、全く……。
しょうがないから俺は、ジルの肩に腕を回して慰めてやる。
「ジル……しょうがねぇよ。あのタイプの子には、色々言っても難しいと思うぜ」
「えぇ……そうでしょうね。良く言えば天真爛漫。悪く言えば人を疑わず、騙されやすい」
そして、俺に肩を抱かれても全く動じないジルは、静かに淡々とした口調でそう言ってくるが……どうも口調が重いぞ。
「何かあるってのか?」
だから、俺はジルに確認するためにそう聞くと、意外な答えが返ってきた。
「この村……気持ちの悪い異常な魔力に満ちています。出来たら早朝に出たいところですね」
「なっ……」
ジルの真剣な表情と真剣な言葉に、それがただ事じゃない事が分かった。そういう事なら、今すぐに出た方が良いのだろうが、ジルも俺も疲れている。一晩は休みたいんだよな……。
「大丈夫です。この魔力の状態を、僕の古代神器であるこの杖に登録しました。何かあれば、この杖が反応してくれます」
すると、不安そうにする俺を見て、ジルが腕輪にしたその杖を見せてきた。なるほど、魔力を感知すると言っていたな。そんな使い方も出来るのか。
「ただ、僕達が何か感じ取った事は、まだ村の人達には知らせない方が良いでしょう」
「なんでだ?」
「村人全員グルの可能性もありますから」
おいこら、その瞬間一気にこの村が居心地悪くなっちまったぞ! 俺今夜寝られなくなったじゃねぇか!!
そう言われるとな、俺は夜でも身を守る為に気を張り続けるからな。
男だった時からの癖でな。どんな時も挑まれる可能性があったから、襲撃されるかも知れないと感じ取ったら、夜でも気を緩めずに警戒し続けていた。案の定、俺の寝込みを狙った襲撃が何回かあった。
まぁ、最終的にはあのクソ親父に怒鳴られて、俺も含めて全員袋叩きにあったけどな。それ以来襲撃はなくなったが、その時の癖がまだな……。
「今夜何事もなければ、直ぐに出発しますからね。そのつもりでいて下さい」
「あぁ……分かったよ」
そして俺達が警戒する中で、ニナちゃんの案内の元、そのセリーヌと言う女性の薬屋に辿り着いた。
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