第七話 2人旅
近くに森のある平原へと降り立ったジルは、俺が頭から降りるのを待ってから、人の姿に戻った。もちろん裸なんだがな。慌てて顔を逸らしてしまったよ。
そして、服を収納出来る小さなカプセルから服を取り出すと、木陰で急いで着替え始めた。
「締まらねぇなぁ……」
「ごめんなさい、マリナさん」
まぁ確かに、漫画やアニメみたいなウマい話はないよな。普通服まで一緒に変身はしねぇわ。それにしても……。
「ジル、お前やっぱり他者への感情はねぇんだな。あれだけ大量に身近な奴等が死んで、悲しくないのか?」
「そうなんですよね……マリナさんは?」
「ん~まだ出会ってそんなに経ってねぇから、悲しい……と言うよりショックの方が強いな」
「そうですか」
「無理はしてねぇよな?」
「してませんよ」
「それなら良い」
声のトーンは変わってない、大丈夫そうだな。というか、本当に感情がないのか。ようやく実感出来たよ。それなのに、俺の事になるとその感情が垣間見えるのは、やっぱり姉と重ねているからか……あ~なんだか釈然としねぇ。
『な~に難しい顔してんのよ』
「うるせぇ」
そして、隣では妖精が浮かびながら、俺に向かってそう言ってくるが。今はこいつに構ってられねぇな。
「お待たせしました。行きましょうか」
「おぅ。んっ? お前な……襟元」
「あぁ、ごめんなさい」
服の中のインナーがちょっとよれていやがったから、直してやった。何だろう、今まではこんなの気にしなかったのに……な~んで気になっちまうんだ。
『……そう言えばさ……あんたどうやってあいつの力借りたの?』
「んっ? どうやってって……まぁ、気合いだな。だけど、対価が……あん?」
そう言えば、もうあの力は無くなってるよな? 対価はどうなった? 何も無いのならそれに超した事はないが……。
「マリナさんも元に戻ってる事ですし、墜落した場所に向かいましょう。体が残ってるかは分かりませんが、残っていれば誰かを特定して、ご家族に連絡をしないと……」
律儀な奴だな。でも確かに、そういうのは要るよな。でもちょっと待て、お前今なんて言った?
「ちょっと待て、ジル。俺の事、元に戻ってるって言ったな? 俺、なんか変わってたのか?」
「えっ? あぁ……まぁ、自分では気付かなかったでしょうけど、顔半分が黒くなっていましたよ」
うわ……そりゃ気持ち悪ぃ。だけど、もう戻ってるんだよな? つまり、奴の力のレンタル期間は終了という事なのか。本当に金払ってレンタルしているみたいだな。俺の場合は後払いだが。
だけど、結局その対価ってのは何なんだ!
「ジル! 俺に変な所はねぇよな? 元に戻ってるんだよな?」
「えぇ、戻ってますよ。それは後で話を聞きますから、先ずは……」
「いや、実はあの力を使うには対価が必要で……俺はなにか対価を払ってるはずなんだ……あっ、まさか……」
「それがジュスト中佐達って事ですか?」
そうだあの野郎……俺の命は取らないとは言ったけれど、俺以外の奴の命は取らないとは言ってない!! やられた!!
「そうだ……俺自身にはなんの変化もないとなると……あいつらが対価に……」
「……そう決めつけるにはまだ早いですよ。それにそうなったら、あなたは自分を責めるでしょう? あれはあなたのせいじゃない。そう思っていて下さい……」
そうは言うけどな……難しいよそれは。
そして俺達は、墜落した方へと歩いて行く。だけど、こんな時でもこんな事を考えちゃうんだよな。せめて1人だけでも助かっててくれ、奇跡が起きててくれ……ってな。
―― ―― ――
その後色々していたら、だいぶ時間が経ってしまっていた。俺達は、今日の宿を探すために歩き出している。
結果的に言えば、誰も生存者はいなかったよ。
飛行艇の残骸がそこら中に転がっていて、そして近くには当然のものも転がっていたり、バラバラになっていたりした。吐きそうになったよ。とりあえず、見つけた分は近くに埋めておいた。獣とかモンスターに食われても嫌だろうしな。
因みに、ジルはソフィに連絡を入れていて、事情を説明していた。自分にもっと力があればとか言って落ち込んでいたけれど、これ以上的確な予知を手に入れてしまったら、それこそ沢山の悪人に狙われるだろうが。
とにかく、なんとかジルがソフィを宥めて、王に報告して欲しいと言い、連絡を切ったけれど、あいつ大丈夫なのか?
だけどジルは、ソフィは芯が強いから大丈夫と言っていた。ただな……一応あいつも女の子だからな。
「それで、ドラゴンに変身出来るあの特異力は、連続して使えないのか」
「はい、すいません……12時間の時間を空けないといけないんです」
半日も休まないとダメなのか。今は昼くらいだから、使えるようになるのは日付が変わる頃か……寝たいな、それは。
「その後は?」
「王都に戻ります」
「まぁ、それが無難だわな」
たった2人になってしまった以上、無理してジェロームを追いかけても、戦闘になった時にかなり不利だ。
「色々とありましたから、結構距離が出来ています。それでも、早くて2~3日以内で戻れます」
「へぇ……それじゃあ、まだここはグランクロス国なのか」
「いえ、あの国の王都は南の国境の近くなのです。つまり、南に向かうと直ぐに国境から出てしまうのです」
「なに? それじゃあ、ここはもう別の国なのか?」
「はい。グランクロス国の直ぐ南に位置する国、バルバド共和国です」
そう言いながら、ジルは空に向けて杖を掲げる。するとそこから、時計の針のようなものが飛び出し、俺達の背後を指した。
「あぁ、逆でした。こっちです」
「おい、さっきのは方位を調べるやつか?」
「はい、ポイントを登録しておけば、針の先がそのポイントを指すんです」
なるほどな。だけど、俺がいた世界のナビに比べたら若干劣りそうだな。
するとその時、突然その針が震えだし、別の位置を指し示した。どういうことだ?
「あぁ、いけませんね。モンスターがいるみたいです。少し迂回しましょう」
「モンスターも探知出来るんか……」
「そりゃそうですよ、いちいちモンスターと出会って戦っていては、そのうち体力がなくなってしまいますからね」
その通りだな。なるほどな、こっちの世界はこっちの世界での道具の発展があるのか。面白ぇな。
すると、俺の前を歩くジルが突然俺に向かって、暗い口調で話しかけ始めた。
「すいません、マリナさん。こんな事になってしまって。軍に入って直ぐに、こんな事態が起きるなんて……普段はこんな事ないのですが……」
そりゃ毎回あったらヤベェだろうが。そんな軍なら入りたくないな。それに、ジルが謝る事でもないんだわ。あのピエロ野郎が狙っていたのは、俺だったんだ。つまり、俺が軍に入っていなければ、こんな事にはなっていなかった。責められるとしたら、俺の方だよ。
「ジル、お前は何も悪くないぞ。相手は俺を狙っていたんだ。俺があの飛行艇に乗っていなければ……」
「それでも、僕がマリナさんの先輩として、もっとしっかりとしていれば……」
「……ん? 先輩?」
「そりゃあ、マリナさんは新人ですから、必然的に僕は先輩ですよ」
「……お前、先輩として責任感じてんのかよ?」
「そりゃそうでしょう」
もちろんジルは真剣だ。真剣なんだけど、ダメだ……我慢できない。
「うっ……くく。ふふふ。あはははは!!」
「なっ、なんで笑うんですか! マリナさん!」
「いやいや、お前10歳のガキだろうが、先輩とか責任とか……あははは!」
「歳は関係ないですよ!」
それは分かってんだけどな、やっぱり10歳の子供が必死に先輩ぶってるのって、見ていたらなんだか可愛いんだよ。
「全く、そんな立場的な責任よりも、俺の方がもっとちゃんとした理由があるだろう。責められるなら、俺1人で十分だ」
「いえ、先輩ですから僕が……!」
「意地になるなよ、可愛いな~」
「むぐぐぐ!! 何するんですか、マリナさん!」
いやぁ、結構ジルのほっぺた柔らかいな。左右から引っ張ってぐにぐにするの面白いわ。
「しょうがねぇなぁ……2人揃って王様に怒られるとするか」
「はぁ……分かりました」
そして俺達は、針の指し示す方向へとひたすら歩いて行く。
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