第二話 突然の襲撃

「あ~くそ、ジュストの野郎……」


 あのあと俺達は、一旦待機しろと言われ、小さめの部屋に案内された。そこは、真ん中に椅子と机、あとは棚が何個かあるだけの、本当に質素な部屋だった。


 そしてその机の真ん中に、ジルが鏡のような物を置き、そこから光りの柱が伸び、その中にソフィの姿が映し出されていた。最初はビックリしたけれど、ビデオ通話みたいなものか。

 つまり、その部屋でソフィと一緒に話をしているというわけだ。


『なによ、楽しそうじゃない~』


 その中で、小さな姿で映し出されているソフィは、今までの事を説明した俺の言葉にそう反応した。その場にいるみたいな感じだな。


「まぁ、今までのマリナさんの行動を見たら、こういう規則的な事が苦手なのは分かりますよ」


「……お転婆で悪かったな」


「僕はアクティブだなと思ってますけど?」


 そりゃどうも。フォローしてくれていると思っておくよ。ただ、何故かソフィが睨んでるぞ。


『ジュストが邪魔する気持ちも分かるかなぁ~』


 恐いこと言うなや、別にいちゃついてはいないぞ。ただ隣に座っているだけだ。


『あ~あ、私も一緒に行きたかったな~』


 そして、その後ソフィがそう言ってきたが、それは危ないだろう。聖女なんだからよ。しかも狙われてるんだろ?


「お前、狙われてるんだろ? というか、護衛は大丈夫なのか?」


『ジルが竜化した時の姿は、凄いスピードで飛べるからね。多分、私の下までそう時間はかからないでしょ? それと、私には予知もあるし、危険が迫ってると思ったら、ジルを呼ぶわよ』


「なるほどなぁ……便利なものだな、特異力って」


 だけど、俺がそう言った瞬間、ジルもソフィも微妙な顔をしてきた。なんだその顔、非常に気になるぞ。そう言えば、この2人はどの加護なんだ?


「……おい、2人の加護ってどれになるんだ?」


 だから、俺は2人に向かってそう聞いてみた。すると、やっぱり聞かれたといった顔をしてくる。聞かれたくなかったのか? という事はまさか……。


「僕もソフィも、邪神の加護です」


「……マジか。すまん」


 確か、邪神の加護は迫害されるんだっけ? 2人がどんな扱いを受けたのか、容易に想像出来たな。俺も男の時、迫害されていたからな。


「いえ、いつかは話さないといけないと思っていました。ついでなので、その能力の分類も話しておきますね」


 そして、ジルは真剣な顔で能力の事を話してくる。


「特異力は、現在3つに分類されています。ボディ系とアビリティ系、そしてトランス系です」


「ほぉ……確か俺は、1番最初に使った時、相手にボディ系と言われたな」


「えぇ。マリナさんのように、身体能力を上昇し、攻撃力を上げたり、体を使った攻撃に付加能力をつけたり、もしくは体を変形させるものをボディ系とされています。あの黒曜の騎士団、ギーという奴もボディ系ですね」


 なるほどな、つまりその能力は、自分の戦闘能力によって強さが変わってくるのか。


『そしてアビリティ系は、私みたいに自分の能力とは別に、能力が付加されるものよ。黒曜の騎士団ならセルジュって奴ね。あいつのはアビリティ系よ』


 という事は、俺がこの世界に来て最初に行ったあの村、あそこを襲ってきた奴等の中に、風の刃を飛ばす奴がいたな。あれもアビリティ系と言ってたかな。


「そして最後に、僕みたいに完全にその姿を変化させる能力を、トランス系と言います。ですが、この能力を持っている人は殆どいません。更に、トランス系は全て……邪神の加護なんです」


「……そうだったのか」


『それとアビリティ系やボディ系も、能力が強力過ぎたり、リスクが高いものは、邪神の加護になってる事が多いわね。私の予知なんか、モロにそれよ』


 という事は、あのセルジュとかいう奴の能力は、女神の加護って事か? 厄介ではあったが、強力ってわけではなかった。リスクもなさそうだったしな。


「なるほどな……だいたい分かったわ。それに、お前達がどういう扱いをされてたかなんて、だいたい想像出来るな。ソフィ、お前両親が巡礼の旅してるって、嘘だろう?」


『……』


「黙ってたら肯定と取るぞ?」


 すると、ソフィはばつが悪そうな顔をしながら、返事をしてきた。


『あはっ……流石にバレるか。そうよ、私は両親なんて知らないわ。赤ん坊の頃に、この教会の前に捨てられてたらしいから』


「それは、お前が邪神の加護を持ってたからか?」


『さぁね~知らないわ』


 だけど、自分の特異力が邪神の加護だって分かってるって事は、拾った奴がソフィの特異力に気付き、調べさせたのか。そして、恐らくその後も、あまり良い扱いを受けてはいないんだろうな。


 しかし、そうなると分からない事があるな。


「なぁ、今思ったけどよ、なんで邪神の加護を持ってる奴は、迫害されるんだ?」


「それは、次の魔王になる可能性があったからです」


 どういう事だ? なにも邪神の加護だからと言って、魔王になるわけじゃないだろうが。女神の加護を持っていても、魔王になる奴が俺の横で浮いてんだよ。


 だから俺は、その妖精の方に視線をやるが、そいつは顔を逸らしていやがった。


「前魔王は、史上初の女神の加護持ちだっただけです。歴代魔王は皆、邪神の加護ですよ」


「ちょっと待て、魔王って何人もいるのか?」


 するとジルの奴が、俺にとって意外な事を言ってきたから、つい聞き返してしまった。

 魔王って……そんなにぽんぽん現れるのか? それってよ、次々と倒されてるって事だよな?


「えぇ、それこそこの世界が文明を持ってからですから……今まで100人程が……」


「待てや!!」


 魔王のバーゲンセールか、こら!! そんなにしょっちゅう現れたら、たまったもんじゃねぇだろう!


『なによ? ここ何十年かは穏やかなのよ。100年前なんか、魔王が大量に現れたらしくてね、それこそ7~80人もいたらしいのよ。それに比べたら、今なんか平和みたいよ』


「嘘だろう……」


『歴史書にそう書いてあるんだもん。因みに、その時は魔王同士でも争ってて、真の魔王を決める戦争「真魔戦争」なんて起こってたくらいだからね』


 それはとってもカオスだったんだろうな……。

 腕を組みながら話すソフィを見ながら、俺は机に突っ伏してしまった。なんなんだこの世界は、ぐちゃぐちゃに乱れてやがる。


「でも、今平和だとは言っても、今までの魔王を復活させようとする者達がいます」


「マジか……その真魔戦争の時の魔王達を、全員復活させようとしてんじゃねぇだろうな」


「その可能性もありますね」


 否定しろよジル。頼むから否定してくれ。これ以上カオスな事態になってたまるかよ。


「その魔王を復活させ、世界を牛耳ろうとしている国が、リュクシオン帝国です。僕達が出会った時に立ち寄った、あの村を襲ってきた奴らです」


 あ~そうそう、あいつらそう言ってたっけ。色々あってすっかりと忘れていたよ。つまり、その帝国も放っておくと危ないという事か……。


 そう言えば、あいつら古代神器を狙ってたよな。もしかして、この古代神器が魔王を復活させる鍵なのか?


「そうそう、それとジル……うわっ!!」


 だけど、俺が古代神器の事も聞こうとした時、飛行艇が大きく揺れ、俺はバランスを崩して椅子から落ちそうになってしまったよ。何してんだ、ジュストの野郎。


 すると、この飛行艇全体に声を届ける金属の管から、ジュストの声が聞こえてくる。


『敵襲です! 皆さん、戦闘態勢をして下さい!』


 そしてそれ聞いた瞬間、ジルが椅子から立ち上がり、その金属の管に向かって走り出す。


「ジュスト中佐、敵部隊は……」


『部隊じゃないのですよ、ジル君。敵は1人です』


「何ですって……」


 おいおい、バカなのかそいつ。たった1人でこの飛行艇を……。


『ですが、素敵なお友達と一緒です』


「えっ?」


『ドラゴンに乗っています』


 そして俺は、ジュストの言葉の中にある単語に、少しだけ気分が高揚してしまった。ゲームをやってなくても、これは誰でも分かる。


 ファンタジーのド定番。最強のモンスター、ドラゴンだと!! 見てみてぇ! 不謹慎だろうが、どんなドラゴンなのか見たい!


「……なんで嬉しそうな顔をしてるんですか?」


「はっ……?! やっ、違っ……見てみたいとか思ってねぇ!」


 あっ、しまった……慌てていたから口に出てしまった。ジルがすっごい目で睨んでたわ。

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