第二話 不良高校生の不幸 ②

 その後、俺は夜の街を適当に歩き回り、サツの野郎が追ってきたり、探し回ったりしていないかを何度か確認する。


 まぁ、いつもの事だからな、恐らく高校には連絡が行くだろうな。また停学か? もしくは、流石にもう退学かねぇ。どっちでも構わねぇがな。むしろ、行かなくて良くなるならラッキーだわ。


「ちっ……しかし、どうやって時間潰すかねぇ」


 今はまだ夜の9時くらいだ。寝るには早いし、家に帰ってもなんにもねぇからな。飯くらい食わねぇと。


「あ~こういう時に携帯持ってる奴は良いよな。誰かの奪うか……って、他人のだから意味ねぇな」


 そう、実は俺は携帯を持たされていない。理由は……両親にある。だが、両親の事はあまり言いたくはない。そもそもあんなクズ野郎ども、両親とも思ってねぇよ。


 そして、俺がどうしようか迷いながら、コンビニで何か食い物を買おうとした時、後ろから誰かに声をかけられた。


「よぉ、剛」


「……あぁ? 野村のむらか? 優等生君が、なにこんな時間にうろついてんだ?」


 こいつは野村康弘のむらやすひろ。小学校からの同級生だ。まぁ、腐れ縁って奴だな。身長は180センチの俺よりも少し低いのに、態度はデカい。

 それも仕方ないがな。こいつはモテるんだ。顔はイケメンって程ではないし、髪も一切いじってないショートヘアーだ。それでも、常に学年トップの成績で、誰にでも優しいとなれば、不思議とモテるんだよな。


 だから、俺はいつもこいつにムカついている。俺とは正反対のこいつにな。


「いやぁ、ちょっと小腹が空いて、なにか買いに行こうと思ったら、警察がウヨウヨいるんだもん。また誰かなにかしたなと思ったら、剛がいたんだよ。そうなると、剛がやったんだって思うでしょ?」


「ちっ……チクるんじゃねぇぞ」


「いやいや、そこは惚けようよ、意外と真面目なんだから、剛は」


「うるっせぇな!!」


 これだよ……こいつは、俺の本質を見抜いてるかの如く、話しかけてくるんだ。だから、本当の俺がえぐり出されそうで嫌になる。同級生だからって、俺はこいつもダチとは思っていない。


 一緒にいるのが、嫌だからな。


「なぁ、剛」


「……あぁ! 離れろや、ボケ! 馴れ馴れしくしてんじゃねぇよ!」


「おっと……危ない危ない」


 こいつ、よりにもよって、俺の肩に腕を乗せて来やがった。本当に馴れ馴れしいんだよ、いつ俺がお前のダチになったよ!

 くそ、俺とこいつの家が近いから、こいつはこんな風に接して来やがるのか? 普通、恐がるだろうが!


「剛……お前、更正しねぇの?」


「……まだ言うか? てめぇ」


「……あのさ、小学校の時のあれは、剛のせいじゃ……」


「黙れよ、あれのせいじゃねぇよ」


「それじゃあ、親御さんか? だったら、然るべき所に……ぐっ!!」


「てめぇ、それ以上口にすんじゃねぇぞ、ぶっ殺すぞ!」


 ペラペラと良く喋りやがる。小学校の時、ただの気まぐれでいじめられっ子だったお前を助けたが、そんなのは関係ねぇ。

 それから、お前をいじめていた奴等が、ターゲットを俺に変えたところで、全員殴って黙らしたからな。その中にお前も混じってたけどな。手のひら返して、俺をいじめようとしやがって、だからムカつくんだよ。


 それなのに、なんで今こんな風に接してくるんだ? あぁっ?


 だから俺は、そいつの服の襟を掴むと、そのまま上に持ち上げ、首を締め上げていく。もちろん、加減しながらだがな。これ以上俺に、近付いて来ないようにする為にな。


「かっ……ぐっ……あの時は、俺の心が弱かったから、でも……力でねじ伏せたお前に、ちょっと憧れたんだよ」


「あぁ? それで俺にくっついてくるんか? おい。気持ち悪い野郎だな!」


 そんな事を言われて、虫酸が走った俺は、そいつの襟から手を離して、そのまま地面に落とした。そして、そいつに背を向けると、俺はその場から離れようとした。


「ゲホッゲホッ……はぁ、全く……なにも変わらないな、お前は。俺のせいもあったから、なんとか更正して欲しかったのに……せめてにさ……」


「……あっ? 最後?」


 だけど、俺が去ろうとした時に、そいつが変な事を口走った。最後? なんだ、引っ越すのか? そりゃ願ったり叶ったりだな。


「……やっぱり、やるしかないんだな」


「なにブツブツ喋ってやがる」


 壊れたか? 訳分かんねぇこと言いやがって。


「いや、気にしないでくれ、剛。すまなかった、おやすみ」


 すると、野村は睨みつける俺に向かってそう言うと、足早にその場を去って行った。当初の目的は良いのかよ? なんなんだ、全く……。


 ―― ―― ――


 その後、結構時間が経っていた事に気付いた俺は、結局そのコンビニで食い物を買うと、適当に食事を済ませ、家路についた。

 恐らく、家には誰もいねぇはずだ。クソ親父は仕事中だし、母親も仕事に行ってるだろうよ。


 だけど、自分の家のボロいアパートの玄関を開けた瞬間、俺は血の気が引いた。厳ついブーツと、ヒールの付いた女物の靴があったからだ。


 両親がいる。


 そんなバカな……なんでこんな時間に両親が2人とも居るんだよ。くそ、今夜は外で朝まで時間を潰すしか……。


「クソガキィィィィイ!! 帰ったんか?! あぁっ!!」


 ちっ……くそ野郎、ここで争うと面倒くせぇ事になるな。


「くそ!」


 そして俺は、慌てて扉を閉めると、そのままそこから逃げようとする。

 いつもいつも、家の中ではこいつは強い。家の中だけだがな。だから、外に逃げてやれば、クソ親父は世間体とやらを気にして、俺に強く当たれない。大変だな、大人ってやつは。


 とにかく、ここは2階だから、このまま廊下から飛び降りるか? その方が早そうだ。そう考えた俺は、廊下の手すりから身を乗り出し、そこから飛び降りようとしたが……。


「待てや、クソガキ」


 俺の首が、デカい手にしっかりと掴まれてしまった。


「ぐっ……離しやがれ!!」


「まぁ、しっかりと家の中で話そうや」


 そう、こいつは知っているんだ。家の外で騒ぐと、警察を呼ばれる事に。そして、虐待をしているんじゃないかと、通報される事に。だから、玄関から一歩外に出ると、こうやってちゃんとした父親を演じやがる。


 だけどな、こいつの本性はこんなんじゃねぇ。もっとやべぇんだよ。


 そして、熊みたいにデカい体型をした親父は、首を掴んでいた手を頭に移し、そのまま俺を家へと引きずり込んでいく。


「離せよ、くそが!!」


「黙れ、ご近所さんに迷惑だろうが」


 するとクソ親父は、俺の頭を掴んでいる手に力を入れてくる。それこそ、俺の頭を潰すんじゃないかと言う程にな。どんな握力してやがる。


「あぐっ……ぐぅ」


 だから、こうなってしまっては、もう抵抗なんて出来ない。普通ならな……だけど、俺は違ぇ。未だに、俺はこいつらと戦っているんだ。俺の現実と戦っているんだ。


 負けて、堪るかよ。


 現実から逃げて、漫画やゲームの世界に逃げ込む奴等とは、俺は違うんだ。いつも俺が悪いって言ってくるが、俺はなにも悪くねぇ。ただ戦ってるだけなんだよ。


 このクソ親父を倒すために、こいつを社会から抹殺する為に、こいつに喧嘩で勝つ為に! 完膚なきまでに叩き潰す為に、俺は戦っているんだ。


 だから俺はまともだ、まともなんだよ。蔑んでくる奴等には分からねぇだろうがな。


 そして俺は、そのままクソ親父に掴まれたまま、家の中に引きずり込まれてしまった。こうなってしまったら、クソ親父の独壇場なんだよな。


 なぜなら、玄関を入った瞬間、そこに置いてあった布を手にしたからだ。つまり、悲鳴やうめき声を、お隣さんに聞かせない為だ。


 ただバカみたいに喧嘩を売ってくる不良とは違う。こいつは、お利口さんなんだよ。

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