TSエルフの異世界奮闘記
yukke
プロローグ 強者の転生
第一話 不良高校生の不幸 ①
薄暗い路地裏で、軟弱に泣き叫ぶ、眼鏡をかけた男子高校生。それを、俺はただ眺めている。
「ひっ、ひぎっ……! も、もう……お金なんてないです!」
「うるっせぇな!! もっとあるだろうが! お坊ちゃんがよ!」
「あぐっ!!」
そいつに向かって、殴る蹴るの好き勝手をする、俺の取り巻き達。正直、こいつらをダチとは思ってねぇ。
ただの、使い勝手の良い駒だ。
「岸田さん! こいつ、もう持って無さそうっすよ」
ちっ……俺に振ってんじゃねぇよ。めどくせぇなぁ。しょうがねぇ、こいつも所詮、使えねぇ駒ってわけだ。それなら……。
「岸田さん……? ごぶっ!!」
「てめぇ、俺の手を煩わせるんじゃねぇよ」
そして、建物の壁に寄りかかっていた俺は、その名前も知らない取り巻きに近付くと、そいつの腹に思い切り蹴りを入れて、そのまま上空へと吹き飛ばす。軽いねぇ。
「ひっ……!!」
「ちっ……きったねぇもんぶちまけやがって」
それを見た他の奴等が、心底ビビる中、上空から振ってきた血とか嘔吐物を避け、俺はガタガタと震えて、小さく縮こまっている奴に近付いて行く。同時に、上から吹き飛ばした奴が落ちてきて、大きな音を立てながら、地面に叩きつけられた。
痙攣しているし泡噴いてるが、まぁ生きてるだろう。流石に、殺しちゃ面倒だからな。
「おい、お前。本当に持ってないのか?」
「あっ、ひっ……すいません……」
俺は、そいつの目の前に座ると、睨みを利かせながら、そう言ってやった。すると、そいつは別のポケットから、更に何万円か差し出してきた。全く、あるじゃねぇか。
「さ、流石……
うるさい奴等だ。いつの間にか俺の事をそう言いやがって。ただムカつく奴等を、蹴り飛ばしていただけなんだがな。そしたら、足技だけが磨かれてしまって、この通りよ。
すると俺の目に、さっきかつあげした奴の手から落ちた物が見えた。そういやこいつ、何かを読みながら歩いてたんだよな。
「……お前、小説なんか読んでんのか?」
それは、俺には理解し難い物だった。そもそも、こいつはカバーを付けていたから、その表紙は見えねぇが、中のイラストがチラッと見えて、それが何か分かったよ。
オタクの好みそうな、ライトノベルってやつだな。
「あっ……か、返して」
するとそいつは、俺が手にしたその本に向かって、手を伸ばしてきた。だけど、俺はこういうのを読むオタク共が、心底嫌いだ。
こういう奴等は、現実を見ずに、この小説の中の世界に逃げ込んでやがる。俺が勝手にそう思ってるだけだ。
だがな、そうじゃなければ、こんな小説に出て来る女キャラを、好きになるわけないだろう。俺の通ってる高校のクラスにも、何人かいてな。「俺の嫁」なんて言って、気持ち悪い事抜かしてやがる。
「てめぇ……こんなもの見てるなんて、気持ち悪ぃ野郎だな、オタク野郎」
「そ、それの何が……」
「変な夢見てんじゃねぇよ!! こんな小説の世界に逃げ込んで、現実を戦おうとしやがらねぇで! それで良く生きてられるな! この弱虫野郎が! そんなお前等みたいな奴等が優遇されて、社会に出てるなんて、おかしくねぇか……あぁっ?!」
「そ、そんなの……しら……あぁぁ!!」
だけど、俺はそいつの目の前で、そいつの大事にしていた小説に、ライターで火を付けて燃やしてやった。取り巻きの1人がタバコ吸ってたからな、丁度良かったよ。
「見な……これが現実だ。てめぇのその軟弱なプライドもな、強者の前では役に立たねぇんだよ! 少しは目ぇ覚めたかよ!」
「あぐっ!!」
そして俺は、そいつの顔面を蹴り飛ばす。こういう奴の方が、使えない取り巻きどもを見るよりも、イラつくんだよ。
「おら! 悔しかったら抵抗してみろや!」
「ぐぅっ……!!」
だから蹴る。腹も、腕も、蹴りまくる。たとえうずくまっても無駄だぜ、俺の蹴りは痛ぇだろ?
「ひぇぇ……さすが岸田さんだ」
「あぁ、だいぶキレてるな」
取り巻きどもがうるせぇな。ちゃんと他の仕事をしろや。
「おい、てめぇら。ちゃんと一般人が来ないか、見とけや」
「あっ、は、はい! あっ……!」
だがその時……取り巻きの1人が返事をしたと思ったら、なにかを見たのか、間抜けな声を出してきやがった。
するとその後、俺の後ろから誰かの声が聞こえてきた。
「お~お~かつあげだけじゃなく、そいつの趣味までディスるなんてな~流石だね~
「てめぇら……」
いつの間にか俺の後ろには、金属バットを手にした不良高校生どもが、大量に集まっていた。何十人いやがるんだ……ったく、また面倒くせぇ事に。
「くっくっ……史上最強の不良高校生、
なにド定番な事を言ってやがる? それに誰に向かって説明してんだ? 喧嘩しに来たんだろう? なら、とっととかかってこいよ。ムカつく奴等だ。
それに弱い。さっき喋っていた奴の顎を蹴り抜いただけで、この有様かよ。いきなりノックダウンだ。
「くっ、くそ! くらえやぁ!!」
すると、今度はグラサンをしたモヒカンの奴が、バットで俺を殴ろうとしてくる。バカ正直に俺の真正面からな。
その前に、その髪型古いぞ。ちゃんと俺のように、女子にモテる事も考えて、ワックスで整えたり、遊ばせるだけにしとけよ。
まぁ、バットくらい脚で受け止める必要はないな。普通に素手で受け止められる。
そして俺は、目の前に振り下ろされてきたバットを、しっかりと左手で掴んで受け止めると、それ以上動かせないように、力を込めていく。
「へっ? なっ! 手……?!」
「おいおい、誰が脚しか使わないっつった? そんな器用な事、出来っかよ!!」
「がっ……!!」
そして俺は、そいつの顔面に、反対側の右手の拳で殴りつけると、そのまま地面に叩きつけた。
すると、俺に喧嘩を売って来た不良高校生どもは、この光景を見てたじろいでいた。おいおい、情けねぇ限りだな……。
俺に喧嘩を吹っかけてくるなら、それ相応の覚悟はしとけや。
「おら、来いよ。全滅する覚悟があるならな……!」
「ひっ……くそ! やったらぁ!! うわぁぁぁあ」
なんだ、そこそこの気概はあるじゃねぇか、だがまだ甘ぇよ。腰が引けてるんだよ!
そして俺は、向かってくるそいつらを睨みつけると、ゆっくりと構えを取った。
そうだ……これが、俺のいつもの日常。強者と喧嘩ばかりして、弱者をいじめ抜く。それが何よりも、楽しかった。後悔はしていなかった。
ただ、心のどこかで、なにかが引っかかっていた。
本当に、これで良いのか? 結局俺は、あいつと一緒じゃねぇのか? あのムカつく親父と……。
―― ―― ――
「うぉぉ……すげぇ。ほぼ全員、岸田さんが倒した」
1時間後。そこには、俺に喧嘩をふっかけてきた団体の、屍だけが転がっていた。殺しちゃいないが、死んだように動かなくなったな。
ただ、また面倒くさい事に、誰かサツに通報しやがった。遠くからサイレンの音が聞こえて来やがる。
「ちっ……しゃぁねぇ、ずらかるぞ」
「あっ、待って下さいよ~」
本当は、もう少しうろつきたかったがな。
家に帰った所で、ムカつく親父は長距離トラックの運転手で、ほとんど家に帰らねぇし、母親の方も水商売してやがるから、夕方に出ることが多い。両親が一緒にいるのは、月に何回かってほどだな。
そして顔を合わせれば、喧嘩ばかり。くだらねぇ。
だから俺は、そんな家に居たくなくて、こうやって夜の街を歩き回っていた。本当はもう1個理由はあるが、あまり言いたくはないな。今の俺となにが違うんだって、感じだからな。
もちろん、夜の街をふらついてると、ガラの悪い奴等が突っかかってきたりもしたが、そんな奴等は常に蹴り飛ばしていた。
お陰で気が付けば、取り巻きが出来ていて、そしてそれが増えていき、何とも言えない優越感を感じる程になった。
あぁ、俺はこうやって生きていけば良いんだ。
俺は初めて、現実に自分の居場所を見つける事が出来た。
「岸田さん、俺達ばらけますんで、岸田さんも逃げて下さいね」
すると取り巻きどもが、俺に向かってそう言ってきた。まぁ、いつもの事だ。こいつらも逃げ方を分かってる。捕まりはしないだろう。捕まったところで助けねぇがな。ただ、捕まった時に変な事は言うなよと、常に脅しまくってる。芋づる式に捕まるのだけは、ごめんだぜ。
「てめぇら、分かってんだろうな?」
「わ、分かってますよ……何も言いませんって……」
「それなら良い。だがもし言ったら、ムショに入るよりも、もっと酷い地獄を見せてやるからな」
そいつの友達、恋人、家族、いいや、その家族の仕事関係の奴等まで、徹底的に張り付いて調べて、そいつらの人生残らずめちゃくちゃにしてやるさ。
そこまで出来るかは分からねぇが、こいつらの交友関係、家族関係なんか言ってやったら、青ざめてやがったぜ。俺は、やるといったらやる男だからな。
「……ちっ、胸くそ悪ぃやつだ。気分転換の散歩のつもりが、逆に気分が悪くなっちまった」
そして俺は、地面にうずくまっている軟弱野郎を見ると、そいつに唾を吐きかけ、そのままその場を後にした。
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