第三話 プライドの危機
その後、俺は鞭で縛られたまま、飛行艇に乗せられた。これ、船のレベルじゃなかったわ。中が配管とかでごちゃごちゃしていて、案内されなきゃ一発で迷うわ。
ただ、なんだろうな……ちょっと冒険してみてぇな、って思える所があるのは、まだまだ男だって事だな。安心したわ。
すると、ある一室に通された俺は、縛れた鞭を解かれ、解放された。あれ? 良いのか?
「…………ん? おい、良いのか?」
「えぇ、良いですよ。いやぁ、大変失礼致しました。予言があったとしても、まだまだジル君の報告だけじゃあ、確定出来ませんからね」
そして、金髪の軍服の男性が、その一室の先にある、大きな机の椅子に腰掛けた後、そう言った。
良く見たら、高級そうなその机は、書類仕事とかをするのに最適っぽいな。というか、ここはこいつの部屋か? 殺風景で、ちょっとした服を掛ける所と、棚がいくつかあるだけで、他はなにもねぇじゃねぇか。
「さて、申し遅れました。私はグランクロス国の軍で、中佐をしております、ジュスト・バルリエと言います」
すると、その金髪の軍服の男性は、自己紹介をした後に立ち上がると、そのまま頭を下げてきた。
「先程は手荒い事をしてしまい、申し訳ありませんでした。我が国の中では、予言を信じすぎており、君の事を殺せと言っている、過激派が存在しているのです。その方達が、どこでどんな方法で見ているか分かりません。ですから、魔法結界の張られたこの部屋に連れて来るまでは、あのような扱いをせざるを得なかったのです」
なるほどな、割とキッチリした奴なんだな。まぁだからこそ、あの目が気になってしょうがないな。
だけど、謝るなら誠意が足りねぇよな。もっと形にしろや。だから、なにか俺に得するような武器かなんかを、せびってやるかね。
『…………』
お~っと、妖精さんが窓から見ていやがる。ヤバい、対応を間違えたらまた減点だぞ。
あ~えっと……一般人はどう反応するのか……いや、普通に相手の謝罪を受け止めて、気にしていない素振りをすれば良いのか。
「あ~えっと、理由があるなら大丈夫です。気にしてないから」
また語尾が……って、俺が答えた後に、ジルの奴が俺の額に手を当ててやがる。なにしてんだ、こら。精一杯背伸びして、頑張ってんじゃねぇよ。
「ジル君、なにしてるのかな~?」
「いや、昨日と打って変わった反応なので、あまりにも無茶して、熱でも出たのかと。急に変わるって言い出すし」
「は……あはは。嫌だなぁ、これが普通だろ~? 無茶なんかしてないぞ」
妖精が見ている、妖精が見ていやがる。あぁ、本当は怒鳴って蹴散らしたいのに……今までの感じからして、それをやったら減点だ!
「顔が引きつってるよ~」
「うっ……るさいよ」
あぁ、無理があったかな? よりにもよって、金髪の軍服の男性ジュストが、椅子に座った後で、俺の反応を見ながらそう言ってきやがった。また怒鳴るところだった。危ねぇ……。
「ふむ……君は面白い人だね」
面白くしようとした覚えはないけどな……。
「とにかく、君には悪いけれど、私達の国に着いた後、恐らく拘束という形を取らせて貰う事になると思う。だけど、私達は決して、君に対して不遇な事はしない。そこは分かって欲しい」
「……そうは言っても、初めて会う奴に、なんでそんな事が言えるんだ? 普通は拘束して、そいつの素性を調べたりするだろ?」
そして、ジュストの言った事に疑問を持った俺は、そいつにそう聞き返した。はっきりしない内は、こいつらの待遇を受け入れるわけにはいかねぇ。罠かも知れないからな。
「ふむ……なるほど。バカではないようだね。それは、散々聞こえてると思うけれど、予言の中身でだからだよ」
あぁ、ジルが言っていた予言か……俺が世界の救世主か、世界を破壊する者かの、どっちかだと言うやつか。
「あれには続きがあってね。多分、ジル君は喋ってないだろうけれど『――出会う人次第だが、恐らく今は、魔王に等しい状態。人類は、危機にさらされている』ってね」
「……それじゃあ、なおさら助ける意味が……」
「『それでも、人類は正しき選択をしなければならない。そうしなければ、魔王は更なる存在となり、他の異なる世界をも滅ぼしにかかるだろう。忘れるな、人類の本当の心を』と、最後になければ、私達も君を処刑する事に、賛同していただろうね」
俺の問いかけに、大きな机に肘を突きながら、ジュストがそう言ってきた。なんだこの態度は? 紳士かと思ったが、割とそうでもないのか?
「それで、お前達は俺を……」
「助けるわけじゃないよ。君を、観察したいだけだ」
「あぁ……なるほど」
つまり、まだ分からないというわけか。そしてこいつらも、選択をミスるととんでもない事になるというわけか。
「さて、分かって頂けたら、先ずは我が国の国王に会って貰いたい。どういうわけか、君に会いたがっているのでね。10年以上も姿をくらましていて、ヒョッコリ帰ってきたと思ったら、またとんでもない事を……」
なんだその国王……大丈夫なのか? 国王なら、ちゃんとその国にいなければいけないだろう。
「とにかくそれまでの間は、この部屋でゆっくりしていて貰いたい。しかしマリナさん。あなたのその格好は、国王と会うのに適していません。セレスト。衣装部屋で着替えを」
「はい」
すると、ずっとジュストの横に立っていた、あの水色のロングヘアーの女性が前に歩み出て、俺の方に歩いてくる。
「さぁ、行きますよ。報告であなたの事は聞いていますが、流石にずっとそんな男らしい格好では、困ります」
「おっ……ちょっとお姉さん、流石にそれは……」
「セレスト・フェリエです」
あぁ、改めて自己紹介させてしまった。ただな、男性の格好がダメとなると、それはつまり、女物の服を着ろと言うことになるよな。それは流石に、俺のプライドが!
「いや、待ってくれって、セレストさん!」
「いきなり名前呼びですか、まぁ良いですけどね」
あっ……そう言えば、日本人名とは違うのか……名前が先だったっけ? と言うか「さん」付けしてしまった。薬膳料理め……。
だけど、どうりでなんか変だなとは思ったんだよ。つまり、ジルの奴にもずっと、名前で呼んでしまっていたのか。恥ずかしい……。
だけど、今からジルの事をディエンって呼ぶのもな~いや、だけど、名前呼びってのもなんだかなぁ……。
「なにをブツブツ言ってるんでしょうか?」
「大丈夫です、このまま連れて行って下さい」
「はぁ、分かりました」
んぁ?! しまった、また考え込んでいた! セレストに思い切り後ろの襟を掴まれて、引きずられて行ってるぞ!
「あぁぁ! 待て待て待て! ちょっと待て! 着替えはいい! このままで良いっての!」
「そうはいきません。あなたが良くても、他の人達にとっては、ふざけた格好になるんですよ。しかも、国王に会うんです。だから、しっかりとそれなりの格好をされて下さい」
うぐっ……逃げられないのか? これは逃げられないのか? ちくしょう……だけど、女物でもボーイッシュなものもあったよな? それで逃げるか。
そして、さっきの部屋を出て、そこから少し奥にいった所の部屋に通された俺は、驚愕した。その服の多さにな。
おいおい、普通飛行艇なんかに、こんなに服があったりはしないだろうが。しかも、ハンガーみたいなものでキッチリと、ぶら下げられているのもあるぞ。
「こんなに沢山の服、どうしたんですか?」
流石に、これにはジルも首を傾げているな。良かった、これは普通じゃなかったんだな。俺が普通じゃないのかと思ってしまった。
「……それが、国王にこれだけ持って行けと、そう指示されまして」
「国王が?」
その国王、なんか嫌な予感がするな。なんで、女が来るって分かるんだよ。ここにあるの、女物の服ばかりだぞ。まぁ、いいや。ズボンとTシャツくらいで良いだろう……と思ったが、その服の山を見て、更に俺は絶望してしまった。
「……おい、ズボンがねぇぞ」
「あ~それも国王の指示です」
あぁ、うん。その国王、ぶっ殺してやる。なんで見事にスカートばかり用意するんだ! 俺が真っ先にズボンを選ぶって、分かってやってるだろう、これ!
もう、ひたすらに嫌な予感しかしねぇよ、その国王!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます