第四話 緊急事態

「逃げないで下さい……」


「悪いけど、こればかりは抵抗させて貰うぞ!」


 この水色のロングヘアーの女性、セレストの手に持っているスカート……それだけは履いてなるものかだ!


「ふん!」


「うわっと!!」


 それなのに、セレストは手に持った鞭で、俺を攻撃してくる。おいおい、床に焼け焦げたような線が……お前、俺を殺す気かよ。


「ふっ! はっ! やっ!」


「うぉっ! わたっ……とっ! あっぶねぇな!」


 この女、鞭の使い方が達人の域を超えてやがんじゃねぇか? 俺の頭を狙ってきたと思ったら、そのまましならせて下に叩きつけ、それを避けたと思ったら、叩きつけた勢いで、更に上に打って来やがった。最後のはギリギリだったわ……鼻先を掠めたぞ。


「やりますね」


「待て待て……服を着替えさせるだけで、なんで戦闘になってんだよ! ゆっくり近付いてくるな。おい、ジル! 何とか言ってくれ!」


 とにかく、鞭を右手に、スカートを左手に持ちながら、俺の方にジリジリとセレストが迫ってくる。たまに鞭で地面を叩くな。お前は女王様かなにかか?

 とりあえず、暇そうに本を読んでるジルに、セレストを止めて貰おうと思い、助けを求めたんだが、出て来たのは意外な言葉だった。


「…………セレストさん。何とか」


「お前ボケてんじゃねぇぞ、こら」


 あのな……「何とか」という単語を言えと言ってるんじゃねぇんだよ……ふざけてると、このまま首絞めるぞ。

 実は、ジルがボケをかましたせいで、ついつい両手がジルの首に伸びちゃったんだよな~しょうがないよな~と思ったが……。


『その態度はダメだね~減点するよ~』


「…………」


 お前、いつ部屋に入ってきた? またしてもやっちまったよ……。


「マリナさん、申し訳ないですが、あなたの今の格好の方が、少々普通ではないかと……」


「ちっ……」


 やっぱり学ラン姿の奴なんて、この世界にはいないようだな。そうなると、この格好はかなり目立つな。だがそうは言っても、スカートだけはな……なぜなら。


「……それにあなた、ちゃんと女物の下着を着けてるんですか? ブラは?」


 女物の下着を着けてないのが、スカートだとバレてしまう。と言うか、既になぜかバレてるんだけどな。なんでだ?


「その大きな胸……あなた、デカいのを自慢するために……あえて着けてないですね! 揺れてるんですよ! あと、隙間から見えそうなんですよ!」


「はっ? あぁ……」


 確かに、ブラを着けていないと、必要以上に揺れるらしいな。デカい奴限定だがな。だからって、嫉妬しすぎじゃね?


「おいおい……勘弁してくれよ。俺は、あんまりそういう女物のは、着たくないんだよ」


「なぜですか?」


「何故って……いや、その……」


 男だからなんて、言えねぇよ。だから、どう答えれば良いか悩んでいたら……。


「うぉっ!!」


「きゃっ?!」


 急に船が揺れだし、そしてその後、更に大きく揺れたと思うと、その部屋の通気口のような所から、あの金髪の軍服の男性、ジュストの声が聞こえてきた。というか、意外とセレストさんの悲鳴が可愛かったな。


『皆さん、どこかに掴まっていて下さい、飛びます!』


 すると、それを聞いたセレストが、その通気口のような所に走って行き、話しかけている。


「ジュスト中佐、何があったんですか?! 出発するには、まだ魔力充填が……」


『その充填中に、厄介な奴等に見つかったのですよ。我々の国旗を見れば、大概の賊は攻撃を仕掛けませんが……こいつらは別です』


「まさか……」


『えぇ、奴等です。エスパース空賊団です』


 あ~その通気口みたいに見えたラッパみたいなやつ……この船の中にいる奴との、会話用のものだったのかよ。中で声を反響させて、ここまで届けてるんかね? まぁ、いいや。


 それで? 空賊団? 空賊じゃなくて、団が入ってるって事は……団体さんって事かよ。


「ぬぉわ!!」


 すると、また船が酷く揺れ、俺はバランスを崩してしまった。ヤバい、コケる!


「ちょっ……!!」


「うわっ!!」


 ……ちょっと待て、今目の前に、ジルが居たよな? つまりジルに向けて、俺は倒れ込んでしまったのか。だけど、奴の背丈からして、俺の胸の位置に、丁度奴の顔が……。


「むぐぐぐ!!」


「…………ふっ、男子一生の夢だぜ」


 あ~やっぱり、俺の胸に、ジルが顔を埋めてしまっている。普通の女性なら、ここで悲鳴の1つでも上げるんだろうが、俺は男だ。だから分かるんだよ、このラッキーな状況がな。


 だけど、流石にちょっと恥ずかしいんだよな……いや、気にするな気にするな。俺のこの体を使えば、面白いくらいにこいつは反応するんだよ。だから、もっと押し付けといてやる。


「ぷぁっ! ちょっと、マリナさん?!」


 あぁ、顔を上げてなんとか状況が分かったか? 今までにないくらい真っ赤にしやがって、やっぱり女性の体に興味あるんじゃねぇか。


「ふっ、遠慮するな……男なら、こういう事は考えるだろう?」


「何を言ってるんですか、僕はそんな事考えてません!」


「またまた~」


「ふざけてる場合じゃないんです! あなたの無駄に大きな胸には、興味なんかありません!」


「んなっ……!」


 興味なんかありません……だと。いや、別にそういう男もいるのは知ってる。要するに、ペチャパイが好きな奴とかな……こいつも、そうだったのか。


 いや、別にそれはどうでも良いだろう、なんでショックを受けなきゃならないんだよ。あ~イライラする。


「そうかい、分かったよ」


 そして俺は、ジルから離れると、そのまま部屋の出入り口へと向かう。


「待ちなさい、デカ乳女。どこに行くんですか? あなたは、私達と一緒に居て下さい。そして、今外は危険です。我が国で有名な空賊団が、この船を襲撃しているんです。今出ることは……ひっ!」


 うるせぇな……そっちの都合なんて知るかよ。


 なぜかむしゃくしゃする俺は、目の前で手を広げて制止してきたセレストの、直ぐ傍の壁を蹴りつけた。一歩間違えば横腹に入ってたが、ちゃんと動かなかったな。えらいえらい。


「俺がどうしようが俺の勝手だろうが、指図してんじゃねぇよ」


「ちょっとあなた、待ちなさい!」


 誰が待つかよ。ストレス解消しねぇと、今度はジルの奴を蹴り飛ばしそうだわ。


『あ~なにその態度……あなたねぇ』


 また出たよ、この妖精。いい加減にしろよな、お前も。


「減点するならしろや。そんなので、今の俺を止められると思うなよ」


『……あらら』


 そして俺は、居心地の悪い部屋を出ると、激しい戦闘音のする方に向かって行く。

 この船の内部の事は分からんが、戦闘音の激しい方に向かえば、戦闘が起こっているはずだ。


 憂さ晴らしに、何人か蹴り飛ばすか。


『艦内に侵入、繰り返す! 艦内に空賊が侵入!』


 ん? ジュストの声じゃねぇな。船員か? この船の中に侵入って、大丈夫かよこいつら。


「おっ? ひゃはっ! 女か? 丁度良い、捕まえて人質にしてやる! そうすりゃ『死魂』のジュストの元に、楽々辿り着けそうだぜ!」


 なんだその2つ名。かっこ悪。

 とにかく、いきなり俺の後ろに、その侵入したであろう空賊の奴が現れたよ。


 とりあえず、振り返って確認してみると、そいつはバンダナをしていて、黒いランニングTシャツに、そして綿のハーフパンツみたいなものを履いていた。いかにもな格好だな。

 それで武器は、なんだその刃が曲がってるナイフは? それもなんて言ったっけな……知識不足だな、ちくしょう。だけどな……。


「ひゃはっ!! げぶっ!!」


 それと戦闘の結果とは、関係ねぇんだよな。


 そして俺は、そいつが走って来ると同時に、脚を振り上げた。すると、見事にタイミング良く、そいつが俺に接近した直後に、相手の腹に俺の足先をめり込ませた。そしてそのままそいつを、天井に叩きつける事に成功した。


 あぁ、爆発はするなと念じていたら、本当に爆発しなかったよ。この能力は、念じれば爆発しないのか? 普通逆だろうな……ただ、この雑魚如きに能力は使いたくねぇ。純粋な力だけでも十分だ。


「さてと……かしらはどこかねぇ」


 こういうのはな、頭さえ潰せば、後は自然と崩れていくものなんだよ。本当に単純だ。

 ただ、部下の人数が多いと、それが難しくなるわけだ。さて、こいつらはどうだ……? 

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