裏話 暗躍する者?
マリナが最初の異世界の夜を過ごしていた時、ある場所では動きがあった。
そこは大昔、この世界に魔王が君臨し、その超絶な力を持って、人々を恐怖のどん底に陥れていた時代、魔王が根城として使っていた、巨大な城であった。
今は朽ちてボロボロになっており、いかにも邪悪な者が住みそうなくらいに、禍々しい雰囲気を出していれば、そこに近寄る者は誰もいなかった。
よって、ここでは密かに、ある者が暗躍をしていたのだ。
そして、その魔王が鎮座していた玉座の間に、誰かが入ってくる。それは、全身を黒い鎧に身を包んだ、騎士のような者であった。顔もフルフェイスのものなので、素顔は分からない。
「報告があります」
そして、その鎧の人物は、玉座につまらなそうにしながら座っている、もう1人の人物に声をかけた。明かりは月明かりだけで、その全容は良く分からないが、恐らく男性で、普通の人間のようである。
「ひょほほ、なんだ~い? よっぽどの事じゃなければ、私は動かないよぉ~ったく、全くもって『古代神器』が集まらないじゃないですか!」
「はっ……その古代神器ですが……」
「おっ? 手に入れたかい?!」
「いえ……残念ながら……」
「なら報告して来ないで下さい!!」
「うぐっ!」
どうやら、玉座に座っている者は、古代神器を集めているようであった。しかし、中々上手く集まらないらしく、苛立ちは募る一方のようだ。
そして、報告してきた鎧の騎士に向かって、その手を伸ばすと、鎧の騎士が突然苦しみだしたのだ。
「ぐっ……うっ……し、しかし報告によると、帝国の者達は、ジル・ディエンにやられた訳ではないようです」
「へぇ~雑魚にやられたんですか! それなら、尚更報告して来ないで欲しいですね!」
「ぐっ……そ、その者が……器だとしたら?!」
すると騎士の言葉に、玉座に座った者がその手を下ろした。それと同時に、騎士が苦しまなくなった。
「それを、なぜ言わないんですか?」
「言う前に締めたからです」
「……ふん、まぁ良いです。それで、そいつは確実に器なんでしょうね?」
「まだ確実な証拠は掴んでませんが、魔王様と似たような能力を使ったと言っておりました。それに、私も報告を聞く限りでは、確かに魔王様の技に近い感じがします」
また玉座の人物が、鎧の人物を締めようと、腕を上に上げた為、鎧の人物は慌てて最後まで言い切っていた。お陰で、締められてはいなかった。
「ふむ……魔王の眷属であったあなたが言う程ですから、可能性は高そうですね」
「……はっ、ですので、古代神器集めと平行して、この者の調査を……」
「いえ……そいつは、私が直々に見てきましょう。あなたは、引き続き古代神器を集めていて下さい」
「分かりました」
そして、玉座の人物がそう言うと、鎧の人物は頭を下げ、そのままその広間を後にする。
「ようやくですか……? いえ、早合点するのはまだ早いですねぇ……確かめないと……しかし……」
そう言うと、玉座に座っていた人物はゆっくりと立ち上がる。そして、何かを考えるかのようにしながら、その場をウロウロし始めた。
(あいつの手前言えなかったが……何十年もこの城から出ていないですからねぇ……ジルと一緒に居るようなので、その魔力を辿れば良いのですが、もしジルと別行動されていた場合、そいつの魔力は知らないので、地道に探さねば……ち、地図を持っていきましょうか)
どうやら、土地勘がないらしい。というのも、ここに来たのは、特殊な方法で来ていたからだ。その為、この人物は迷子にならないだろうか、不安になっていたのだ。
(えぇい、魔王を復活させようというものが、情けない!)
するとその人物は、悩みを振り払うかのようにしながら首を振り、意を決して広間から出る……が。
「んっ……?」
出たのはベランダだった。
城から出たことがないどころか、この広間から出た事もないらしい。そんなもの、生活はどうしていたのかと言うと、全てこの広間で済ませられるように、改造していたのだ。
そこまでして広間から出なかったのは、魔王復活の魔法陣を、何十年もかけてここに書いていたからである。
それは、かなり時間のかかるもので、才能のない者が書こうとしても、何百年と時間を要してしまう。
しかし、この人物は才能があったのか、既にその魔法陣は、半分以上が完成していた。
だが、ここで別の目的が発生し、その広間から出なくてはならなくなった。
それと、実はここに入る時も、魔法陣を作る事で頭がいっぱいになっていて、この人物はこの城の内部構造を、理解していなかったのだ。
という理由から……。
「出入り口はどこでしょうかねぇ……あの眷属に聞けば良かったか……あぁ、もう出てしまいましたか」
この人物が城から出るのには、時間がかかりそうであった。
そんな中、例の眷属の鎧の騎士はと言うと……。
「古代神器……」
(力を感じられない以上、地道に行くしかあるまい)
さっきまでいた城の周りに広がっている、うっそうとした深い深い森で、黒馬に乗って同じ所をグルグルと回っていた。
(うん? ここは来た事が……いや、合ってるはずだ、こっちだ)
しかし、この眷属は無自覚に、ただただ右に曲がり続けていたのである。実は、無意識に方向音痴だった。
しかも、どうやら魔力を感知する事が出来ないようで、古代神器の発する魔力や、人の発する魔力を感知出来なかった。純粋に、ただ力だけで魔王の眷属となっていた。
その為、この眷属が得意なのは戦闘であり、このような捜し物の任務などは、大の苦手であった。しかし、命令された以上やらなければならない。なぜなら、眷属を復活させたのは、先程玉座に座っていた人物なのだから。
だから、従わねばならない……魔王復活の為に。そう、2人の利害は一致している。
「むっ?! ここは……拠点となっている城……戻っ……た? ぬぬ……何者かの妨害か?」
だが……中々古代神器が集まらないのは、この眷属の迷子が原因でもあった。単純な人選ミス。そして……。
「おや? なぜ厨房に出るのでしょう?」
眷属を復活させたこの人物もまた……城から出られないでいた。2人とも、自らのプライドの為、自分が迷子になっているなど、認めたくはなかったのだ。
その為、ただひたすらに迷い続けていた。
「くっ……こうなれば……眷属さん~道を教えてからにして欲しかったですねぇ!」
しかし、眷属が教えなかったのは、自らもまた、道が分からなかったからである。実は内心、この広間を出る時に、道を聞かれなくて良かったと、眷属は思っていたのだ。
「魔王様の為に、この城を壊すわけにはいかないですし……困りましたねぇ」
そして、真剣な顔で悩む彼は、ひたすらに薄暗い廊下を歩いて行く。出入り口から離れて行きながら……。
「ぬっ……なぜ崖に?」
そして眷属は、断崖絶壁の崖に出て、その脚を止める。
「飛び込え……られんか」
そのまま、その崖の先を見つめる眷属だが、いくら力があるとはいえ、数十メートルはありそうな崖を、一気に跳ぶのは危険と判断したようだ。やろうと思えば跳べるだろうが、その先も森だったからである。
これ以上変な方向に行き、余計に迷ってしまえば、さぞ怒られる事だろう。
それにそもそも、眷属はどうやって報告に行けたのか。それは単純に、城に転移陣を張っていたからで、別の場所から、瞬時に城に戻れるのである。
しかし、出ることは考えていなかった。
「街は……どこだ?」
「眷属さ~ん!」
2人が目的を達成するには、どれ位の月日がかかるだろうか?
その前に、ジルの元に現れるのだろうか……それを考えた所で、結局はこの2人の頑張り次第なのであった。
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