第八話 悪巧み
ジルから離れ、俺は爆発音のした方に向かって行く。敵は何人くらいかね~
まぁ、まだこの世界に慣れた訳じゃないが、負けっぱなしでちょっとムカついてんだよ。それに、俺はうだうだと色々悩むよりも、行動する派だからな。
そして、ちょっと進んだ所の村の外れで、大きな声を出していた奴を見つけた。いや……というか、あまりにも格好が奇抜だったから、直ぐに分かったわ。
「居るのでしょう~! ジル君~!」
ヒゲを生やしていて、目は細くて、ヒョロヒョロの体型なのに、着ている鎧は厳つい……そして、頭のそれはなんだ? 角のつもりか?
細い尖ったものが、1本だけ空に向かって伸びていて、居場所がバレバレだったぞ。なんだあいつ?
「仕方ないですね~村を、燃やしちゃいましょうか~?!」
おっと、悪役定番の事をやって来そうだ。なるほど、こいつらは間違いなく悪人だ。略奪者だ。それなら、なんの遠慮も要らねぇな。
「3分以内に答えないと、魔法でここら一帯……」
そして、そのヒョロヒョロの奴がそう言い終わる前に、俺は草むらから飛び出すと、上に跳び上がり、片足を思い切り振り上げると、奴の背後の地面に、かかと落としを叩き込んだ。
「ぬわぁぁぁあ!!!!」
『ぎゃぁぁあ!!』
やべっ、上手く爆発してくれたのは良いが、勢いがさっきと違うぞ。
ヒョロヒョロの奴の背後にいた、10人程の部下達を、全員一掃しようと思ったら、爆発が強すぎて、ヒョロヒョロの奴まで吹っ飛んだぞ。それと、若干俺の脚も痛かった。
これ、叩き込む勢いによって、爆発の威力も変わるのか? だとしたら気を付けねぇとな。
「な、ななな、何事ですか?!」
「は~い、こんにちは~悪役の皆さん、やられる時間ですよ~」
「なっ! 村の女か?! 奇妙な格好しやがって!」
「てめぇには言われたかねぇわ!」
一番奇妙な格好してる奴が、何を言い出すんだ。
「くっ、お前等、やれ! やってしまえ!!」
「いやいや、さっきの爆発分からなかったか? お前の部下は全め……」
「了解」
「はっ……? うぉっ!!」
ヒョロヒョロの奴が、部下に向かって何か言ってやがったから、部下はとっくに全滅してると言おうとしたら、1人だけ返事しやがった。
そしてその後に、俺の背後から風を切る音が聞こえたので、慌てて背中を仰け反らせ、上半身を倒すと、その瞬間俺の上半身があった場所に、斧が水平に通り過ぎていった。もちろん、凄いスピードでな。
「反応は良いな」
「……っぶねぇ」
容赦なしかよ。いきなり殺しにかかってきやがった。
はは……これが異世界? これが、この世界の普通か? 邪魔する奴は殺す。それが、当たり前の世界。
とにかく、相手は分厚い鎧を着ていて、顎が割れている。なんというか、いかにも肉体派といった感じだな。それなら面白ぇ。いい勝負が出来そうだ。
「おら、来なよ」
そして俺は、手のひらを上にして、右手を突き出すようにすると、指先を何回か曲げて、相手を挑発する態度を取る。
「女エルフ如きが……調子に乗るな!」
「おっと!」
危ねぇ危ねぇ、いきなり斧を振り下ろして来やがったな。まぁ、後ろに飛び退いて避けたけどな。
というか、この斧は普通の斧じゃないぞ。刃の部分が広い、なんて言ったっけ……。
「むん!!」
「おぉっと!!」
そんな事考えてる場合じゃねぇ! 今のは危なかった。目の前を斧が掠ったぞ! あの野郎、踏み込でくると同時に、地面に突き刺さった斧を振り上げて来やがって……って、しまった。
「くそっ……目が!」
「ふん、身体能力の低いエルフが、喧嘩を売ってくるとは思わなかったぞ。しかし、経験が浅い。戦法がなってないな」
これ、戦法つ~のか?! 地面に突き刺した斧を振り上げるとき、一緒に土まで巻き上げて、俺の顔に投げつけてきやがって! お陰で砂が目に入った。こいうのはな、戦法じゃなくて卑怯っつ~んだよ!
「さて……しかし、このエルフ、殺すのは惜しいな」
「良いですねぇ~私達の女にしちゃいましょうか~」
ゲスい事言ってきやがった。まぁ、俺は今は女だし、そりゃこういう反応されるのはしょうがねぇが、いざ言われる身になると、これ程気持ち悪いものはねぇな。
「ちっ……このっ!」
「ぬぉ!!」
とにかく、俺は目を閉じたまま、相手の声のする方に向かうと、だいたい覚えていた相手の足の辺りでしゃがみ、そのまま足払いをかけた。
もちろん爆発させたから、相手はその衝撃でバランスを崩している。今だな。
「くらえや!!」
「ぬん!」
「なっ……!!」
足を掴まれた?! 嘘だろう、これ反応するのかよ! そんな分厚い鎧着てるのにか!
「ふん!!」
「あぐっ……!!」
しかも、そのまま思い切り俺を投げ飛ばして来やがった。咄嗟に受け身を取ったけれど、やべぇな……こんな強いやつと戦ったのは、何年ぶりだ? しょうがねぇ、少し本気でいくか。
だけど、俺がそう思った瞬間、俺の頭上にいきなり斧が現れ、振り下ろされてきた。動きが早すぎるぞ、くそが!
「うぉっ! あぶねぇっ!」
なんとかギリギリで、身を捻って相手の攻撃を避けられたけれど、あと数秒遅かったら、頭割れてたわ……危ねぇなぁ……。
「避けたか。しかし、さっきまでと動きが違うな」
「ふん、サービスタイムは終了だよ」
「強がりを……」
すると、俺の言葉にムカついたのか、そいつがまた、斧を下から上に振り上げた。またさっきと同じ行動かよ……。
だけど、今度のは違っていた。なんと、急に強い風が吹いたなと思った瞬間、俺の後ろの家が真っ二つに割れて、崩れていった。
おいおい、中に人は居ねぇだろうな? まぁ、居ても良いけどな。こんな目の前で戦闘やってるのに、それでも避難しないバカはどうでも良いわ。
「……で、これがなんだ?」
だけど、結局俺の身には何も起こってないんだよ。何がしたい?
「分かってないですね~どうやら、あなたは『特異力』を持っているみたいですね。ですが、ガルノさんも持ってるんですよ『特異力』をね! しかも、アビリティ系です!」
「『
ふ~ん、なるほどね。要するに、俺みたいな特殊能力が使えるってわけか。さっきのは、それを見せたかったわけかい。見せつけるより、攻撃して来いや。
「更に! ガルノさんは、耐火耐熱の鎧を着ています! お前の特異力など、効きはしないのです! さぁ、死にたくなければジル君を出しなさい!」
確かに、ガルノって奴はガタイが良くて、更には分厚い鎧を着ているから、俺とは一回りも大きさが違ってくる。
しかも、さっき爆発による攻撃をしてみたけれど、あの鎧、全く傷1つ付いていなかったな。加減しすぎたか。調整がまだ難しいな……特異力だっけ? あのジルって奴に、使い方を聞いてみようか。
だけど、加減が出来ないってだけで、最大限の火力で蹴る事は出来るだろうな。さっきまでの感覚でいくと……だけどな。
とにかく、次は加減しねぇ。
「……」
「無言と言う事は、出さないと言う事ですね。ガルノさん!」
「悪いな、嬢ちゃん。これも仕事なんでな……! 戦斧閃じ……」
「おせぇぇえ!!」
「がっ……?!」
おいおい、斧を頭上に掲げて振り回してんじゃねぇよ。隙だらけだっつ~の。だから俺は、その間にガルノとかいう奴の懐に飛び込み、そいつの腹と胸の間に、渾身の蹴りを入れてやり、激しい爆発を起こしてやった。
呆気ねぇな、あれだけやっておいて、これで終いとか……いくら分厚い鎧を着けて、耐火耐熱性とかがあっても、壊れたら意味ねぇだろうが。
「はっ、はは! バカですか?! そんなのでガルノさんの鎧が壊れ……てるぅぅう!!」
「…………」
いや、それにしても良く倒れずにいたな。立ったまま気絶してやがるわ。
鎧の腹の部分に大きな穴が空き、焼け焦げた臭いも漂ってるから、相当なダメージだったのは違いない。もう少し抑えるべきだったか? 死んでねぇだろうな?
だけど、モンスターには通じねぇんだよな、これ。信じられねぇな。
「さぁ……て。頭に角を乗せたお前。お前が、この隊の
「ひっ、ひぃぃぃ! だからどうした?!」
すると、俺がそいつに近付いて、話しかけようとした瞬間、そいつは思い切り後退って、逃げて行こうとしやがる。だから、逃がさねぇって。
「ひっ!!」
とにかく、俺は奴に向かって飛びかかり、そのままそいつの横の地面に、またかかと落としを叩き込む。さっきよりかは、爆発を押さえられたわ。よしよし。
「ひ、ひぃぃぃ……ま、待て。退く……退くから、命だけは……」
ん~まぁ、それはどうでも良いんだよ。ちょっと良い事を思い付いたからな。
そして俺は、そいつの目の前にうんこ座りで座ると、これでもかと言う程に、睨みつけてやる。それだけでも、相手は酷く恐がっていく。面白ぇな、こういうのはどの世界でも一緒だわ。
「おい、あのガキに何か用があったんだろう?」
「ひぃっ! ありません! なんの用事もありません! ちょっと遊ぼうと思っていただけです!」
ビビりすぎだ全く……言い訳が小学生みてぇじゃねぇか。
「隠すんじゃねぇよ。言え」
だから、俺は更に睨みつけ、相手を怯えさせていく。
そうすれば、相手は真実を喋らざるを得なくなるんだよ。痛い事はされたくねぇだろうし、ましてや殺されたくはねぇだろう。こういう力は無いのに、気だけがでかい奴は特にな。
「ひっ、いっ……あ、あの……いや、ちょっとジル君の持ってる『古代神器』を、頂こうかと……あの、いや、でも、もう良いです。もう盗りませんから!」
ほぉ……古代神器とな。なにやら凄そうな感じじゃねぇか。それを聞いて、良いことを思い付いたよ。
「おい、その『古代神器』ってやつは、凄いのか?」
「はっ? えっ、えぇ……そりゃあ、一国を滅ぼせる程ですから……」
「ほぅほぅ……一国か……」
そりゃあ良い……それをあのガキが持ってるのか。それならば、それを奪っちまえば、俺はこっちの世界では、向かうところ敵なしになりそうだな。
そうすれば、俺をこんな体にした奴等も、直ぐに見つかるだろうし、そいつらへのお仕置きも、徹底的に出来そうだ。
「よし、お前。部下を倒しちまったのは悪かった、むしゃくしゃしていたからな。その代わりに、俺も手伝ってやるから、ジルからその古代神器を……」
「……」
おっと、俺の背後から視線を感じるぜ。嫌な予感がする。
「あっ……わ、私はこれで……」
「あっ、待て……俺も……」
俺を置いて行くな、こら! 背後からの視線がヤバいんだよ。
「逃がしませんよ、グラース・ジョール」
『ぎゃぁぁぁあ!!』
やっちまった……いつの間にか、俺の背後にジルが立っていやがった……。
それでジルは、例の奇妙な術を使って、俺達の周りを一瞬で凍らせ、俺達を氷の中に閉じ込めてしまった。
まぁ、あれだな、奇妙な術と思いたいけれど、これはあれだよな……魔法とかいうやつだろうな。
とにかく、作戦は失敗だ……やべぇ、ジルの奴が怒ってる。この女の体の色気を使って、なんとか出来ねぇか?
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