第五話 女エルフに転生 ②

 賊どもと一緒にひたすら俺は逃げる。情けねぇが、このデカい化け物には、勝てそうにねぇ。あのクソ親父とはわけが違ぇ、マジで死ぬ。


「はぁ、はぁ、おいエルフ! お前特異力持ってんなら、何とかしろ!」


「だから、その特異力ってなんだよ!」


「はぁ?! 知らねぇのかよ! 特異力は、女神と邪神の恩恵って言われてんだよ。女神の恩恵は、受け取れば世界の英雄になれる程の能力だが、邪神の恩恵は、受け取れば世界を滅ぼす者として、倒すべき者としての烙印を押されちまう!」


「へぇ……それで?」


「てめぇのさっきの爆発がそうなんだっての!」


「あれか?!」


 とにかく、走りながら話してると、直ぐに息切れしてしまうぞ、早く隠れるなり倒すなりしねぇと。


 それで、俺がさっき蹴った時に起こった爆発、それが特異力だってのか? だとしたら、その女神か邪神のどちらかの恩恵だってわけか。


「それで、どうやって使うんだ?!」


「俺達が知るかぁぁあ!!」


 あぁ、まぁ……使える奴しか分からないってわけか。それなら、とりあえずまた蹴ってみるか?


 幸いそのオーガなんとかって奴は、走るのが遅い。ただ、遅いとは言っても一歩がデカいからな、あんまり差が広がってねぇんだよ。つまり、やっぱり逃げるのは限界があるようだ。


 それなら、倒すしかねぇか。


 とにかく、逃げられないと分かった俺は、地面に右足を踏みしると、そのままその場に留り、緑色のそいつを睨みつける。


 すると、ゴブリンも俺が立ち止まったからか、走るのを止め、俺の前で立ち止まった。


「へっ、良い度胸じゃねぇか、あぁ?!」


「ブフゥ……!!」


 鼻息くせぇな……くそが。そしてな、こういうのは先手必勝なんだよ。


「おらぁあ!!」


 そして俺は、踏みしめた右足で地面を思い切り蹴ると、その勢いで緑色の化け物の土手っ腹を蹴りつける。すると、さっきと同じようにして、爆発を起こした。


 おぉ、すげぇな……これは。俺の足も大丈夫そうだし、これ、使えるんじゃね? それと、相手が避ける素振りもないんだが、俺の攻撃の速さに対応出来なかったのか? 弱ぇな。


「ブゴッ」


「えっ? おっ、ちょっ!!」


 ちょっと待て! ピンピンしてやがる! 嘘だろう、後ろにも下がっていないなんて、どんだけ頑丈な体してやがるんだ! 結構強めにいったんだぞ! くそ、だから避けなかったのか!


「うぉ! この野郎! 離しやがれ!!」


 しかも、そのまま脚を掴まれてひっくり返され、持ち上げられたぞ?!

 ズボンで助かった……じゃなくてだな、片手で俺を持ち上げるとか、女だからとは言え、まるで獲物を狩った後みたいだ。俺がひ弱になったみてぇじゃねぇか!!


「いぃぃぃい……!! ケツ触んな!!」


 更に、俺のケツまで撫でて来やがった。おい、待て……まさかこのまま……や、止めろ!! 気持ち悪い! 俺は男なんだぞ! 寒気がする!!


「離せ! 離しやがれ!!」


「グッグッグッグッ……」


 笑ってんのか、それ! 顔面を蹴ってもビクともしないし、そうやって目を細めて、気色の悪い笑い方をされたら、鳥肌が立つわ!


「ちくしょう! おい、お前等助け……!」


 とにかく不本意だが、あの賊どもに助けを……と思った俺がバカだった。あいつら、もう居やがらねぇ。逃げやがった……。


 まぁ、俺も同じ事をするがな……って、そんな事考えてる場合じゃねぇ!! このままじゃあ、殺されるよりももっと酷い事をされてしまう!


「離せっての! この化け物が!!」


 それでも俺は、必死に奴の顔面を蹴りつけて、さっきの爆発を起こしているが、やっぱりダメージになどなっていなくて、平気な顔をしながら、俺を連れて行こうとしやがる。


 ここまでなのか……俺は……これは罰か?


 あぁ、好き勝手して生きていたから……今度は俺が好き勝手されるのか? 俺が死んだ直後に話してた奴……本当に許さねぇ。


 だけどその時、俺はほんの少しだけ……自分が男の時にやって来た行動を、悔いた。


 その瞬間。


「グラース・ランス!」


 氷の槍みたいなものが飛んで来て、俺を掴んでいたゴブリンの額に、深く突き刺さった。


「ゴォ……ブッ」


 そしてそのゴブリンは、そのまま前に倒れていく。待て、捕まったままじゃマズい! 俺が潰れる!! に、逃げ……って、脚を掴まれてるから逃げられねぇ!


「あっ、いけない」


 すると、またさっきの声が聞こえた後、俺の体は風に包まれ、倒れるゴブリンから助け出されると、そのまま声のした方に引っ張られて行く。


 なんだなんだ、何が起こっている?!


「大丈夫ですか?」


「えっ? あ、あぁ……」


 そして、俺が無事に地面に着地した後に、その後ろから幼い声が聞こえて来る。それを聞いて、俺が後ろを確認すると、そこには少年が立っていた。


 膝までの白いズボンに、黒いノースリーブシャツの上から、奇っ怪な形をした、青いラインの入った白い服を羽織っている。まるでマントみてぇだな。それと、手には身の丈ほどの杖を手にしている。


 ただ、格好はともかくとして、外見はまだ子供だぞ。茶髪のショートヘアーに、二重の目は半眼で眠そうな感じだ。だが、将来イケメンになりそうな顔付きだな。まだあどけない顔をしてやがるがな。


 それにしてもだ、こいつがさっきの氷の槍を飛ばした奴か? 俺が倒せなかったゴブリンを、一撃で倒したぞ。


「ブゴォオ!!」


 しまった! まだいたんだ! しかも、かなりキレてやがる。どうする、逃げるか……だが俺は……。


「下がって……」


「あっ、おい! ガキが1人で……」


「グラース・エペイスト!」


「ブッ……?!」


 すると、そのガキが杖を前方に突き出してそう言うと、周りの水分が緑色の化け物の頭上に集まっていき、冷え固まっていくと、そのまま装飾の施された氷の剣になった。細けぇな、おい。

 そして、その氷で出来た剣は、そのまま化け物の頭上から振り下ろされ、その化け物を一瞬で真っ二つにしてしまった。なんか、情けない絶命の声だったな。


「ふぅ……全く、オーガゴブリンに素手で立ち向かうなんて」


「あっ? というか、お前誰だよ」


「……」


 答えろこら! ジッと俺の顔を見てんじゃねぇよ、タダじゃねぇんだぞ!


「な~に見てやがる、お前も俺を襲う気か? あぁっ?!」


「それなら助けないでしょう? それと……立たないんですか?」


「うるせぇ!! 今立つわ、ボケ!」


 本当は腰が抜けてるんだが、このガキに知られてたまるか。こんな、情けない事……だからさっき逃げられなかったんだよ。


「腰が抜けてるんですか?」


「違ぇよ! うるせぇな」


 今立とうとしているのに、いちいち口出しするな。黙ってろよ。


「うぉっ?!」


 だけど、そいつが俺の腰に杖を当てた瞬間、俺の腰が軽くなり、立ち上がる事が出来た。


「やっぱり腰が抜けてたんじゃないですか」


「…………」


 すました顔して言いやがって。ガキのくせして、なんだその態度は?


「てめぇ……どういう教育されてんだ? あぁっ?!」


 これは俺が言うべきじゃねぇが、このガキ、見た目のような子供らしさが全くねぇんだよ。俺以上に酷い教育されてんだろうな。


「……それより、なんでここにいるんですか? ここは、さっきのオーガゴブリンが暴れていて、危険とされていますよ。まぁ、そのオーガゴブリンに襲われた旅人を狙って、さっきみたいな山賊が、コソ泥の様にして荷物を奪っていったりしていますけどね」


 俺の質問は無視かよ……それに、ここはそんな危険な場所なのか……本当に、あの声の主は殺す。早く探し出さねぇと。

 それにしても、なんというか……付いてない感覚が、凄く不安になってしまうな。俺はもう男じゃないっていうのを、無理やりにでも自覚させられてしまう。これは危ないな……。


「それで? なんでここに?」


「うるせぇなぁ。気付いたらここに居たんだよ」


 このガキは、この近くに住んでいるのか?

 とにかく、変な能力が俺に身に付いてるわ、変な術が存在してるわで、ここが確実に日本じゃないのは分かった。それじゃあ、ここはどこなんだよ?


「予言通りだ……」


 なんか言ったか? とにかくここが危険なら、これ以上ここにいたらダメだ。早く行かねぇとな。


「まぁ、助けてくれたのは礼を言うが、正体も分からない奴と、これ以上一緒に居ると危ないからな。俺は行くぜ」


「……どこに?」


 首を傾げながら聞くな。言った後に気付いたぞ。あの声の主を探すとはいえ、街ってどっちにあるんだよ。


「行くあてがないのなら、僕が寝泊まりしている村に来ませんか? 1人くらい増えても大丈夫でしょう」


 村って……街じゃねぇのかよ。情報を集めるには、人が多い方が良いんだが……。


「いや、この辺に街はねぇか?」


「街ですか? この国に街はないですよ。結構貧しい国ですから」


「……」


 街がねぇのかよ。嘘だろう、どれだけ貧しい国なんだよ。だけど、それが事実なら、一刻も早くこの国から出て、人の沢山居る豊な国に行かねぇとな。


「はぁ……で、この国から出るには?」


「えっ? 通行証が要りますよ。あなた持ってますか?」


 おい、詰んでね? そりゃそうか……国と国との行き来を、そんな簡単に出来たら大変だよな。


 くそ、よりにもよってこんなへんぴな所に……あの暗闇で聞いた声の主、2~3回殺してやるからな。


「それで、どうするんですか? このまま行って、またオーガゴブリンの餌食になったらどうするんですか? それと、他にも強力なモンスターはいっぱい居るし、それに何よりも、もうすぐ日が暮れます。急いで村に戻らないと、危険ですよ」


 日が暮れたら何かあるってのか? 確かに、もう日が暮れかけている。いつの間にそんなに時間が……。

 しょうがねぇ、このガキの事はまだ信用出来ねぇが、その村まで案内して貰おうか。


「ちっ……わぁったよ。その村まで案内しろ」


「分かりました」


 そう言うとそのガキは、俺に背中を向けて、そのまま歩き出した。おいおい、背中ガラ空きにしてよ、俺が襲わないとでも思ってるのかよ。確かに襲う理由はねぇけどな。


 それと良く考えたら、こいつが俺を襲う理由も、あまり見つからんな。よっぽどの理由か、モンスターでもない限りな。

 だけど、ガキとは言えこいつも男だ。俺のこの女の体を見て、何かしてくるかもしれない。警戒だけはしとかねぇと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る