第四話 女エルフに転生 ①
「…………」
俺はいったい……確か、あのガキにめちゃくちゃに刺されて……。
真っ暗な暗闇の中で、俺は自分の身体が落ちて行く感覚に陥っていた。
ヤバい、これは……もしかして俺は、地獄に落ちるのか? まぁ、別に良いだろう。なんだかんだ言って、俺はあの世界に未練はねぇ。
それならいっそ、地獄の鬼相手に喧嘩ふっかけてやるのも良いかもな。そして鬼に勝てたら、あのクソ親父が地獄に落ちてきた時、今度は逆に、俺が暴力振るって扱き使ってやるよ。
そう思うとな、いきなり襲って来た、この身を焼く程の高熱も、太陽の陽気みたいに感じるぞ。
これなら、地獄だろうとなんだろうとドンと来いだ。それこそ、地獄で地獄のパーティーを開いてやるぜ。
『……ダメだこれ、このまま地獄じゃマズいなぁ……』
んっ? 何か聞こえたぞ。
『ここまで見事に反抗的だなんて……これじゃあ本当に、地獄で暴れられちゃうよ。そうなったら、こいつを案内した私は、え、閻魔様のお仕置きぉお!!』
なんだこの声? おい、誰かいるのか? と声を出そうとしても、声が全く出ないんだが? どうなってる。一方的に何かが起こってるのか? おい、ふざけんなよ! 俺の意思も尊重しろ!
『えっ? 試練を与えろ? そう言われても……えっ? 願いが来た? 誰のです? 嘘! そんなの使える人いたの?! はぁ……まぁ、分かりました。実際やってのけた人がいるから、願いが来たんですもんね。それじゃあ、それをやった人の世界で良いですか? あぁ、むしろそうじゃないとダメなんですね。分かりました。それじゃあ、あの世界に移しますね。そ~れ!!』
おい待てこらぁ! なんか話が進んでるが、本人の意思は無視か?! 上等じゃねぇか! てめぇら、全員ぶちのめしてやるからな! 出て来い、こらぁ!! って、声が出ねぇ!
そして、俺が必死に声の主達を探そうとした時、今度は身体が急に浮き上がっていく感覚がして、一気に辺りが明るくなっていく。それと同時に、身体の感覚も戻ってきた。
よぉし……それなら目が覚めた瞬間に、あいつらを探して、一緒に地獄に叩き落としてやる。ふっふっふっ……。
―― ―― ――
「はっ?! あっ……ここは……」
暗闇の中で、浮き上がって行く感覚が続いた後、突然俺の耳に、風の音や、木々の葉の擦れる音が聞こえてきた。
だから、目を覚ます事が出来ると感じた俺は、そのまま飛び起きた。これはまるで、さっきまでの事が、夢を見ていたかのような感覚だな。
だが……確かに何かが起こったんだろう。俺が目を覚ましたのは、さっきの場所とは違っていたからな。
というか、俺は確実に死んだはずだ。あれだけ刺されたんだからな。それなのに、生きてるのか? これは……。
「なんだ、ここは……」
とりあえず、声が高いのは一旦置いておくか。それよりもこの場所だよ。辺り一面大草原が広がってるじゃねぇか! なんだここは?! 日本か? ここは日本なのか? いや、なんだか違う気がする……。
「……ちくしょう……あの声の主はどこだ。それと、胸になんか付いてるのか?」
とにかく、俺の体も何かおかしい。声の高さもだが……胸に巨大なできものが付いているんじゃないかって、そう錯覚するほどの感覚がある。
「ちっ……んだ、これ」
そして俺は、それを乱暴に掴んでみた。すると……。
「んぁっ! はっ……! えっ? ちょっ……待て、これ……まさか」
俺のものとは思えない程の声が出てしまった。いや、なんだこれは?! 乳首をつねられたような……いや、それよりもっと凄い感覚が襲ってきたぞ。
と言うかこの感触、この弾力は……おっぱいじゃ……。
「はっ……まさか……まさかまさかまさかまさか!」
とにかく、姿を映すもの! 鏡なんかここには無いだろうし、水だ水! 池、湖、何でも良い!
そして俺は、ひたすらにそれを探して走り出す。
あぁ、胸が邪魔だ。というか、割とデカいな……D以上は確実だな、これは。しかし、デカいと走りづらいのか。出来たら取りたいもんだな。
「はぁ……はぁ……あっ? この音……あれは!!」
すると、しばらく走った先で、水が流れる音が聞こえてきた。俺は慌ててその近くに向かうと、予想通り、そこには川が流れていたよ。
助かった、これで自分の姿を確認出来るぞ。それと、走ったからか喉が渇いた。まぁ、夏になる手前の、微妙な暑さだからな……。
そして、俺は川を覗き込み、自分の姿を水面に映し出す。すると、そこに映っていたのは、俺の面影なんてどこにもない、耳の長い女性の顔だった。唯一同じなのはつり目だけか?
金色の短髪の髪は、同じ色のロングポニーテールに。口も小さくて、身体の線も女性のそれだ。
歳は……俺と同じくらいに見えるな。俺が18歳だったから、この姿もそれくらいだろう。
更に、腰がそこそこくびれているから、大きな胸がより目立つぞ。男なら、1度は抱いてみたい体型をしてやがる。
しかし、こんな良い体型の女性を見たら、少し興奮し……って、これは俺だ。つまり興奮したところで、俺の立派なイチモツは反応しない。付いてない感覚が、凄く恐ろしい気分になってしまう。
とにかく、服装が男の時に着ていた、自分の学ランだから……俺がこの女性になったという事は、まず間違いない。
その前に、この服装じゃあ色々とマズい。腰が細くなってるから、ズボンがズってしまいそうになる……のに、上は胸がキツい。まぁ、ズボンはベルトで締められるか……しかし、胸がなぁ……。
「ちくしょう……あの声の奴等……俺に何しやがった!」
とにかく、耳が長いのも気になる。なんだこれは? ピクピク上下に動かせるし、おおよそ人間っぽくねぇぞ! こんな人間、日本にいたか?
とりあえず、原因は恐らくあの声の主……あいつを見つけないとな。そして、俺に何をしたのか説明して貰わねぇな。いったいどこにいる?
「んっ?」
するとその時、俺の背後に、何かの気配を感じた。
人か……? うん、水面にバッチリと顔が映ってる。三流だな。小汚い格好をしていて、小物感丸出しじゃねぇか。
というか、変わった格好だな。それ、ベストか? なんかの毛皮で作ってるみたいだな。だけど、肌着くらい着てくれねぇか? 汚ぇ胸毛が見えてて不愉快だぞ。
「おっと……!!」
「うぉ、ちくしょう!」
すると、野郎の1人が後ろから、俺を捕まえようと両手を広げて向かってくるが、バレバレだったから直ぐに距離を取り、難なく回避してやった。
「バレバレだぜ、てめぇら」
「ちっ……! エルフのくせしやがって、瞬発力だけはあるじゃねぇか」
エルフ? 誰の事だ? まぁ、とにかく、襲って来た人数は……5人か。丁度良い、むしゃくしゃしていたからな。こいつらで憂さ晴らしといくか。
「おら、大人しくしな」
だがナイフは出すな……しかも5人全員。
マズいな……囲まれないように動いてはいるが、背後が川だから上手く動けないぞ。
「よし、捕まえろ!!」
そして、最初に襲ってきた奴がそう叫ぶと、残りの4人がそれに続くようにして、俺に向かって来た。
とにかく、今の俺は女の体だから、力が落ちている事も頭に入れとかねぇとな。
喧嘩ってのは、その時その時で状況が変わる。だから、自分の置かれている立場を十分考えて動かないと、予想外の展開で、自分がピンチになっちまう。
おっと、ナイフを横に振ってきたか。甘いねぇ、見えてるぜ。だから簡単に避けられる。気を付けないといけないのは、突いてくる事だな。
それで俺は、あのガキに殺されちまったんだからな。
とにかく俺は、奴等の攻撃を右や左に避けながら、そんな事を考えているが、良く見たらこいつら、隙だらけだったわ。
あ~なんかイライラしてきた。こんなので俺を捕まえようなんて、おこがましいんだよ、ボケが!
そして俺は、身を低くしてそのバカ共の攻撃を避けると、そのまま真っ直ぐ懐に飛び込んで行く。
「オラァア!!」
「ぎゃぁぁあ!!!!」
その後、俺は向かって来た1人の土手っ腹に、渾身の力を込めて、横腹辺りを蹴り入れた。するとその瞬間、なんと俺の脚が爆発したのだ。
「な、なんだぁあ!!」
山賊が驚く前に、俺が驚いちまったよ。あ、足! 足取れてねぇか、おい!! なんなんだ、これは!!
「こ……こいつ、特異力を持ってやがる!」
「嘘だろう?! しかもボディ系じゃねぇか! 冗談じゃねぇ! なんでエルフが、そんな特異力を持ってんだよ!」
おぉ……なんだか良く分からない言葉を……あぁ、とりあえず足は無事だな……って、今度は俺の足がぁあ!! 燃え、燃えて……って熱くない! 本当に何が起こってるんだ!
しかも、その炎が鬼みたいな顔になっていて、俺の脚に纏っている。いや、もうわけ分かんねぇよ。一気に色んな事が起こりすぎだ!
「に、逃げろぉ!! 特異力を持ってる奴に勝てるかよ!!」
おい待て、お前等! 俺のこの謎の現象をとく……なんとかとか言ったよな! なんか知ってるんだろう、教えていけや!
「逃げるなや、待て!」
だけど、俺が追いかけようとした瞬間、そいつらがUターンして戻って来やがった。
そうかそうか、親切にも教えてくれるのか……と思ったら、更に焦った顔をしてやがる。なんだ? 何かに追われてるのか?
「あぁぁぁあ!! どけぇ!! モンスターが来たぁあ!!」
モンスター? あぁ、ゲームとかで良くあるやつか……って、日本になんでそんなものが……と思いたいが、既にここは日本じゃない可能性が出て来たな。日本じゃあり得ない事が、色々と起こっちまってるんだよ。
とにかく、モンスターってどんな……。
「ゴフゥ……!!」
「…………ん?」
そしてそこに現れたのは、体が緑色で、耳は長くてブタみたいな鼻をした、何とも醜い顔をした奴だった。
手には棍棒を持っているし、筋肉ムキムキのそいつは、小汚い賊どもを追いかけていた。
うん、デカいな。今の俺の体は縮んでしまっていて、150センチくらいか? それでもかなり見上げてしまうから、このモンスターは、2メートル以上は確実にある。
「ブフォォオ!!」
「ほぉっ!!」
そして、そいつはその手に持った棍棒を振り下ろすと、地面を叩いてきた。あぁ、賊どもはギリギリ避けやがったか、惜しいな。って、地面が捲れたぞ、おい!!
「あぁぁぁあ!! 逃げろぉ!! オーガゴブリンになんか、勝てるかよぉ!!」
「なんで旅人や商人を狙わねぇんだ、ちくしょう!!」
「うぉぉお!! オーガゴブリンってなんだよ!」
しまった! 俺まで賊と一緒に逃げちまった!
だが、しょうがねぇぞこれは! 圧倒的暴力とか、そんなレベルじゃねぇ! 死ぬわ!! いったいなんなんだよ、この世界はよ!
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