第3話 誰にでもできる、簡単な荒事

 軽やかな電子音とともにエレベーターのドアが開き、相良龍一と望月崇は『ハイパーポリア沙河』38階のペントハウスに通じる通路へ降り立った。

『今村ドリィムイノベーション』とプレートに書かれた文字を確かめた。エンボス体で描かれた社名の真下に「この先企業私有地につき、関係者以外立入禁止」と書いてある。それにしてもこの会社、「ドリーム」ではなく「ドリィム」と表記して恥じない点が実に気色悪いと思う。

『皆さん、人生を楽しんでいますか? 素晴らしい仲間と一緒に、毎日頑張っていますか?』

 中庭からはマイクを使っているのか、司会らしき女性の声が微かに漏れている。

『初めての方も結構いらっしゃいますね。ちょっと緊張しているかな? たぶん知り合いから、あるいは顔見知りというだけの知人から、もしかしたら初めて会った人から、話を聞いてこちらに来られた方もいるかも知れませんね。半年で年収が倍に、それどころか四倍以上の利益が上がると聞いて、皆さん、どう思われました? 『そんなうまい話があるものか』そう思われたんじゃありませんか?』

 笑声と、少し照れたような笑声が半々ほど。

 鬘と、顔の仮面がずれていないかを確認する。互いに頷き合い、そっとドアを開けた。

 洗濯物のよく乾きそうな上天気の青空だった。体育館ほどの広さがある屋上は、ビュッフェ形式の宴会場となっていた。BBQグリルまで設置され、肉の塊が串に刺されて油を滴らせている。銀の器に盛られた色鮮やかな南国のフルーツ、それ自体が細工物のように精緻な見た目のピンチョス。仮面越しでも芳香が鼻孔をくすぐるような気さえして、龍一は腹が鳴り出さないか心配になっ た。

 一段高い壇上にマイクを持った、ステージ芸人のように派手なラメ入りスーツを着た恰幅のいい女性が立ち、その周囲でシャンパン入りのグラスや紙の皿を持った人々が聞き入っている。年齢はまちまち――子供を連れた若い夫婦、友人同士らしい着飾った中年女性やどこかの商業主らしい初老の男性など。

『そう、私も初めは半信半疑でした。でも使い始めて数日で、肌がまるで赤ちゃんのようにつるつるになったんです! こんな素晴らしいものが世間に知られていないなんてもったいないどころではない、一人でも多くの人に知ってもらうのが私の使命だと、その日以来思うようになりました……』

 それにしても予想以上の人出だ。隠密行動など本当にできるのかという気になってくる。

「……直接乗り込む必要があったのか? ドローンを送り込めばそれで終わる話だろ」

 イヤホンから十代の少女――瀬川夏姫の快活な声が流れ出た。【そうは行かないから、あなたたちの出番なんでしょ。そのへんで一番高いところを見て。高所に衛星放送とは別のアンテナがあるでしょ?】

 見ると、屋上に短めのアンテナが立っている。BS用のパラポラとは違い、何かを発信するためのもののようだ。

「ドローン妨害システムか……」

【週刊誌の記者に空撮されそうになって以来、だいぶ慎重になったみたい。無線機器やEMPパルスを完全に受け付けないの】

「ビビってても仕方ねえ。行くぞ」

 何しろ龍一も崇も、京劇で使う色鮮やかな孫悟空の仮面を被り、弁髪の鬘を付け、踵まで隠れる裾の長い服まで着て移動しているのだから、傍から見れば相当異様な姿に違いない。

 あきれたことに、ぎょっとしたような視線や不審そうな視線こそさんざん浴びたものの、浴びただけだった。会場そのものが高揚した、浮わついた雰囲気の中にあるからだろうが、面と向かって不審者扱いしてくる者は誰もいなかった。仮面のおかげで表情こそ見えなかったが、崇はさぞかし得意げな顔をしているに違いない。

 裕福そうな両親に手を引かれた小さな男の子が目を丸くしているので、手を振って見せたが、男の子は驚いて母親の背後に隠れた。たぶん姉だろう、少し年上の女の子が唇を引き結んで蹴りを入れてきたので龍一が大げさに飛び退くと、周囲から好意的な笑い声が聞こえた。

「結構馴染んでるじゃないか」

「合わせてんだよ」崇にこれ以上得意そうな顔をされたくないのでそう返事した。

 本日の目標に近づいてきた――かなり広い屋上の、その大半をペントハウスが占めていた。白と銀を基調にした建物はほとんどがガラス張りで、シックな色合いの書棚やソファやグランドピアノに加え、ちらりと見えた居間には深紅のスポーツカーまで置かれていたのには驚いた。こんなところにどうやったら住めるのだろうと龍一はいぶかった。

「何をどうやったらこんなところに住めるんだ?」

「さあな。一億五千万人ぐらい詐欺にひっかければいいんじゃねえのか」

「これに加えて自前のサーバールームまであるってんだから、まったく恐れ入るよな……」

「まあ、効果はあったんじゃないのか? 俺たちがこうして足を運ぶ羽目になったんだしな。ネット経由でのハッキングが不可能って言われちゃ仕方ねえ」

 崇の言葉に頷く――もうすぐ、その用心は無駄になるわけだが。

 ペントハウスの裏手に回り込んだ時、問題が発生した。警備員が2人、険しい顔で駆け寄ってきたのだ。

「ちょっとちょっと、あなたたち、何その格好?」

「どうもお疲れ様です。本日はお招きに預かり……」

 年配の警備員がこれだから最近の若者は、という調子で首を振る。「困るよ、芸人さんだからって被り物して入ってこられちゃ。こっちだって保安上の責任があるんだから……第一、出し物があるなんて聞いてないんだけどね」

 崇はわざと頭を掻いてみせる。「そう言われましても……何しろ社長様より直々に頼まれまして。ちょっとしたサプライズなんじゃないですかね?」

 警備員は胡散臭げな顔をしたが、やがて傍らの若い方に顎をしゃくった。「そうなの……まあ、念のため確認するから名前書いて。はいこれペン」

「ああいいですよ、用意してるんで」

 崇は龍一に顎をしゃくり、龍一は頷いて袂からペンを取り出した。キャップを外し――床に落とす。

  バインダーを持つ警備員の手をペン先で突き、手首を返して首を突いた。目の前の警備員が痛みよりも驚きで目を見開き、声を上げようとして――その場に倒れる。手の中でペンを回転させ、目を丸くしているもう一人にアンダースローで投擲した。叫ぼうとしたその顔が瞬時に弛緩し、オーバーな仕草一つなく倒れた。

 ガスマスクの内で息を吐いた。「ダーツの練習、しといてよかった……」

「練習したからってできる芸当かよ。相手は動かない紙の的じゃねえんだぞ」

【うまくいったみたいね。そのまま進んで。カメラは欺瞞済みだけど、次の定時連絡がなければ怪しまれるわ】

「わかってる。どっちみち、それまでに片付けられなかったら失敗だろうな」

 意識のない警備員たちを室外機の陰に隠すと――目が覚める頃には決着がついているだろう――崇は身をかがめ、建物の影へ音もなく消えた。

 龍一は懐から黒光りする金属筒――単発式のグレネードランチャーを引っ張り出した(これらの道具が隠しやすいというのも、この服を選んだ理由ではある)。擲弾を装填し、ペントハウス上部の通風孔に向けて一発、撃った。軽い発射音とともに擲弾は飛び、 壁に当たって跳ね返る――ことなく、接着されたようにへばりついた。

 擲弾が変形し、小さな四輪付きの脚部が展開、小型のドローンとなる。表面に粘性を持つ四輪を転がし、小さなマジックハンドで器用に通風孔のビスを外すと、奥に消えた。

「夏姫、仔豚が侵入した。後は任せるぞ」


「まーかせて」

  指先でインテリジェントグラス《スペックス》の位置を調整しながら夏姫は答えた。ついでに髪型も確かめる。ドローンを利用した精密作業には確かに視界の広いHUDの方が向いているのはわかっているが、あれはせっかくセットした髪が崩れるからあまり好きではないのだ。龍一は「邪魔になるんならポニーテールでいいじゃないか」と言うが、 お生憎様。今日はお団子にしたい気分なのよ。

 彼女の視界には今、視界を共有しているドローンからの映像がリアルタイムで投影されている。目の高さは低く、周りの物体すべてが実際より大きく見える。小人の幽霊にでもなった気分、というところか。

「ねえ、望月さんって私のこと嫌いでしょ?」

【いんや。何でそう思う?】

 通風孔からドローンを落下させる。最低限の明かり以外照明はなく、黒々としたサーバー群が緑色のランプを点滅させている。

「わかるもの。私を見る目に、ときおり隠し切れない憎悪の光がきらめくの」

 回線の向こうから鼻でせせら笑う気配が伝わってきた。【自意識過剰もいいとこだな。俺、嬢ちゃんにそこまで興味ないし】

 今度は夏姫が鼻で笑う番だった。「興味ない興味ないっていう割りに、ぎらついた目が隠せないから言ってるのよ。自分も騙せないような嘘はほどほどにお願いね。心配しなくたって、あなたから龍一を獲ったりしないわよ」

 一瞬、間があった。返事を待つその間で、ドローンから伸縮式のプローブを伸ばし、サーバーへの直接アクセスを開始する。

「私には彼が必要なの。どこまで私が彼に必要とされているかは、今のところちょっと怪しいけど。そして龍一は当分、あなたをインストラクターとして教えを乞わなければならない」

 低く、妙に感情を欠いた声が返ってきた。【……そうだよ。いつお前があいつを股ぐらで咥え込むかと思うと、おちおち夜も眠れねえよ】

 もうちょっと白を切ってほしかったんだけどな、夏姫は宙を仰いで嘆息する。いい年したおじさんが、年頃の小娘の前であまりピュアな心情を披露しないでほしい。反応に困る。

「それを邪魔するつもりはないから、あなたも私を階段から突き落としたり、後頭部を撃ち抜かないでほしいの。OK?」

 目的の〈リスト〉は当然防壁ファイアウォールで守られていたが、予想していたので面白くも何ともなかった。時間をかけていられないので力業ブルートフォースでセキュリティを突破する。

【……わかった。その言葉忘れんなよ。お前の腕前は認める。だけどインストラクターは俺だ、お前じゃない】

「もちろん」聞こえないように、夏姫は息を吐き出す。小娘が〈男たちの砂場〉に踏み込むのはそれなりの気遣いが必要みたい。本当は「はいはいホモソーシャルホモソーシャル」と言って冷やかしてやりでもしないとこちらがこっ恥ずかしくていたたまれないんだけど。

【今、『箱』に穴を開ける。中継器を投げ込んだらすぐデータの吸出しを始めろ】

「はいはい了解」

 龍一が腐るのもわからなくはないわね、と夏姫は思う。だってこれじゃ人はただのドローン運搬人だもの。やっぱり犯罪って、計画している間が一番楽しいな。


「ドローン妨害だけじゃないな。建物自体が一種のファラデーボックスか」

 崇は一人合点しながら、ガラスにサラダボウルにも似た機器を吸盤で装着する。

 ペントハウスにはガラスから壁材に至るまですべてインテリジェント素材で構成されており、傷一つ、罅割れ一つ入れただけで警報が鳴り出す。それを欺瞞するにはそれなりの準備が必要となった――数週間前から近隣ビルの一室を借り、ドローンの接近可能範囲ぎりぎりまで接近して情報を集めた、その成果を実行に移す時が来ていた。

 ガラスに密着したサラダボウルの底辺から、ジッ、と微かな音と何かが焦げる臭い。数秒待って動かすと、ガラスはきれいな円形にくり抜かれ、代わりに半透明の薄膜が出現していた。

 人差し指で軽く触れると、スマート素子の薄膜は音もなくすっと左右に分かれ、ペントハウス内部への穴へと変わった。

「……もっとも、これで『箱』どころか、ただの穴ぼこが開いた壁だけどな」

 壁に開いた穴の前で麻酔銃を構えた。「今、何か音がしなかったか?」と話しながら上階から二人組の警備員が降りてきた。視界に入った瞬間に撃った。圧縮空気による鋭い射出音。先頭の警備員がぐにゃりと床に倒れ伏し、目を丸くしていたもう一人も第二弾で崩れ落ちる。

「龍一、番犬は眠らせた。ここまでお膳立てしたんだからへますんなよ」

【急かすなよ、インストラクター】

【そうよ、私の方の用事も忘れないでよね】

 ませたガキどもが、と崇は苦い顔をしながら、壁の穴に球形の中継用ドローンを放り込んだ。

 

 電磁石を応用した解読機でロックを解除し、龍一はペントハウスのさらに最上階に位置する社長室に足音もなく滑り込んだ。

  社長にふさわしい重厚なインテリア。染みどころか髪の毛一本落ちていないベッドルーム。全面ガラス張りのフロアから下界を見下ろすと、地上を行き交う人や車がミニチュアにしか見えない。ここに女を連れ込んだりワイングラスを手に「独裁者ごっこ」ができるわけか、そりゃ病みつきになるな、と考える。

 デスク上のノートPCを起動させた。ログイン画面が出るが、すぐに警告音が鳴る。

 網膜識別――社長御自らの生体認証がないと、重要データはダウンロードできない仕組みか。

 舌打ちし、ハッキングツールを取り出そうとした瞬間、耳を澄ませた。足音――誰か来る。

 ソファの後ろに身を隠した。ドアが開く。部屋の主だろう、怪訝そうな顔でノートPCを覗き込んだ男の首筋に、金属筒――ただのペンライト――を突きつける。

「動くな。抵抗しなければ危害は加えない」

「……ずいぶんと上品な強盗だね」

 まだ三十そこそこだろうか。ほっそりした物憂げな笑顔は、テレビや雑誌の中で見るものとほとんど同じだった。

 振り向こうとした男の首により強く金属筒を押し付けた。男は顔をしかめたが、声は上げなかった。

「暴れないよ。暴れないから、一つ聞かせてもらっていいかな?」

「何を」

「どうしてそんなに僕たちを目の敵にするんだい?」

「聞いてどうする。あんた、こそ泥と世間話をする趣味でもあるのか」

「ご謙遜を。ただのこそ泥なら最初からここに忍び込もうなんて考えないさ。ただでさえ敵の多い商売だからね、セキュリティに金をケチるとろくなことがない……」

 男の表情は変わらない。大した落ち着きようではあるが、どこか投げやりになっているようでもある。

「うちで扱ってるのは毒でも麻薬でもない。習慣性まったくなしの人畜無害な健康食品だ。まあ……ちょっと効用は誇張したかな。金に困った博士や大学教授に頼んで、『箔をつけて』もらったからね。もちろん、大っぴらに言えることじゃない。でも僕の前の職場よりはよっぽどましだと思うよ……今、僕らが売っているのは夢と希望そのものだもの。誰も求めていない、多機能なだけが取り柄の高い割りにすぐ壊れる電化製品とはわけが違う……逆にこっちが聞きたい。僕らの何が悪い?」

「人を騙すのが悪い」

 何がおかしいのか、男はくすくす笑う。

「騙してはいない。彼ら彼女らに取っちゃ、自分たちの体調が好転したのが本当に薬効なのかそれとも単なるプラシーボ効果かどうかなんてわからないし、わかりたくもないんだ。僕らは儲かる、買った方もハッピーになる。何が悪い?

 僕だけが騙したんじゃない。それを嘘というなら、彼ら彼女ら自身がその嘘を必要としたんだ。でなければ、ただの売れない営業マンだった僕がこんな立派な自室を持てるはずがない――それどころか、社長になれるはずがない。

 僕が大学を卒業した頃は半世紀に一度というひどい氷河期でね、どうにか家電メーカーの営業職に滑り込むまでが大変だったし、滑り込んでからはもっと大変だったよ。会社そのものに新人を育てる余裕がないから、全部自分の自由時間を削ってでも仕事を覚えるしかない。『石の上にも三年』どころか、五年経っても新卒の新入社員と給料が変わらない。目標額に達しなければ月毎の反省会で社員全員の前で吊るし上げられて、できますやります頑張ります、って何十回も復唱しなきゃ許してくれない。先輩や上司に相談してもお前が悪い、お前の努力が足りない、しか言われない。おかしくなりそうだったよ。実際、そのままいたら確実に警察か病院のご厄介になっていただろうね」

 なぜだろう――なぜか、この男の言葉を遮る気になれなかった。

「一足先に会社を辞めた先輩からネットワークビジネスに誘われたのはその時だった。痩せて、やつれて、こんな会社こっちから願い下げだ、そう啖呵を切って出ていったあの人は、辞める前の倍ぐらい太って血色良く見えた。倍どころじゃない、年収を二十倍、いや四十倍にだって増やせる、うまくいかなくても励ましてくれる仲間たちがいる。一緒に頑張ろう。言われてその場で決めたよ。入社する時に抱いていた理想なんて、その時はもう欠片もなくなっていたもの。

 でも厳しいのはそこでも同じだった……最初の数年は年収二十倍どころか半減でね、売れ残り商品でアパートの部屋が埋まったよ。肝心の先輩からして、サボってんじゃないの、なんて売上未達の理由を僕自身の努力不足みたいに責めてくる――前の会社の上司とそっくりな口調で。

 それでも、一人一人の悩みを丁寧に聞いているうちに、こちらの話を真剣に聞いてくれる人に会えるようになった……」

「……聞くも涙語るも涙だな。『今村ドリィムイノベーション』自体がやばい連中に顧客の個人情報を売り渡している、って話を聞いてなければ、感極まっていたかもな」

「どこだって、誰だってやっているじゃないか。ネット上のアンケート、スマホをいじるだけでポップアップしてくる広告、銀行口座や役所手続きのたびに求められる煩雑な手続き。薄給の派遣社員や仕事を右から左へ移すことしか考えていないお役人のうち、何人が本当に信頼に値する人間だと思う?」

 男の顔に嘲りはなく、むしろ悲しみと憐れみにさえ似た表情が浮かんでいた。言葉に詰まる。何か反論したいが、できない――

 ふと傍らに気配を感じた――次の瞬間、龍一の目に映ったのは、無言で巨大な壺を頭上に抱え上げる崇の姿だった。

 のけぞらなかったら、間違いなく巻き込まれていたに違いない。時価数百万は下らなそうな宋代の壺が、男の頭頂部を直撃した。壺は粉々に砕け、男は悲鳴も上げず棒のように倒れ伏した。

 すくみ上った龍一に向かい、崇は仮面の内側で鼻を鳴らした。「妙に手間取っていると思ったら案の定だ。これから身ぐるみ剥ぐ相手のとんちき話にほだされるなんて、インストラクターとしては情けなくて涙が出るぜ」

 どけ、と龍一を押しのけると、痙攣している男の瞼を無理やりこじ開けた。「ちょうどいい。『ルドヴィコ療法』の出番だな」

 小型カメラに似た機器を目に当て、男の網膜をスキャン。ノートPCに向けると認証が完了し、正規の画面に切り替わる。

 言葉もない龍一をじろりと睨みつけ、懐から取り出したメモリスティックを放って寄こした。「あの糞生意気な小娘は今のところ寸分の狂いもなく仕事をこなしてる。手を動かさないと、股間の立派なものが泣くぞ」


【出てきた出てきた……うわっ、この株主リスト、見覚えある名前ばっかりだわ。警察OBに教育委員会のお偉いさん、こっちは自称愛国者のネットジャーナリスト……『失業率の高さは仕事を選り好みする若者の自己責任』とか公言してる連中が、裏じゃ怪しげな健康グッズでぼろ儲けしてるってわけね。ドン引きだわ……】

「そんなことより、ダウンロードはもっと速くなんねえのか?」

【私のせいじゃないわよ。望月さんのお祈りが足りないんでしょ】

 不意に服を引っ張られて龍一は声を上げそうになった。倒れていた男がわななく手で龍一の服の裾を掴んだのだ。

「戻るもんか……あんな惨めな生活に二度と戻るもんか……!」

「寝てろ!」

 崇は容赦なく男の顔面を蹴り飛ばした。龍一が身をすくめるほどの勢いで鼻血が天井近くまで飛び散り、触れるのも恐ろしくなるほど美しく磨き抜かれたデスクに赤茶色の粘液がこびりついた。

 だがその拍子に、倒れ伏した男の掌から小さな装置が転がり落ちた。防犯用のパニックボタンだ。

 次の瞬間、大音量でサイレンが屋上中に鳴り始めた。

 愕然として顔を上げると、崇と目が合った。肩をすくめて「しくじったな」とだけ言った。


 突然鳴り出したベルに、当たり前だが、談笑していた客たちがざわめき始めた。

【プランBはまあ仕方ないとして、実際どうするの? ダウンロード終了まで5分はかかるわよ】

「……俺のへまだ。俺が時間を稼ぐ」

「どうやって? 裸踊りでもするのか?」

「悪くないが、もっといい方法だ。だからそっちはできるだけ早く脱出ルートを確保してくれ」

「わかった。やってみろ」

 ええくそ、と思い腹をくくった。軽く息を吸い、一歩下がり、屋上に面したガラス窓に向かって跳躍した。

『これまで年収300万にも満たなかったのが、今では年収一千万。念願のマンションも車も手に入れ、愛想を尽かして去った妻と子も戻ってきました……!』

 衝撃は意外に小さかった。粉々に砕けたガラスの破片をまき散らしながら、龍一の巨体が宙を舞う。

 着地した。

 周囲のざわめきが大きくなった。振り向くと、温厚そうな中年男性がマイクを握りしめたまま凍りついている――今まで一席ぶっていた壇上に、派手な仮面と異様な服装の龍一が立っているのだから無理もない。

 周囲から注がれる視線も似たり寄ったりで、口を手で覆うか、隣の者と顔を見合わせるか、「落ちはどうしたの?」と言わんばかりの顔をするか、のどれかだった。

 少しやりすぎたかな、とは思ったが、これから始める作業を変更する必要は感じなかった。それに、ありがたいことに、何か上手いことを言う必要もない。

 スタッフとして配置されていた社員たちが顔を強張らせる。さすがに文字通りの「飛び入り」に異様さを感じたらしい。とにかく壇上から引きずり降ろそうと詰め寄り始めた瞬間――

 周囲のどよめきがさらに大きくなった。壇上に直立していた龍一が、軽い跳躍から一転、壇の縁を掴んでの逆立ちに移ったのだ。「お、おい、君、降りなさい!」という狼狽を含んだ怒声は、さらなるどよめきにかき消された。

 龍一は、両手親指での倒立に変移していた。前か後ろに一ミリ傾いただけでも倒れそうな危うい姿勢を、会場の人々は息を詰めて見つめている。ぐらりと大きく傾き、少なくない悲鳴が上がった時――

 バック転を打ち、ほぼ足の親指のみで壇上に直立した。龍一の人生で今まで一度も浴びたことがないような、物凄い歓声と拍手が沸き起こった。

「いい加減にしろ、引きずり降ろせ!」

 とうとう我慢を切らした社員たちが飛びかかってきたが、それこそ龍一の狙うところだった。掴みかかる社員の肩に飛び降り、よろけたその肩を踏み台にしてさらに高く跳躍、数人を巻き添えにして倒れ込む。倒れた拍子に他の数人の足元を蹴りで薙ぎ払い、立ち上がろうとした者の背にどっかと腰を下ろして圧し潰す。もう会場は拍手喝采、逆に社員たちにどうして止めるんだと文句を言う者もいる始末である。

 これ以上派手な陽動もないなと思った。さて、後は脱出するだけだが――

 エレベーターが開き、暴徒鎮圧装備に身を固めた警備員たちをダース単位で吐き出した。まるで古代の密集隊形よろしくプラスチックの盾に身を隠し、警棒を構えて突き進んでくる。やれやれ、スパイ活動の次は肉弾戦か。


【95%……99%……終了!】

「ようし、こっちも終わりだ」

  崇はメモリスティックを引き抜く。ノートPCの画面では、崇の注入した「スペシャルブレンド」――閉鎖的な社内ネットワークではより致命的な毒となるウィルスが猛威を振るい、あらゆるデータをコピーすると同時に各報道機関にメール添付の形で無差別に送り付けていた。思わずほくそ笑む。これで奴らの「ネットワーク」も「ビジネス」も、両方とも廃業だな。

 中庭の騒ぎは、ここからでも聞き取れるほど大きくなっていた。銃声めいた破裂音まで連続して聞こえてくる。

「……まあ、確かに騒ぎを起こせとは言ったが、やりすぎじゃないかな……」


「制圧! 制圧!」

 二人一組で警備員が殴りかかってくる。唸りを上げて振り下ろされる警棒をかわし、掌底を顎に叩き込む。よろけた拍子に突っ込んでくる他の警備員へ向けて突き飛ばす。だがひるむ様子も見せず別の組が突進してきた。民間警備会社としては大した戦意の高さだ。それを素直に称賛できない自分の立場が残念なくらいだった。

(仕方ねえ、ちょっとズルするか)

 腰のポーチから黒い球体を取り出し、投げる。半壊した椅子に当たって止まった球体は二つに割れ、次の瞬間、けたたましく機関銃の連射音を大音量で響かせ始めた。この緊迫した状況で効果は抜群だった。殺到していた警備員たちが血相変えて床に伏せ、あるいは物陰に隠れる。

「せーの……!」

 龍一は横倒しのテーブルを抱え上げ、構え、まっすぐ走り出した。30センチの歩幅さえあれば、彼の脚力は全力疾走に移れる。

 直撃を食らった者たちにすれば、小型の自動車に跳ねられたようなものだった。態勢を立て直そうとしていた警備員が5、6人、悲鳴すら上げられず吹き飛ぶ。素人相手ならともかく、プロには容赦しないのが龍一の流儀だ。

(早くしてくんないかな、望月さん……)


【そろそろ龍一も限界よ。数が多すぎるわ】

「わかってるって。にしても、あの人数じゃ助けに行ったって共倒れだ……」

 見回した崇の目に鮮やかな色が飛び込む――居間の調度の中でも、一際目立つ深紅の車体。

「夏姫。あの車のキーをハッキングはできるか?」

【できるけど……でも、どうして?】

「まあ……ちょっとしたスタントをだな」

 夏姫はそれだけで察したらしい。【……下手すると、天国へのひとっ飛びになるかもよ】

「へっ、人生なんて使い捨てだろ。桐箱に入れて大事に大事に扱ったってな、死ぬ時は死ぬんだよ」


(くそっ、まだかよ……)

  接近する警備員たちに横転したソファの影から麻酔ダーツを投げながら、龍一は辟易し始めていた。さすがに彼らも用心深く、プラスチック製の盾を構えながら距離を詰めてきている。重機関銃でもあれば突破はできるかも知れないが、高塔百合子は強力な火器の使用には極めて慎重な態度を取っている。

 さすがにこの人数をさばき切れるかどうか、龍一の自信が怪しくなってきた時、

「よう、待たせたな!」

 流行の電気自動車とは比べ物にならない獰猛なエンジン音とともに、壁とガラス戸を破って深紅のポルシェが現れた。

 蜘蛛の糸にすがるカンダタの気分だった。龍一は足にすがりつく警備員に蹴りを見舞い、必死でポルシェの運転席へ転がり込んだ。

「ずいぶんとごついのを見つけたな……」

「本当は戦車が欲しかったんだが、まあこいつで我慢するさ……金を腐るほど持っていても女と車とマンションぐらいしか使い道が思いつかない、日本の金持ちに感謝だ!」

【燃料あんまりないわね……少しでも助走距離を稼ぐから、目一杯加速するわよ!】

 ここへ運び込まれた時の残りだろう。カーチェイスをするわけではない、好都合だ――そこまで考えて、龍一はもっと大事なことに気づいた。「夏姫……そう言えば君、運転免許は?」

【龍一はあるの?】

「いや」

 何とも不吉なことに、うふっ、と明るい笑い声が帰ってきた。【安心して。私もよ】

 人生最大のミスを冒したような気がしたが、降りるには遅すぎた。崇は目をつぶって深々とシートに後頭部を埋めた。「あの小娘。やっぱ一度、下の毛をむしってやんねえと駄目かな」

【2人ともシートベルト締めて! 舌噛まないでね!】

 返事を待たず、ポルシェの全天候タイヤが白煙を上げるほどの勢いで空転し、次の瞬間、蹴飛ばされたように突進した。まるでロケット打ち上げのように凄まじいGが全身にかかり、龍一は思わず歯を食い縛った。さすがに崇も軽口を引っ込めている。

 車が走るにはあまりにも狭い屋上へポルシェが躍り出る。テーブルを粉砕しBBQグリルを四散させ、逃げまどう警備員を追い散らしながら、屋上の縁に向かって走った。

 落下防止用のフェンスを突き破る衝撃。十数メートルの高空を、撃ち出された砲弾のように深紅の車体が駆けた。おそらくこちらの屋上から立ち上る白煙に気づいたのだろう、向かいビルの窓際に鈴生りになっていた総合商社の社員たちが、わっと左右に逃げる。

 轟音とともに龍一の意識は数秒間途切れた――彼はうっすらと「当分ジェットコースターには乗りたくない」と思っていた。


「……生きてるか?」

「あの世じゃなさそうだな」

 シートベルトを外し膨らんだエアバッグから逃れ、歪んだドアを蹴飛ばして降り立つのは一苦労だった。廊下の端まで避難したビルの社員たちが、七色に光る円盤から降りてきた緑色の宇宙人を見るような目で2人を見ている。

 龍一はさっきまで自分がいたマンションを振り返った。マンションから鼻と口をハンカチで押さえた人々が逃げ出し、通行人にぶつかり、通りは大混乱になっていた。駆けつけたパトカーから次々に警官たちが降り立ち、警備員たちと入れろ入れないの押し問答を始めている。

  まただ、と龍一は溜息を吐きたくなった。龍一は好きな小説の一節を思い出した。誰も殺さず傷つけもせず、居合わせた客たちが巧みな弁舌に聞き入っている隙に有り金を盗んでしまう銀行強盗たちの出てくる話だ――ショウは終わりです。テントを畳み、ピエロは衣装を脱ぎ、象は檻に入れ、サーカス団は別の町へ移動します。なぜ、自分たちはそうできないのだろう?

「……教えてくれ!」

 突然、向かいのビルから聞こえた叫び声に龍一はぎょっとして振り向いた。手摺りにしがみつくように、あの青年社長が、髪を振り乱して叫んでいた。警備員たちが周囲を囲み、必死に避難させようとしているが、それすらも目に入らない様子だった。

「教えてくれ! 僕はどうすればよかった⁉ 他にどうすればよかったんだ⁉ 僕は、僕はただ世の中の役に立ちたかったんだ! 本当に、本当に皆を助けたかったんだ!」

 何かを言ってやりたかった――かけるべき言葉は見当たらなくとも、何かを言ってやりたかった。だが窓際に歩み寄ろうとした龍一の肩を、崇がぐいと掴んだ。

「行くぞ」

 乾いた感情のない声だったが、その意図は理解した――お前にあの男は救えない。

 走り出す瞬間、龍一はもう一度眼下を見下ろした。押し問答の結果だろう、よろけて姿勢を崩した警官の一人が何事か叫び、勢いづいた警官隊が静止を振り切って突入する光景が目に焼きついた。


【『今村ドリィムイノベーション』のレセプション襲撃事件と、それに続く本社からの情報漏洩事件に関し、未真名市警は代表取締役の今村祐樹氏を贈収賄ならびに公正取引法違反の疑いで任意同行を求めました。今村氏は他にも、指定暴力団体の資金洗浄容疑が持たれており、警察は襲撃犯の捜索と並行して余罪を追及する予定です……】

 崇はリモコンでニュースを切った。「この件に関しては、以上だ」

 龍一は警官に付き添われてパトカーに乗り込む今村の顔を思い出していた――疲れ、やつれてはいるが、どこか安堵しているようにも見えた。

 夏姫は龍一の顔を見たが、結局何も言わなかった。

「それでいいのか」

 崇は何気なく視線を龍一の顔に合わせた。「それでいいに決まってるじゃねえか。それともお前、まさかあの社長に同情してるのか」

 違う、とは言い切れなかった。「百合子さんが標的に選ぶ基準がわからない。同情の余地もない連中のみを選んでいるわけじゃないのか」

「母親思いの結婚詐欺師、子供好きな麻薬の密売人。全き善のみで構成された者はいないし全き悪のみで構成された者もいない。それとも自分が何か社会正義の一環を担っているとでも思ってんのか?」

 崇の言葉に、反論はできなかった――だが心の底からの同意もしたくなかった。

「ご当主はお前らの仕事ぶりに満足している。満点ではなかったにしてもだ。嬢ちゃんもスタメンの立場を固めつつある。何か問題はあるか? ないだろう」

「子供は帰って寝ろってことね」夏姫が熱のない声で言った。

「そういうことだ。駄々をこねないでくれたらおじさんは嬉しいね」言葉とは裏腹に熱のない口調だった。百合子の「来客」について崇は知っているようだったが、あるいはその相手が気に食わないのかも知れない。

 全身の痛みが、今になって疼き始めた。一言でもいい、百合子の言葉を聞きたかった――嘘でもあなたは間違っていない、と言ってほしかった。だがそれが叶わないことは龍一にもわかっていた。黙って踵を返した。


「ねぇ龍一、ちょっとあなた……ひどい顔してるわ」廊下へ歩み出た途端に、背後から夏姫が追いすがってきた。

「間違ってはいないな」

「そういう意味じゃないってわかっているでしょ。ひどい顔っていうか、シケた顔よ」

「その性根にふさわしい顔ってことだな」

「じゃ、普段の十倍増しのシケた顔ってことにしておく」

 龍一は足を止め、それから眉根を下げた夏姫の顔を改めて見た。「そっちこそどうしたんだ。もしかして、俺を慰めているつもりなのか?」

「……そうよ」

「じゃ、放っておいてくれ。久しぶりに、ゴミみたいな気分って奴を味わいたいんだ」

 肩をすくめて歩き出そうとした瞬間、夏姫はさらに前方に回り込んだ。「じゃあ買い物に行くから付き合ってよ。それとも自分はゴミだから荷物持ちはできないなんて言うつもり?」

 考えてみれば夏姫と百合子の付き合いも龍一に負けないくらい長いのだから、不満を言い出せばきりがないのは夏姫も同じではあったのだろう。それを口にしないのは、彼女なりの矜持なのかも知れない、と龍一は何となく思った。

 龍一は嘆息する。「また下着を買うのに付き合わせる気か?」

「甘く見ないで。下着以外もよ」


 目の前を通り過ぎる極彩色の蝶に、眼鏡越しに見惚れていた制服姿の男は、世間話でもするかのような調子で話し出した。「なかなか順調のようですね。あなた方の活動……いや、活躍と言った方がいいのかな……は」

「何のことやら、と申し上げておきますわ」百合子は艶やかに微笑む。「どう思われているのかは存じませんが、私は一民間人ですもの。政府や軍の包括する人員には及ぶべくもありません」

「ご謙遜を。あなたが一民間人なら、僕は一俸給奴隷だ」

「まあ……それこそご謙遜を」笑みを深めてから、百合子はふと思いついたように口にした。「ところで棟方さん。『ダークネットワーク』という言葉を聞いたことはありますか?」

「いえ、初耳ですね。アングラネット、非合法ネットのことですか?」

「それは『ダークネット』のことですね。似ていますが違います」百合子は卓上のグラスを取り、唇を湿らせた。「従来の方法ではアクセス不能なネットワークのことです。もしかして赤星あかぼしさんの方がよくご存知かと思いましたので。噂では、軍や政府はそれを通信諜報活動をはじめとするセンシティブな情報の送受信に応用しているとか……あるいは群衆知性、人工知能への研究に」

「何のことやら、と申し上げておきましょう」赤星と呼ばれた男は苦笑したが、すぐに表情を改めた。「今回の何某という企業ネットワークが、そうではないかと踏まれたわけですね?」

「ええ。『ネットの匿名性』などという惹句を鵜呑みにするのは素人ですし、各国司法機関の目に触れない裏取引を行いたければそういった裏のネットワークは必要不可欠です。かのネットワークビジネスが日本における中枢なのではないかと予想はしていたのですが……結果的に一端ではありますが、中心ではありませんでした。ですが、今回入手したリストによって主要な結節点ノードの検討は付いています。近々、私どもはそれらに対し本格的な『爆撃』を開始する予定です」

「いやはや猛々しい。戦争屋としては形無しですね」

「滅相もありません。比喩としての戦争と本物の戦争は比べ物になりませんもの。でも、いずれご協力を仰ぐことになるかもしれませんね……赤星光太郎こうたろう殿

 一転、棟方は――軍指定である濃緑の制服を着た男は、決して屈強とは言えない体躯で直立不動の姿勢を取った。「その節はお任せください。それこそ僕の本職ですから」

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