第5話 未来の記憶

「起きたか?」


まだ少しぼやける目を開けると、たき火の向こうにさっきのおっさんが座っていた。

ぼやける目を擦ろうと思っても、両の腕を縛られて木にくくられていた。


「寒い」


いつの間にか日は暮れて夜はふけていた、月が見えない、よほど森の奥に来たのか空気が濃く感じられた。


「………」


「何だ、聞きたいこととか無いのか。」


「………」


聞きたいことは色々あったが、頭に浮かんでくるその質問にこの意外とお喋りなおっさんが答えられるとは思えなかった。


(でもまあ聞くのは無料だし)


そう思って、まずは最も通じそうな話をしてみた。


「ここってどこですか?」

「ここか、ここは関ヶ原の戦場から余り離れていない森の中だ。

お前さんが眠った場所から1キロちょい森に潜ったくらいさ」


通じる、そしてキロという単位


「今って何年何月でしたっけ?」

「なんだお前そんなに打ち所が悪かったか?

1600年9月だよ。」

「な、なるほど」


(関ヶ原の闘いか、、、)

(このおっさんからかってんのかな)


「お前さん何者だ?」

「何者っていわれても」

「お前が木村殿と戦っているときからみていたが、なんか違和感があってな」

「見慣れない型ではあるが、武術の型は仕上がってるし、実践の経験も充分積んできている。」

「しかし、気迫というか気概がまるで感じられんかった」


「………」


その話を聞いて本条にいやな記憶が蘇る


「やる気が無いなら帰れ!」


よくそう言われた。

よくそういうやつに限って試合では弱かった。

(俺は気合い入れてるよ)

そう思っていた。

だがどうも違うようだ。

俺が思っている気合いや情熱は他の人達が言っているものよりも薄い。

確かに最近そう感じ始めた。

(俺はやる気がない)

練習は人一倍やるし、成績も悪くない。

(何故、俺はやる気が出ないんだろう)

ずっと悩んで、悩んで、疲れてそのうち先生からも言われてしまった。

「少し道場を休め」

見抜かれたと思った自分ではその心は見抜かれていないと思っていた。

そして何よりショックだったのはそう言われてすぐに道場に行かなくなってしまった事実だ。

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