第3話 半額侍の恐怖

むわっとした空気が顔に押しつけられて

少し顔を強張らせた本条は

その空気をまとった武者をやけに冷静に見ていた。


(どこを打てばいいかな)


自身の経験してきた剣道の試合とはそこが違った、剣道の試合では竹刀を打ち込む目標が初めから定められていた。


面、コテ、胴


この3つの防具のうちのどこかを有効打となるような角度と威力で足の踏み込みと同時に打ち込み、さらに三カ所のうちのどこに打ち込んだかを気合いを入れて叫ぶ。

試合の場合、この条件を3分間の間に2回満たす事で確実に相手に勝利することができた、しかし今この場で起きているのは試合では無い。

この場合防具で守られた面、コテ、胴はいずれも有効打をとれるような場所ではない。


(隙間は、、、)


そう相手の防具の隙間、有効打をとるためには今までとはまるで正反対の部分を狙って打ち込まなければならないだろう。

さらに防具を持たない本条に対し、相手の武者は本条の体全体が一撃必殺の有効打を狙える場所と言えるだろう。


「黒田家家臣、木村繁成」


武者が名乗りを上げ、すっと前に出た


(こりゃ短期決戦だな)


武者が出た瞬間本条も前に出た


武者の初撃、上から刀を振り下ろす。

体ごと刀に力を入れた一撃を

体を左にずらしそれをかわす


音すら切り伏せているかのように無音で振り下ろされた刀は最後まで振り下ろされることなく本条の腹の部分のあたりでピタリと止まった。


(ピッタシ)


本条が思う間に武者は右脚に力を込める返す刀で左に切り上げた刀の刃は真っ直ぐに本条の顔をめがけて飛んでいった。


ガキンと音が響き武者の刀を鉄パイプが止めていた。

無言でもう一本の鉄パイプを刀目がけて振り下ろす。


キィィンと高い金属音が響き

武者の刀は二つに折れていた。


(馬鹿な一撃で!?)


次の一撃で兜の上から武者の頭を打ち込み

怯んだ武者が後ずさりしたとき、鎧の隙間からノドが見えたのを本条は見逃さず

一心に突き崩した。


攻め続けて5撃目で相手は崩れるように倒れ込み沈黙した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る