底辺に転生したから魔王を目指すことにした

白餡

死んだ俺

 俺は森田友一。今年で17歳になる高校生だ。今は友人たちと帰宅している

「そういや友一、お前彼女とはどうなんだよ。」

 こう聞くのは斎藤佑太。中学の頃からの親友だ。

「別にいいだろー。お前らにわざわざ言うこともないしな。」

 そう答えると佑太はにこやかと答える。

「そう怒るなよ。友人として気になるだろ?そう思うよな?田附?」

「いや正直どうでもいい。友一が死なないなら別にいいし。」

 そう不愛想に答えるのは山口田附。幼稚園の頃から一緒で隣に住んでいる親友だ。昔から本を読むのが好きで俺もたまに貸してもらっている。

「でもよ?やっぱ友人としては知っておくべきじゃない?」

「いやいや、僕たちが変に口を出すことじゃなくない?」

「面白くないか?」

「楽しんでるじゃん…」

 そんな本人そっちのけの会話を聞いていると交差点についた。ちょうど良く信号が青だったためそのまま歩いて渡る。

 しかし渡り切れなかった。信号無視の車が突っ込んできたからだ。

 そして目覚めると緑色の怪物として生まれていた。


 数日後、俺は言葉を話せるレベルに成長していた。もともと人間だったからか。それともゴブリンの成長速度が早いからか。

 言葉が話せ、理解できるようになってから、まずは長老にこの世界についてきいた。

 この世界は勇者が率いる聖軍と魔王が率いる魔軍の2軍が世界を守るため、世界を征服するために戦っているようだ。

 俺は魔王軍が率いる『ゴブリン族』の村、村Aで生まれた「ティル・マル」というゴブリンらしい。

 魔王軍には多くの種族がいるらしいが『ゴブリン族』とたまにくる巨大な翼をつけ、鋭そうな爪を持つ灰色の化け物以外見たことも聞いたこともない。どうやら田舎のようだ。

 俺と一緒に生まれたゴブリンは4人(匹?)、「トゥル・マル」「チィル・マル」「チョル・マル」「チェル・マル」の4人だ。

 俺はどうするかを考えてみる。まず生前の俺はどうなっているかだ。

 そもそもこの世界は実際にあるかどうかわからないから何とも言えない。もしかしたら死んでから新しい命として生まれ変わったのかもしれない。ちょっと前に斎田附から借りた小説の内容に似ている。

 あれは…どんなタイトルだったか思い出せない。まあ大丈夫だろう。

 俺が昔の世界での最後の記憶はトラックが突っ込んできたところで終わっている。もしかしたら昏睡状態になっているかもしれない。今の俺は妄想に近いものがあるかもしれない。

 とまあ考えてもしかたない。この世界でどう生きていくかを考えよう。

 まず考えたのは出世すること。今は人間と戦っているらしいからそこで成果を上げれば一気に出世できるかもしれない。

 駄目だ。俺は元はただの高校生。いくらゴブリンに転生したからと言って戦えるはずがない。というよりゴブリンってそこまで強い種族のイメージじゃないし。

 この村で生ようと決意した。見た目はあれだが虫を生で美味しく食べれたり、体が丈夫だったりと昔より便利だからだ。まあ周りに可愛い女の子がいないのは困るがまあいいだろう。

 ということで俺の一日だ。まずは朝。太陽が昇るぐらいに皆が起き始める。俺は寝ている。顔を洗ったり軽く体を動かしたり、朝食の準備をしている。俺は寝ている。そして少ししてから朝食だ。このタイミングで俺は起きる。

 今日の朝食は木の実と芋虫の丸焼き。夏にはカブトムシや蝉が美味しいらしい。

 その後は夜まで自由時間。家を建てるとかの急ぎな用があればこの時間に大人の男たちが作業をする。

 俺は一人で山に籠り、探索とかをしている。

 小さいころを思い出すように秘密基地を作り。木苺とかの何故か他のゴブリンが食べないものを食べて遊んでいる。

 今日は洞窟探索をしよう。

 木の棒で作った小さな秘密基地から木を削って作った水筒を取り出し、水を入れて俺は洞窟へ向かう。

 そして洞窟へ着いた。高さは今の俺なお3倍近くあり、横幅はもっと広い。

 俺の探求心がくすぐられ、暗い洞窟の奥へと進んでいく。

 しかし暗く「ガツン」と大きな音を立ててこけてしまった。

「いってて、やっぱ明かりが欲しいなぁ。」

 そう言って立ち上がると周りが真っ暗だった。これはまずい。

 とりあえず適当に歩いてみるとした。このまま餓死は嫌だから。数分あるくと奇妙な明かりを見つけた。青い光だ。

 俺は警戒してその明かりの元を見ると石だった。青く光る神秘的な石だ。

 この石を明かり替わりに持って行けないかと思い、触ると体の力が抜けていく。そしてそのまま倒れた。昔貧血になった時のようだ。


 水滴が落ちる音がした。俺は意識を失っていたようだ。

 立ち上がると少しだが光が見えた。その光を目指して進むと洞窟から出られた。最初に入った入口とは違うようだ。

 最初こけたときに意識を失ったのだろうか。不思議なものだ。

 少し歩くと川が見えた。村は下流にあるためこの川に沿って帰れば村につくだろう。水筒は明日秘密基地に置いてこよう。

 一日が無駄になったとはいえ、不思議な体験ができ、気分はまあまあ良い。

 村が見えるくらいになるとゴブリンたちの声が聞こえる。かなり大きい。

 祭りでもあったのか。それとも誰か怪我をしたのだろうか。

 そう思いながら村につくとゴブリンが倒れていた。いつも俺に木の実を多くくれるゴブリンだ。

「ど、どうしたんですか?」

 焦りながらそう聞く。しかし返事がない。体に触れようとすると左胸あたりに穴が開いていることに気が付いた。

「落ち着きたまえゴブリンよ。焦るとロクなことにならないよ?僕自身が体験したことだ」

 村の中央から声が聞こえてきた。透き通った綺麗で、しかし禍々しくも感じる不思議な声だ。

「僕の名はルシファー。まあ今から死ぬ君が知ったところで意味はないけどね」

 そういうとルシファーと名乗る化け物はこっちに指を向けた。その指から黒いビームが飛んでき、俺の胸を貫いた。


  熱い。焼けるようだ。

「全く。こんなゴミの掃除を僕がやらないといけないなんて困るよ。」

 どうやら心臓からは外れたらしい。運が良かった。

「ぐ…っいてぇ…」

「おや、僕の攻撃を食らっても即死しないゴブリンがいるとはね。」

 そういうと近づいてきた。痛みは引いてき、俺は立った。腹が立っている。この村を馬鹿にしたことにだ。

「お前は…何をしに来たんだ。」

「ただのゴミ掃除さ。最近こっちの世界に来たから魔王に媚びてきたくてね。」

「ゴミ…だと?」

「ああそうだよ?だってゴミじゃないか。醜く汚い。」

「ふざけんな…汚ろうが醜くろうが強く生きてんだよ!」

「僕は美しい物以外は嫌なんだよ。天界から…いやもう話をやめておこうか。」

 そう言うとルシファーは右指を俺に向けて指してきた。さっきのビームを撃つつもりだろうか。

 だが俺は逃げる気なんてない。アイツを倒さないと…侮辱したアイツを殺さないといけないんだ。

「さよならだ。醜くぐ足掻いたものよ。」

 そう言うとルシファーの指が光ビームが飛んできた。

 しかしそこまで早くない、まあまあ離れているこの距離なら避けれる。

 ビームが顔の横を通り過ぎ、後ろの家に当たった。

「避けただと!?」

 ルシファーが驚いている間に足に力をいれ、一気に接近する。

「死ねぇ!」

 叫びながら顔面に向けて全力で殴る。しかし感触がない。

「びっくりしたよ。」

 よく見るとルシファーが左腕で俺の攻撃を受け止めていた。

「君には本当に驚かされるよ。」

 そう言うとルシファーは俺を半壊している家に向けて投げつけた。轟音がし、支柱が折れ、俺に重なるように降ってくる。俺に当たる寸前で避けられた。

「あ、やっちゃった。探すのめんどくさいんだよなぁ。」

 そういうとルシファーが向かってきた。

 今ので頭が少し冷えた。そしてこっそりと森へ逃げる。土煙によってこっち見えなかったはずだ。

少し余裕ができた。これからどうする?

 逃げる?馬鹿を言え。あの羽が飾りなわけない、絶対空を飛べる。空から見られね一発アウトだ。何より探す能力がある可能性があるかもしれない。

 戦う?無理だ。どうやっても勝てない。

 そもそ…いやあいつが言っていたことで1つ引っかかる…。

『最近こっちよ世界へ来た』

 やつはこう言っていた。つまりやつは俺と同じで転生者なのか…。ルシファー…ルシファー…ルシファー!いや、そういう事か。俺は昔やっていたゲームの内容を思い出した

 俺は1つの仮説を立てる、この方法ならもしかしたら勝てるかもしれない。

 このまま殺されるのは癪に障る。少しでも抵抗してやる。

 まずは準備だ。やつは半壊した家から慎重に俺を探している。力を扱いきれてないようだ。

 まずは秘密基地に行き、水筒と拾ったナイフを取りに行く。村の人に借りていた物だ。更に能力で糸を作り、ナイフを使い指の先を軽く切って出した血を染み込ませる。そして先端に石をつける。

 そして小さいサラマンダーを捕まえ、連れていく。

 倒すためには俺の位置をばらさなければならない。そして「俺が戦おうとしている」と思わせてはならない。油断させなければ。

 そうするために俺は逃げると思わせるために近くの峡谷まで走り、『峡谷に気づかないで逃げ場所をなくした』ように見せかける。


 そのころルシファーは地上にいた。

「この森から出るためには確実に空から見える場所に出ないといけない。そこを狙い殺そう。」

 元天使のルシファー高い感知能力を持つ。ただし感知できるのは生命エネルギー。間違えて逆の方向へ追ってしまいそのまま逃げられるのは困る。

「森から街へ行くための道にはほとんど生き物がいない。面倒だが待つか。」

 何故あのような小物のために待たなければならないのか。仕留めそこなった自分に非があるとはいえ納得いかない。

「全く、底辺にいるゴブリン一族を皆殺しにすれば魔王だって力を認めると思ったんだがな。最後の最後でへまをした。」

 少し間を置き、独り言続ける。

「皆殺しにしたと言った後に生き残りがいた。というのはかっこ悪いからね。その程度で僕の立ち位置が変わるわけではないだろうけど。」

 そのような独り言を続けているといきなりやめ、喜ぶように言った。

「おっと、生命がほとんどない場所に生物が入った。あのゴブリンだろうか。どうしようかな。」

 少し考えたがすぐに決まる。

「ここから遠くないし、言ってもいいだろう。魔の力を手に入れてからの感知のレベルを知っておきたいしな。」

 そう言うと翼を広げ、飛ぶ。


 その頃ティルは峡谷に落ちるギリギリで止まっていた。

「しまった…どうする?」

 そう呟く。もちろん嘘だ。相手の能力が分からない以上、意味が無かろうと芝居をしておく。

 すると羽ばたくような音がしてくる。やはり探す能力があったのか。早すぎる。

「全く、めんどくさいな。」

 そう言うと俺と森の間にルシファーが降りてきた。

「さっきは距離があったから偶然避けられたのだろう。でもここまで近いと絶対に殺せる、動かないでくれよ?」

 そういうとルシファーが指をこっちに向けてきた。動いたら殺すつもりだろう。

「ここまで生きた君は称賛に値するよ。いくら今の僕とてすぐ殺せると思ってたんだよ?本当に凄いさ、そこらへんの雑魚どもより多少は強いと思うよ。」

 落ち着け、すぐには殺さないだろう。まだ大丈夫だ。

「何でお前は俺たちを殺そうとしたんだよ。」

 時間を稼ぐために聞く。もう少し話をしてもらう。

「うーん、そうだね。こういうのは正直話すべきではないだろうけどまあいいや。ここまで生きた君になら教えてあげよう。そもそも、僕は魔界に来たのは消去法で何だ。といっても元天使の僕からしたら魔の物の下につくなんてまっぴらだ。でも多少は我慢しないといけないと思う。なら可能な限りレベルの高いところにつきたい。」

 少し間を空け続ける。

「そのために魔王に気にいってもらうべきだと思った。そのためには何が必要か?それは実力を示すのが一番だと考えたんだ。そのために底辺で大して戦力にもならなく、特産品もないゴブリンを全滅させるのが一番だろうと思ったんだ。」

「何故そう思った?ゴブリンとて戦力だろ?魔王に倒されるかもしれないぞ」

 そう聞くとにっこりと笑いながら答える。

「魔王といえば冷酷非道、そういうものだ。一年前に一度戦闘を見たが部下を囮にして戦っていた。そしてゴブリンを嫌っているということも知っている。」

「倒される?そんなバカなことをいうな。僕は天使であるんだぞ?まともに叩けば魔王とて無傷では済まない。そんなリスクはおいたくないは」

 今だ!そう思いルシファーの胸元をつかみに行く。

「ず…ってお前は馬鹿か!」

 そう言いながらルシファーがビームを打とうとするが反応が遅い、腹の当たるがまだ大丈夫だ。

 そしてぎりぎり間に合った。胸元をつかみ後ろへ飛ぶ。

「な?!お前は馬鹿か?!」

 そのまま落下すれば飛行能力のあるルシファーが生き残るだろう。しかし俺はルシファーが混乱している間に下にし、腕を抑える

 ルシファーは腕を動かし俺を振りほどこうとする。ここまでは予想通りだ。

 俺は抑えていた腕を離し、腰袋にある石を手につかむとそれをヨーヨーの技のようにスナップを効かせ、投げる。

「?!」

 ルシファーの一瞬腕が止まる。血をしみこませた糸で翼と腕を軽く縛ったのだ。普通なら簡単にほどけるだろう、しかし俺の予想は当たっていたようだ。ルシファーは少し力を入れて振りほどこうとする。

 ルシファーは堕天使。魔と天の力両方を持つということだ。更には『最近こっちの世界にきた』ということはそこまで力を扱いきれないのだろう。

 俺の血液を染み込ませた糸、つまり魔の力があるということだ。これが効かなければこの作戦は終わっていたがあっていた。

 しかしすぐに切られてしまうだろう。所詮は糸か。すぐに次の行動にでる。

「面白い!」

 腰袋に入れておいたサラマンダーを左胸に向けて投げつけ、ナイフを取り出す。すぐにルシファーが糸をちぎる。

 そしてナイフをサラマンダーごとルシファーの心臓めがけて刺す。サラマンダーが絶命時に出す独特な音を発し、燃え上がる。

 余裕ぶっていたルシファーの顔から余裕が消える。

「っち。貴様!」

 炎、ナイフ、死体をはさんでの攻撃。天使と悪魔、どっちかには効くだろう。

「だが打点が足りないな。その程度の攻撃では俺は殺せん。」

 大丈夫だ、問題ない。何故なら本命は…

「このまま下に落とす気かな?」

 その通りだ。そして地面が近づいてきた。俺は何故か動かないルシファーを踏み台とし、飛ぶ。

「この程度なら死なない、惜しかったね。僕から離れるなら攻撃しても俺に影響はない。そのまま死んでくれ。」

 そう言うとルシファーは俺に指を向けた。ただこの勝負。

「「俺の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 お互いに叫ぶ。

 ルシファーがビームを俺の心臓に向けてビームを撃つ。空中ではよけられない。

 しかしビームは外れた。何故ならルシファーに複数の尖った石が刺さったのだ。

「な…そうか…。」

 この峡谷が危ない理由、それは地面が鋭くとがっているからだ。

「く…いくらこの状況とは言えぼ…」

 最後まで言えずにルシファーが爆発した。そして俺の意識はその後途切れた。

 

 目覚めると朝になっていた。俺は偶然にも飛び出ている場所にひっかり助かったようだ。

 俺はこの後どうするかを考える。いっそ死ぬか。

 しかしルシファーが言ったことを思い出し、その考えを改める。

『魔王といえば冷酷非道、そういうものだ。一年前に一度戦闘を見たが部下を囮にして戦っていた。そしてゴブリンを嫌っているということも知っている。』

 もしかしたらこの事件の元凶は魔王なのか…?。

 そこまで考えると体が勝手に動き、崖を昇り始める。

 数十分かけ、崖を昇りきった。

「せっかく生き延びたんだ。やってやる」

 俺は決めた。この世界の目標を。

「俺が魔王を殺してやる!そして新しい魔王となる!」

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底辺に転生したから魔王を目指すことにした 白餡 @argon1680

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