絶妙な線引き

お兄様も席に戻り、静かながらも穏やかに食事の時間は過ぎていった。…案の定、食事を少し残してしまったが。

従者が食べ終わったものを片付け終わり、席を立とうとしたとき父様が話を切り出した。



「実はな、明日。私の古い友人が遊びにくるんだよ。…それでだ。あちらの家にも、リリアと同じ年の息子がいるんだよ。」



え、この話の流れ的に、婚約関係としか思えないのですが…!?

か、考えすぎよね。まだ十歳よ。大丈夫、だいじょーぶ…。



「…それでリリアには、その子の案内を頼みたいんだが。…いいか?」


「案内ですか?…私でよろしいのですか?」



案内なら、お兄様が適任かと思います!なんて、言えるわけない。…本音はそうなんだけどね。



「確かに、リチャードが案内する方が、言っちゃ悪いが安心だ。…だが、何事も経験だ。だから、今回はリリアにお願いしたい。」


「………………そういうことでしたら、引き受けたいと思います。」



いやだ。引き受けたくない。…もし、その子が美少年だったらどーする?いわゆる、攻略対象だったらどーする?

……没落人生??いやですよ。貧乏な生活だけなら耐えられるが、もっと悲惨なめにでもあったらと思うと…。そもそも、私を引き金に家族を巻き込むのは、避けたい。


だが同時に、このような経験を積むことも父様のいう通り大事なことだ。…そもそも、私が悪役令嬢という確証なんてない。逆も然り。

…没落人生回避も大事だが、私は公爵令嬢である。まだ私は、社交界デビューをしていないが、何年後かにすることになる。たくさんの人間を相手に、弱味を見せてはならない。何があっても、上手く交わさなければならない。


…そうなると、だ。自ずととる行動は限られてくる。これから、攻略対象だとしてもおかしくないイケメンがいたとしても、避けてばかりはできない。

ならば、どうするか。…それは、絶妙な線引きだろう。過度な接触はしない。それこそ、ここがゲームの世界だとしたら、没落人生一直線だ。しかし、避けるのもだめだ。逆に怪しまれてしまう。ならば、適度な距離感。当たり障りのない会話。そう。ただの知人である。友人でも危険性がある。だから、知人だ。この線引きをしっかりすれば、いいはず!!



「そうか。じゃあ、明日はよろしくな。」


「ええ。父様。」



絶妙な線引き、頑張りたいと思います!!



父様の話も終わり、それぞれ席を立ち自室に戻る。

父様と母様は二人なかよく食堂から出て、私もそのあとを追うようにして出た。


するといつのまにかお兄様が隣を歩いていた。



「リリア。明日は私も特に用はないから、なにかあれば私に言いにくるんだよ?」


「…ありがとうございます。ですが、なるべくお兄様の手を煩わせないよう頑張ります。」


「良い心がけだ。…でも、無理をしてはいけないよ?」


「ええ。わかりましたわ。」



いやー、我が兄ながら優しすぎるよ。おまけに、綺麗なブロンドの髪、優しげな目付き。

…お兄様、ほんとイケメンだー。…ん、イケメン?


お兄様の顔を見上げてみる。



「ん?私の顔になにか付いてるかい?」


「いえ、なんでもありませんわ。」



優しげな表情を浮かべているお兄様。…今まで考えたこともなかったけど、すごいイケメンでした、お兄様。

…攻略対象と言われても、何ら疑問に思わないレベルで。


考えたくない、考えたくない!!兄が攻略対象とか!絶妙な線引きとか無理じゃん!

…いやいや、でもでも。まだ、決まった訳じゃないし…。


そうだ!あれだよね!!お兄様の恋路を邪魔しなければ良いんだよ!!うん、そうだよ!……うん。

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