第二部 「世界最高の音楽(仮)」(未公開エピソード)
<あらすじ>
"世界最高の音楽"を作ってもらうため、ノワ、ヘンゼル、フォルテは"伝説の魔法使い"に会いに行く。
伝説の魔法使いの正体とは? そして世界最高の音楽とは一体何なのか...
<この物語での目的>
「この世界における"魔法使い"という存在はどういうものか」にフォーカスをあてる。ましくらの世界観を説明し、バックグラウンドに広がっている世界があることをユーザーに感じてもらう。
物語を通したメッセージは、「”普通の人”と”特別な人”って結局なにが違うんだい?それは本当に、そんなにも差があるものなのかい?」
<プロット>
1.
この世のどこかに"世界最高の音楽"があるという。どこからかそんな噂が流れてきた。
いくつかの方面から流れた噂は、やがて学校での講義中に話題にのぼるまでになった。
ノワたちはその噂に興味を持ち、もし本当ならば自分たちの持ち曲として使おうと"世界最高の音楽"を探し始める。
図書館での探索やききこみなどを通して調べていくうちに、だんだんと噂の内容が明らかになっていった。
それは何百年も前、歴史の教科書にのるような時代の話。
かつて、音楽を使うことで奇跡のような大魔法を実現した伝説の魔法使いがいた。
彼女はその力によって争いを解決し、民を統べ、人々を導いた。
現代につながる礎を築いたような大魔法使いだったが、あるとき彼女は長年研究していた"究極の音楽"が完成したという報せを届けたきり、人々の前から姿を消したのだという。
ここまでわかれば、製作者本人を見つけ出すのが一番早いのだろう。
しかし作った当人が人々の前から姿を消したのであれば、一体どうやって探し出せばいいのだろうか?
そこで行き詰まったある日、ノワたちのもとに謎の手紙が届く。差出人は"クローム・ミディ"。
かつて、大魔法使いと呼ばれた伝説上の人物からだった。
2.
「私の元まできなさい。さすれば、君たちが求めるものを与えよう。」
手紙の文面を頼りに、ノワたちは早速クロームが指定した国"ディファレンス・エンジン"へと向かった。
エズネリフ西部、海を渡ったところにある島国"ディファレンス・エンジン"。そこは、歯車と蒸気を利用した計算機械による科学技術の発達した国だった。
自分たちの出身地とは全く違う風景に目を輝かせる三人。
街の様子をみるのも兼ねて早速情報収集にとりかかると、意外な事実が浮かび上がる。
戦争が終わって以降、この国はずっとクローム・ミディを統治者に栄えてきたというのだ。
しかし、彼女の姿を実際に観たものはやはり誰一人いなかった。
連絡の手段も、基本的には一方的に送られてくる手紙で向こうの意思を伝えるだけだという。
疑問が重なりながらも、大魔法使いがかつて居城にしていたといわれる高い塔を訪れた3人。
意を決して建物内部に入ると、そこはやはり無人の空間であった。
ただ巨大な蒸気機関と無数の歯車がところ狭しと並び、建物全体を蒸気の白煙が漂っているだけの空間だった。
歩みを進めるうちに見つけた肖像画は、かつての大魔法使い"クローム"の在りし日の姿なのだろうか。
絵と機械以外、何もない建物をひたすら探索する。
居城の奥深くまで入り込んだ3人の前に飛び込んだのは、一つの部屋。多数のパンチカードと出力機械が並ぶこの部屋は、他とは少し様子が違った。そこを調べていくうちに、ある意外な真実が浮かび上がる。
なんと、大魔法使い"クローム"の正体は機械だった。
蒸気機関と歯車を利用した複雑な計算機械"解析機関"に組み込まれた、自立思考プログラムのことを"魔法使い"と呼んでいたのである。
そして、この国の統治も機械がやっていたのだ。
つまり、解析機関を中心とした巨大なプログラムがディファレンス・エンジンという国の正体だったのだ。
だから、人前に姿を表さなかった。
だから、連絡は一方的な手紙だけだった。
だから、200年もの間安定した統治を実現できた。
凡人には到達できない、魔法使いと言われる存在だからこそ実現できたと思われていたこと。
それらは真実すべて人間の身ではなく「機械だったからできたこと」という皮肉な結果であった。
そして、この世の物事をすべてロジカルに考えることのできる機械の視点から提供する"世界最高の音楽"の正体。
それは音が人々にもたらす作用を理論化し、必要な周波数、音域、音色、タイミングを制御することによって、どのような効果をもたらすこともできる万能の音を作り出す...というものだった。
ディファレンス・エンジンは問いかける。
「私はどんな音楽でも作れる。どんな音でも君らが必要とするものをすべて実現し、提供しよう。さて、君たちは一体何を望む?」
3.
音がもたらす作用のすべてを完璧にわかっていれば、その効用の及ぶ範囲は無限に期待できる。
理論上はなんでも実現可能な夢の力。だから、これは魔法にも等しい行為なのだ......。
万能の機械と魔法使い、それらが持つ力の差など、もはやほぼないのではないだろうか? いやそもそも普通の人間と魔法使い、それから機械にどれほどの違いがあるのだろうか?
そんなことを考えながら帰路につくノワたち。
ノワは、できたばかりのレコード(※アナログコンピューターが製造しているので、記録媒体もアナログ)を抱えて歩いていた。
3人が選んだ答えはこうだった。
「自分たちのために、世界最高の音楽をつくってほしい」
3人が求める世界最高の音楽とはなにか?
「自分たちのファンが心の底から楽しんでくれる音楽、それが最高の音楽だ」
自分たちのファンが心の底から楽しんでくれる音楽。それはつまり、”自分たちの世界にとって”最高の音楽。
彼女たちが選んだ答えは大それたところがなく、とても身近で、小さく、だが誠実な願いだった。
自分たちの手に入れた”最高の音楽”を、みんなは喜んでくれるだろうか?
3人は、この曲を発表するそう遠くない未来への期待に胸を膨らませた。
4.
エピローグ。
学校に戻ってきた3人を迎える教師。満面の笑みのノワが抱えるレコードを微笑ましげに見つめていた。
実は彼女こそ、大魔法使い"クローム・ミディ"の真の姿であった。
ディファレンス・エンジンの設計者である彼女は、自分の存在と象徴を機械に託すことで自らは歴史の表舞台から姿を消していたのだ。
しかし、きちんと人間として実在していたのだ、本当は。
そして、学校の教師という仮の姿にて、人々のごく身近なところで仮初めの生活を送っていたのだ。
実は今回の物語はすべて、ノワたちに会うために彼女が仕組んだものだったのである。
思い返せば、最初の頃。
"世界最高の音楽"に興味をもつように巧みに誘導していたのは誰だったか?
ディファレンス・エンジン入国後。
ここぞというタイミングで有益な情報を教えてくれた街の人の姿はどうだったか?
そしてあの建物。
肖像画の姿、何か見覚えのある姿をしていなかっただろうか...?
彼女は最後に一言こう残す。
「よくやったね、見習い魔法使い。なぁに、またすぐ会えるさ。今度はちゃんと、"クローム・ミディ"にね。」
(第三部に続く)
<登場人物>
・パラケルスス
進行役。個人的には面白そうだと思うものの、中立的な立場で見守っている。
というか、実は、「"魔法使い"に出会う」というイベントは今までの経験ではまったくなかったイレギュラーな存在なので、その点を警戒している。
・ノワ
話のきっかけ。そういうのがあったら素敵だなあと思いつつ、物事を冷静にみて判断するタイプなので今回の話にはけっこう懐疑的。
だけど結局巻き込まれて一緒に旅に出ることになってしまうので、災難ですよ。
・ヘンゼル
ツッコミ役。実は結構この話を前向きに考えている。というのも、歌や音楽が好きでこの活動をもっとやっていきたいと考えているため、「世界最高の音楽」という言葉には惹かれるものがある。
あと実家の規模感ではこういう大それた話もたまにあるので、こう言ってはなんだが慣れている。
・フォルテ
物語をまわす役。どう考えても面白そうだからとりあえずやってみよう!くらいにしか考えてない。
ディファレンス・エンジンに対しては、たとえ機械だとしても自分の頭で考えて人格らしきものがあるのであれば、それは人間と変わらない存在だと考えている。
というか、普通の人と違ってミミのある自分としてはそう思いたい気持ちもある。
・クローム・ミディ = ディファレンス・エンジン
キーパーソン。かつて"大魔法使い"とまで呼ばれた伝説の魔女。
音楽を基点とした魔法に長けていたが、約200年前に起こった大戦乱"十年戦争"を終結に導いたことで歴史に名を刻むほどの有名人となる。
ディファレンス・エンジンの設計者にして開発者でもある。
自身の立場を機械に託し、表舞台から身を引いた理由は"機械でも出来る程度のことを自らが行う意義を見出せなかったから"。自分自身にしか出来ないことを求めるため、雑事(国の統治も彼女にとってみれば瑣末なこと)を信頼できる存在に譲りたかった。
逆に言えば、ノワたちからみれば魔法使いと高度な機械に差はないかもしれないが、彼女にとってみれば機械にできる程度のことは「魔法とはいえない」と考えている。高みを目指したことがそもそもの発端だった。
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