第7話 放浪の祈祷師

 祈祷師のグルガンは、村の隅を流れる谷川に作られた水車小屋に住んでいた。

 谷川は水路といってもいいくらいに狭かった。流れもそれほど速くないが、水は多く、大きな水車をゆっくりと回すぐらいの力はあった。

 小屋は大きくはなく、人が1人やっと住めるくらいの大きさだった。屋根には煙突があり、外から見ても、そこで暖を取ることはできだろうと見当がついた。

 ジェハは革鎧の男に案内されるままに、意識を失ったガルバをその水車小屋に2人で担ぎ込んだのである。

 グルガンは、すりきれた灰色のフードをまとう、絞められた鶏のように禿げ上がった猫背の老人だった。

 雨風で板の朽ちかかった戸を開けて顔をのぞかせるなり、小さな目で上目遣いにジェハを見た。その不信の眼差しに口を歪めてみせると、老人は鼻で笑って目をそらした。

 一方のガルバはというと、だらしなくクローヴィスに抱き抱えられている。その様子を見たグルガンは、即座に言い切った。

「心配ない」

 すぐに小屋の隅にある自分のベッドへ運ばせて寝かせた。

 全身をちぢここませて狭い水車小屋の中をひょこひょこ歩きながら、棚の中から香炉を取り出し、壁に吊るして乾かした木の皮をちぎりとる。

 そしてガルバの枕元に香炉を置き、木の皮を焚いて祈り始めた。

 祈りの声は、その姿に似合わず、柔らかく澄んでいた。 

 水車小屋の中に甘く清々しい香りがたちこめる。

 ジェハは、「瘴気の森」の中で体の中に溜まった毒気が溶けてどこかへ流れ去っていくのを感じた。

 やがて、ガルバが目を覚ました。

 グルガンがその顔を覗き込むと、気色悪そうに「あ、じじい」と言った。

信用がないとは思っとったが、とグルガンがぼやく。ガルバは立ち上がろうとして、ベッドから転げ落ちた。革鎧の男が抱き起こし、ベッドに戻す。

 グルガンがガルバを見下ろしてたしなめた。

「しばらくは思うように動けんぞ。瘴気鬼の毒はそれほどに強い。」

 傷口から毒が入ったらしいな、と革鎧の男があの低い声でつぶやく。グルガンが頷いて言った。

「しばらくはワシの家で」

 ガルバが再び身体を起こす。

「じっとしてられるか……。」

 そう言ったものの、身体をこわばらせて呻くなり、ベッドの上にばたりと倒れた。恨めしそうな目をするガルバを、グルガンがたしなめた。

「無理するな」

 ガルバは横になったまま悪態をつく。

「金がないんだよ、オレは」

 革鎧の男が笑った。

「相変わらず荒稼ぎしてるようだね、グルガン」

 グルガンは、ふん、と鼻で笑い返して言い返す。

「人聞きの悪い事を言うなよ、クローヴィス」

 革鎧の男の名は、クローヴィスというらしい。

 会った時には気づかなかったが、切れ長の目はかなり眠そうである。

 そのクローヴィスの一言を捕まえて、ガルバが口を挟んだ。

「悪いもんかよ、じいさん」

 ガルバは、動けない身体の憂さ晴らしをしようとするかのように、ここぞとばかりまくしたてた。

「去年の秋、村のオバサン連中に、肌が若返る薬だとか言って、小瓶を1本銀貨10枚で売って回ったろう。ガールッタなんか金貨1枚出して10本買って、毎日飲んじゃあオレにどうだどうだって聞くんだよ。どう変わったかよく分かんねえから適当なこと言っといたが、後で小瓶見せてもらったら、薬の色に何か見覚えあるんだよ。よく考えたら、村の外れに生えてるでっかい桑の実の汁、あれそっくりなんだよな。どうなってるのか、じいさんに聞こうと思ってここに来てみたら、もう旅に出た後だっただろ。まだあるぞ、一昨年の……」

 話が長くなりそうだったので、ジェハはベッドの毛布を引きずり上げ、ガルバの口を塞いで聞いた。

「で、あんたがグルガンなんだな」

 グルガンは黙って頷いた。背が低いので、どうしてもジェハを上目遣いで見ることになる。ジェハも目つきが悪いので、別に喧嘩をしているわけでもないのに2人して睨みあうような格好になった。

 ジェハはグルガンからリナのことを聞きたいのだが、どこまで知っているか分からないので、もちろん、変身のことは聞けない。

 ガルバにしても、「瘴気の森」への案内を買って出たときからリナの話をしようとしないのだから、こちらから何を言うこともない。

 当たり障りのないことから尋ねるのが無難だった。

「森の奥に、デカい割にボロい家があるだろう」

 グルガンは事も無げに答える。

「リナの家か」

 だがガルバは、「余所者にあっさりバラすな」と釘を差した。

 グルガンは平気なものである。

「下手に隠さんほうがいいからな。あそこにはちゃんと人が住んでおる」

ジェハは、少しずつ本題に入っていくことにした。

「いつからだ」

 少し考えて指折り数えながら、グルガンは答えた。

「10年前、ワシがここに来たときから」

 ジェハはガルバに、「じいさんだって余所者じゃないか」と非難したが、ガルバは気にした風もなく言った。

「旅の祈祷師さ、このじいさんは。たまにしかやってこないが、この村の連中は皆知ってる」

 リナのこととは関係ないが、気になったのでジェハは聞いてみた。

「どこの出だ」

 どこということはない、とグルガンの答も素っ気無い。

 クローヴィスが代わりに、「放浪民族さ」と答えた。

 それを受けて、グルガンが話を続ける。

「10歳までにひととおりの芸を仕込まれてな、ひとりで出稼ぎに出される」

 それはジェハも知っていた。旅芸人の一座にいた頃、行く先々でそうした祈祷師たちに出会った。同じ宿に泊まったこともあるし、街から街へ移動するときには年老いた祈祷師を縁起担ぎに荷車の上に乗せたこともある。

 ジェハの知る限りでは、祈祷師は冠婚葬祭や災害時の呪いのほか、簡単な医療も行うようだった。

 グルガンが杖を手にとって、言葉を続ける。

「こんな杖をもらってな」

 杖の握りをぐいと引っ張ると、そこから光る刀身が覗いた。

 仕込杖になっているようだった。グルガンが自慢する。

「鉄でも切れるぞ」

 だが、それはこの際どうでもいいことだった。 

 ジェハは話をリナの方へ持って行こうと、グルガンの話を遮った。

「あんたのことは聞いてない」

 ガルバも口を挟む。

「オレが子どものころは年に1回くらいか」

 ジェハはガルバも黙らせなければならなかった。

「お前にも聞いてない」

 グルガンが二人をたしなめる。

「人の話は最期まで聞け」

 誰のせいだよ、と食ってかかりそうになる気持ちをぐっとこらえて、ジェハはグルガンの話に耳を傾けた。

「森の奥に村があると聞いてな、ここなら祈祷師が来ることもあるまいと探し当ててみると、人だかりがしておる。見れば、小さな女の子を皆が取り囲んでおろおろしておる。これは商売になると声をかけたら、孤児を面倒見てくれという派手な女がおってな。それがあのガールッタよ」

 そこでガルバが不満気に言った。

「空き家を世話したのもガールッタだよ。小さなリナひとりで住まわせてさ」

 グルガンが目を閉じて頷く。

「確かにガールッタはひどいが、リナもしっかりした子だ」

 その一言に、ガルバが噛み付いた。

「面倒見ろって言われたんだろ」

 グルガンは苛立たしげに反論する。

「ワシも出稼ぎせねばならんし、一族に稼ぎを納めねばならんでの」

 ガルバはなおも食い下がった。

「インチキ占いにニセ薬か」

 グルガンがのらりくらりと返すのでガルバもむきになり、とうとう口論になってしまった。

「リナの暮らしのためよ」

「まっとうな銭をやれよ」

「銭には印も名前も書いてない」

 これを見かねたのか、クローヴィスが仲裁に入った。

 まず、ガルバをたしなめる。

「人の悪口の前に礼ぐらい言ったらどうだい?」

 眠たそうに言った。

 二人の口論だけでも話が脇に逸れているのに、もう一人加わっては余計に事がややこしくなる。

 ジェハはつい、話に割って入ったクローヴィスに絡んでしまった。

「誰だお前」

 クローヴィスは「グルガンの古い知り合いさ」と肩をすくめた。

「知り合いと言ってもこの10年くらいのことだけどね。君ぐらいのときに師匠のところを出て、すぐ知り合った。君のように傭兵をしていたこともあったし、ひとりで賞金稼ぎをしていたこともある。右も左もわからない私に、いい事も悪いことも教えてくれた」

 傭兵や賞金稼ぎという言葉に、ジェハはこの男が瘴気鬼を斬った技を思い出した。

 一旦リナのことは置いておいても、尋ねずにはいられなかった。

「なぜ倒せた」

 あの瘴気鬼は、ジェハが斬っても手ごたえがなかった。つまり、実体がなかったということである。

 その、実体のない相手が斬れた理由が知りたかった。

「あれ……?」

 目をしょぼつかせながら首をかしげるクローヴィスに、ジェハは答を急かした。

「ほら、あの……瘴気鬼ってヤツだよ」

 クローヴィスは、ああ、とつぶやいて、背中の剣をガチャリと鳴らした。

 とろんとした目でジェハを見ながら、一言で答える。

「黒太子の剣」

 それを聞いて、グルガンがクローヴィスに尋ねた。

「まだ見つからんか」

 クローヴィスは、淡々と答える。

「まだ夢に見る」

 グルガンは深い溜息をついた。

「手がかりはあの紋章だけか……。」

 それきり話は途切れた。ガルバも疲れのせいか、寝息をたてて眠ってしまった。

 沈黙が続いた。

 昨夜の雨で増水した谷川の水で水車だけが、音を立てて回っている。

 小屋の壁沿いには小麦を粉にするための杵と臼があるが、今はその用がないのであろう、臼は空である。本来は水車の回転に合わせて杵が動くようになっているのだが、その必要もないので、仕掛けも止められていた。

 水車小屋の中の誰もが押し黙ってしまった中で、ジェハは一人で考えていた。

 グルガンとクローヴィスの話したことは、ジェハにはよく分からなかった。ただ、耳の中には「紋章」という言葉だけがやけに強く響いたのである。頭の中に何か引っかかるものがあった。

 しばらく経って、ジェハは床に下ろした背嚢の中を探り始めた。グルガンとクローヴィスがそれに気づき、興味深そうに眺める。

 やがて、ジェハは鞘に収まった一本の短剣を取り出した。

 リナから預かった短剣と、ガールッタの倉庫にあった鞘である。はめ込まれた大きな宝石と、それを囲むように絡み合う二匹の蛇が描かれる妖しげな紋章……。

 ジェハが鞘を見せると、クローヴィスが息を呑んだ。

「それは……!」

 グルガンがクローヴィスの目を見た。クローヴィスは恐ろしげに頷き、つぶやいた。

「私が悪夢に見る紋章だ……」

 そんなことには構わず、ジェハは鞘を裏返して、そこに書かれている文字をグルガンに見せた。

「何か書いてあるんだが……」

 だが、グルガンはそれを見もしないでジェハに尋ねた。

「どこで見つけた?」

 聞いたことにグルガンが答えないので、ジェハも答えたくなかった。

「言わなくちゃいけないか」

 そう言いながらガルバのほうを見ると、もう起きていた。代わりに答えるかと思ったが、ガルバは知らん顔をして横を向いた。

 クローヴィスが鞘の文字を覗き込んだが、ジェハと同様、読めないようで、「読んでくれないか」とグルガンに頼んだ。

 グルガンは、鞘の文字をさっと眺めて、一息に答えた。

「この剣を持ちて瘴気の森のわが元に来たれ」

 さらにジェハの手から鞘を受け取り、短剣を抜いて、「見覚えがある」と唸った。

 ジェハが「リナが来た時か」と尋ねると、グルガンは目を閉じて頷いた。

 深く息をついて、リナと初めて会ったときのことを語り始める。

 その話は長かったが、まとめるとこういうことだった。

 ……グルガンがリナの面倒を見ることを引き受けると、ガールッタはその日のうちに、村の外に打ち捨てられた廃屋を探し出してきた。その廃屋は、ガールッタが音頭を取って村人たちを焚きつけたおかげで、夕方までにはなんとか雨風を凌げるまでになった。

 リナはその日、一言も口を利かなかった。虚ろな目をして、何かをじっと胸に抱えていた。夜になってリナを家に入れても、床にしゃがみこんだまま、身じろぎもしない。グルガンは何か不吉なものを感じ、香を焚いて祈ってみた。

 どれほど祈っても、何の変化もなかった。そのうちランプの灯は、ガールッタが油をあまり分けてくれなかったので消えてしまった。新月の夜だったので、部屋は真っ暗になった。

 しかし夜半を過ぎた頃、リナは動いた。胸に抱えたものをじっと眺めだしたのである。

 それは、禍々しい形をした短剣であった。

 幼いリナは、短剣を手にして「16歳になった夜に鏡を見よ」とつぶやいた。その言葉に、グルガンは背筋が凍る何かを感じ、咄嗟に叫んだ。

「16歳になった夜は鏡を見てはならない」……

 これはただの叫びではなかった。呪術師に呪いをかけられたときに災いを遠ざけるための、「封じ言葉」であった。

 そこでリナは短剣を手から離し、ばったりと倒れて静かな寝息を立て始めた……

 再び、重い沈黙が漂った。

 グルガンは、そのままベッドの傍の椅子に座り込んでうなだれた。ガルバはベッドで横になったまま、顔を背けていた。

 ジェハは、水車小屋の隅へと歩いて行った。そこで棒立ちになり、訳もなくこみ上げてきた怒りに身体を震わせていた。

 豪雨の中、剣を携えて突然現れたジェハを恐れることなく、食事を振る舞い、一夜の宿を世話したリナ。

 会ったばかりの自分に、涙を流して救いを求めたリナ。

 ジェハに喧嘩を吹っかけた大男のガルバを睨みつけてたしなめた、思いのほか気の強いリナ。

 リナの泣き顔や無邪気な笑顔がジェハの目の前に現れては消える。

 だが同時に、ジェハの頭の中に閃くものもあった。

 昨夜のうちにジェハを階下まで運んだこと。ジェハが壊した扉を力任せに押し開けたこと。

 華奢な身体をして、リナの腕力は相当なものだ。

 やはり、リナはただの少女ではないのだ。

 そう考えたとき、沈黙が破れた。

 クローヴィスが口を開いたのである。

「なぜ、その短剣と鞘は離れ離れになったんだろう?」

 眠たそうなその一言に、ジェハもそういえばと我に返った。この短剣の鞘が、ガールッタの小屋にあったのは何故か?

 その時ガルバが、「あのババア」とつぶやいた。

 グルガンが、そのつぶやきに「ガールッタだな」と答えた。

 目を閉じて話を聞いていたクローヴィスが、グルガンとガルバの確認を求めるかのように、二人の言葉をまとめた。

「その短剣の鞘は、さっき名前の出たガールッタという人のところにあったんだな」

 その言葉に振り向いたジェハの目を見て、クローヴィスは何かを確信したように話を続けた。

「すると、その鞘はガールッタさんが幼いリナさんから盗んだと考えるのが自然だろう。幼いリナさんは正気を失いながらも、短剣だけは奪われまいと胸に抱え込んだ」

 グルガンが首をかしげて尋ねた。

「鞘だけ盗んでどうする? しかもあんな禍々しい紋章の……」

 クローヴィスはグルガンの手から鞘を取り上げ、宝石の部分を叩いた。

「これさ。随分と大きいから、見て欲が出たのも無理はない」

 ほら、と言ってジェハやグルガンに見せた鞘には、宝石を囲むように傷がついていた。

 グルガンも納得したように言った。

「外そうとしたんだな」

 ベッドの上で聞いていたガルバも、吐き捨てるようにつぶやく。

「街で売り飛ばそうとしたんだろう」

 それらの言葉を受けて、クローヴィスがまとめた。

「ところが宝石は外れず、鞘も傷がついていて見てくれが悪い。それに鞘だけでは使い物にならないから買い手もつかず、ガールッタさんの手元に残った」

 クローヴィスは、鞘をジェハに返すと、今度はグルガンの手から短剣を取った。

 しばらくの間、刀身を裏返したり、蛇の絡まった形の柄を撫でたりしてから、グルガンに尋ねる。

「この刃に字が刻んであるんだが……」

 グルガンは首を横に振った。

「ワシにも読めん。古代の文字のようだが、字がおかしな形に歪んでおる。それに……」

 クローヴィスの手から短剣を取り返して目の前にかざし、何かつぶやいた。

 刀身から青い炎がゆらりと燃え立つ。

「何かの術がかかっておる。おそらく、当事者でないと読めないようになっているのだろう」

 ジェハはグルガンに尋ねた。

「じゃあ、リナはこの字を……」

 グルガンはすまなそうな顔して、寂しげに笑った。

「あの子は自分の名前を書くのが精一杯だ。旅の身ではそこまでしか面倒が見られなくてな。そもそもこの村で、まともに読み書きのできるものはおらん」

 クローヴィスも尋ねた。

「術は解けないのか?」

 グルガンの表情は、一転して険しくなる。

「多分、合言葉が必要だな。それも人間の使う言葉ではない」

 ジェハには訳がわからない。

 ガルバも喚いた。

「なら、犬や猫に言葉を習えっていうのか?」

 首を軽く横に振って見せたクローヴィスは、少し考えてつぶやいた。

「金属を扱うなら……地の精霊か」 

 グルガンは心配そうに、眉根を寄せてクローヴィスに尋ねる。

「グノムスと話せるか?」

 クローヴィスは溜息をついて、水車小屋を出て行こうとする。

「話せるが……彼らは人間のすることに興味がないよ。金属のことしか考えてないからね」

 ジェハが呼び止める。

「おい、どこへ行く気だ」

 背を向けたまま、事も無げにクローヴィスは答えた。

「瘴気の森だよ」

 なおもジェハは突っ込む。

「何しに行くんだ」

「私には私の用事があってね」

 ジェハに向かって振り向き、クローヴィスは微笑した。

 歯がやけに白い。

 それが妙に気に障り、張り合う気など最初からなかったのに、ジェハはつい言ってしまった。

「俺も行く」

「何しに行くんだい?」

 同じ質問を返されて、ジェハは答に詰まった。

 そんなジェハなど無視して、グルガンはクローヴィスに聞く。

「何か手がかりはあるのか?」

「同じ紋章の描かれた祠があったんだ」

 そう言うなり、クローヴィスはジェハとグルガンそれぞれに向かって手を突き出した。

「きっと、この短剣と関係がある」

 グルガンが差し出そうとした短剣を、ジェハは横取りして鞘に収めた。

 仕方ないなという顔で外へ出て行こうとするクローヴィスに、ジェハは黙ってついていく。

 ガルバがベッドから立ち上がろうとして、床に転げ落ちた。グルガンが抱き起こし、小さく萎んだ身体でえっちらおっちらとベッドに戻してたしなめる。

「休んでおれ。ひと月は元に戻らんぞ」

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