1−4 これからのことについて

 「空間魔法…ですか?」

 と神妙な面持ちで話してきたアステナさんに聞き返してしまう。

 「空間魔法というのは、空間そのものを把握し重力をかけたり、逆に軽くすることができる魔法なんですが…」

 んー、なんかとても抽象的な説明な気がする。

 そんな表情をしていたのに気付いたのか、アステナさんは申し訳なさそうに言ってきた。

 「ごめんなさい、私は空間魔法についての知識があまり無いもので。そもそも、現代で空間魔法を扱える人はいないと思います…。」

 「え、それはどういうことですか?」

 「はい、少し長い話になりますが。」

 アステナさんが言うにはこうだ。

 まず、この世界には魔力と言うものが存在する。魔力というのは空気中にもあるが、体内にも存在している。そして、魔力には幾つか属性があるという。この世界の人たちは大方何かしらの魔法は使えるらしい。しかし、その人によって扱える魔術や魔法は生まれた時に、体内に所持している魔力の属性で決まってしまうようだ。例えば火属性と水属性の魔力ならその2つの魔術と魔法のみということらしい。

 その魔力を用いて、水を生み出したり、火を発生させたりできるらしい。その行為を魔術や魔法と呼んでいる。まず、魔術は体内に所持した属性の魔力を用い、詠唱し、形にすることで魔術として顕現する。次に魔法だが、魔法は体内の魔力だけではなく、空気中の魔力も同時に取り込み、詠唱し顕現したものを魔法というらしい。あまり違いはないように思えるが、空気中にある魔力は属性がない。つまり火属性の魔法を発動させるためには、空気中の魔力を火属性に変換しなければいけないのだ。そんな難しいことなのか?と思ったが、これができる者はかなり限られており、できる者は国に仕える魔導師になれるらしい。魔導師がどういう者か分からなかったが、「とにかく凄い魔法使いということです!」とアステナさんに言われた。

 そして、個人的に一番気になっていたあのお湯が出る紫色の石だが、あれは魔石という物らしい。魔石には魔法により特殊な加工をした魔力が込められており、どんな属性の魔力を通しても、その魔石に込められた属性の魔力に変換されるという物だった。これにはかなり驚いた。つまり、火属性と水属性の適性が無くても、魔力を通すだけで温かいシャワーを浴びれるということだ。だが、アステナさんが言うにはかなり高価な品物で「一般家庭では手が出せない物ですね…」と言っていた。じゃあ、アステナさんは…と思ったが、口には出さずに聞いていた。

 色々と丁寧に説明してくれたアステナさんだが、知らない単語もあり、かなり大雑把な形だが大体言っていることは分かった。

 「なるほど、なんとなくですが魔力や魔法については分かりました。それで、空間魔法についてですけど…」

 「あっ、まだ言ってませんでしたね。さっき自分が扱える魔術や魔法は生まれた時に所持している属性の魔力で決まると言いましたが、空間魔法は神族に連なる方達でしか扱えないんです。稀に空間属性の魔力を持っている人もいますが、魔力が体内にあるだけで扱えることはできないんです。」

 「な、なるほど」

 「魔術や魔法を覚えるには教本やその魔術を扱える人を手本にして習得するものなんですが、空間魔法はそれに関する教本が数少なく、神族の方達は既に亡くなられているので、手本にすることもできないんです。まあ、神族の方が生きていたら、魔法云々でなく大騒ぎになると思いますが…。」

 かなり衝撃的なことを伝えられ、理解が追いつかない。

 「つ、つまり僕は神族しか所持していない魔力を所持していて、その魔法を教本も手本も見ずに発動したっていうことですか?」

 自分でも何を言っているか、まったく分からない。

 「はい、そういうことですね…。」

 つまり、そういうことらしい。アステナさんも困惑した表情で告げてきた。

 「なるほど、わかりました。」

 いや、全然分かってないが…。

色々あったが、この世界の魔術や魔法について一通り教えてもらった。そして、これからのことについて考える。

 元の世界に戻るためにどうすればいいか、日本への帰還の仕方にもついて考えるが、すぐに解決方法は出そうにない。そして、今の現状とこれからのことを踏まえると、今はこの家でお手伝いさんという形で雇ってもらい、この世界の事を学びながら帰還方法について探すという形を取るのが得策だろう。あとあの熊をとは言わないが、必要最低限の戦闘力を身に付けないとこの家を出てもすぐに熊にやられるか、野垂れ死ぬ未来しか見えない。まず、この家が森のどこにあり、この森がどれくらいの大きさがあるのかも知らない。

 んー。やっぱり、ここでお世話になるしかないな…。

 「あの、綾人さん?」

 とそんな事を考えていると、アステナさんが僕の顔を伺いながら話してきた。

 「あ、はい。なんでしょう?」

 「今までの話を聞く限り、綾人さんは今、住むところもないんですよね?」

 「はい…、そうなります…。」

 「でしたら、この家で暮らしたらどうでしょうか?」

 まさか、アステナさんから提案してきてくれた!

 「い、いいんですか?何処からから来たか分からない自分が一緒に住んでも…」

 その提案に喜びつつも、申し訳なさそうに答える、と

 「えー!あやとおにいちゃんといっしょにくらせるのー!?やったー!」

 アステナさんが答える前に今までの話を聞いていたのか、直前の会話が耳に入ったのか、それまで静かに僕の手を弄って遊んでたリーナちゃんが喜びを満面に現し、可愛いらしい笑顔で言ってきた。

 「リーナちゃん、まだ決まったわけじゃ、」

 「リーナ、綾人さんはこれからこのお家で一緒に暮らす事になったわっ。」

 と僕が言い切る前に自分の娘に向けるような笑顔でアステナさんがリーナに告げる。

 「アステナさん…」

 「ふふっ、いいんですよ。私もリーナと同じ気持ちですからっ。」

 と同じように、慈愛に溢れた優しい笑みで僕に告げてきた。

 「あ、ありがとうございますっ。これからよろしくお願いします!」

 この世界をまだ知らないという不安、どうすれば住んでいた日本に帰れるかという心配、あんな巨大熊とまた遭遇すれば…という死に対する恐怖、様々な問題が今は山積みだ。けれど、アステナさんの優しさや寛容さ、リーナちゃんの元気溢れる笑顔に、どうにかなりそうな気がして自然と笑みを浮かべている自分がいた。

 「あ、でもまだ他の人たちにも聞かなくてはいけませんねっ。」

 と、先ほどの笑顔のままそんなことを言うアステナさん。

 「え?他の人たちというのは…。」

 「あ、すいません。まだ言っていませんでしたね。この家には私とリーナの2人だけで住んでいるわけじゃなくて、」

 とアステナさんが言いかけたところで、

 「バコォン!」と何かが爆発した音が響き

 「おーい!リーナ!アステナ!帰ったぞー!」

 と爆発音に負けないぐらいの声量の野太い女性の声が家中に響き渡った。



 

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僕はこの世界で生きて行く 戸田 雄祐 @toda_yusuke

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