1−2 帰り道

「えっと……貴方、大丈夫ですか?」

 心配そうな顔をして声をかけてくれた女性は薄紫色のロングヘアだった。ローブのようなものを羽織り、魔法使いのような出で立ちをしていた。

「あ、はい。とりあえず、大丈、痛っ。」

 巨大熊の脅威が消えたからか、初の村人?と会えたからか安心していると、先程の痛みが蘇ってきた。

「酷い怪我をしてるじゃないですか!治癒薬は持ってますか!?」

 先程とは違い、自分よりかなり慌てているように感じる魔法使いさんは聞いてきた。

 治癒薬…なんだそれは。

「いや、持っていませんね…。」

「っ、今は下級薬しか手元にありませんね、仕方ないですっ」

 僕の返事を聞いた途端、ローブの内側にあった袋の中を探り、ビンに入った薄紫色の液体を取り出す。それを持ち、凄い形相で近づいてきた魔法使いさんに驚き一歩下がると、

「ちょっと逃げないで下さい!応急処置をしますので!」

 僕の意見なんて二の次だと言うかのように腕を掴まれる。

「リーナ、手伝ってください。上着を捲り上げて。」

「え、ちょっと待っ」

「はーい!おにーちゃん、じっとしてなきゃだめだよ?」

 言い切る前に金色の髪をした女の子リーナちゃんにがしっと支えられる。

 うわぁ、恥ずかし…。

 かなりの羞恥心に耐えているともう終わったのか、魔法使いさんから声を掛けられる。

「ふぅ、とりあえず大丈夫そうです。ありがとね、リーナ。」

「どういたしまして!アステナおねえちゃん!」

 何かを失ったような感覚に陥っていると魔法使いのアステナさんがこちらの顔を覗いてきた。

 近っ…

「とりあえず、応急処置は済みましたがどこか他に悪いところがありましたか…?」

 また何か心配そうな、困ったような顔をしている。表情が豊かな人だなぁ。

「いえ、わざわざありがとうございます。」

「おにいちゃん、もうげんきー?」

 リーナちゃんにも聞かれてしまった。申し訳ないと思いつつ、目線が合う高さまでしゃがみ、できるだけの優しい笑顔で答える。

「リーナちゃんのおかげで元気になったよ。ありがとうね。」

 自分が面倒を見てもらっていたのに、髪を梳くようにリーナちゃんを撫でていた。あっ、と僕は何してるんだと思った時には、リーナちゃんは顔を赤くしてアステナさんのローブの中に隠れていた。アステナさんと目が合い、こちらだけが気まずくなっていると声をかけられた。

「こほん。すいません、色々とありまして紹介が遅れました。私はアステナ、でこちらに隠れているのがリーナといいます。」

 そう言ってローブをちらっと捲る。リーナちゃんはひょこっと顔を出して、

「リーナ…です。」と消えちゃいそうな声で教えてくれた。

「先程はありがとうございました。諏訪綾人って言います。」

「諏訪綾人さんですか、教えてくれてありがとうございます。諏訪綾人さんは一人でこの森に入ったんですか?」

 アステナさんは不思議なのか怪しんでいるのかそんな含みのある表情で尋ねてきた。

「いえ、目が覚めたらこの森に中にいて…」とこれまでの状況をアステナさんに伝えると、

「なるほど。つまり、諏訪綾人さんは今行く宛てがない…ということですよね?」

 恥ずかしくなり、途端に情けない思いになる。

「いや、諏訪綾人さんを責めている訳ではないんです!んー、とりあえず家に来て詳しい事情はそちらで話しましょうか。」

「すいません、有り難うございます。」

 内心、助かった…と思いながら、頭を下げる。

「いえいえ、気にしないで下さい。この森は私たちの管轄なので報告しなければなりませんし。」

 管轄がなんの事かはよく分からなかったが後で詳しく話してくれるだろう。とりあえず助かった…のかな?

 



 高く伸びた木が壁のように生え立つ森の中を進んで行く。いつもこの道を通っているのだろうか、ちょっとしたけやき通りのようになっていた。歩いている間は聞きたい事がたくさんあったがリーナちゃんが元気になったのでそういう話はせず、たわいもない話をしながら歩いていた。あと諏訪綾人が名前だと思われていたので、綾人の方が名前だという事も伝えた。

 けやき通りを抜けると一軒の家が建っていた。その周りは森の中とは思えないほど綺麗に整地されてあった。

「着きましたよっ。いらっしゃい、綾人さん。」

「あやとおにいちゃんっ、はやく!」

 アステナさんが優しい笑みをして、リーナちゃんが繋いでいた手を引っ張る。

 

 家はほとんどが木で出来ていた。日本の建物と比べると見劣りしそうだが決してそんな事はない。建築した人のセンスがいいんだろう。ただの木造の家という感じではなく、かなり立派なそれでいてお洒落なコテージのような感じに仕上がっている。玄関の扉にも黒い木?らしいものが使われていた。

「とても立派なお家ですね。」

「はい、ありがとうございますっ。」

 素直に感想を述べると、アステナさんは語尾をあげ、自分の事を言われたように喜んで、返事をくれた。

「どうぞ、入ってください。」

 先に玄関を開けてくれて、お先にどうぞ。と入るように勧めてくれた。

「ありがとうございます、お邪魔します。」

 

 



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