僕はこの世界で生きて行く
戸田 雄祐
1−1 始まりの目覚め
「ピーピッピピー」
鳥の鳴き声が聞こえてくる。今日は目覚ましが鳴る前に起きれた。まだ完璧に目が覚めたわけじゃないけど。
「もう少し待って…あと10分……」
一人で暮らしているのに誰かへの言い訳をする。
もうそろそろ時間かな。そう思いながら寝返りをうった時に腕に衝撃が奔る。
「痛っ!………え?」
何か腕に刺さった気がして目が覚める。そこは自分の部屋ではなく、森の中だった。
「ここ、どこだ…?」
昨日はちゃんとベッドの上で寝たはずだ。なのに起きたら森の中。周りを見渡すと、さっき鳴いていただろう小鳥が木の枝に停まっていた。
今そんなことはどうでもいい、というか一体、ここはどこなんだ。
「とりあえず、誰かいるか探そう…。」
そんな独り言を呟き、立ち上がる。服に付いた葉っぱを落とし、歩き始める。周囲を探索するが未だに人の気配を感じない。どこかの樹海かジャングルみたいだ。ここはどこなのか、なぜ目が覚めたら森の中にいたのか。
「本当にどこなんだ、ここは…。」
そんなことを考えながら歩き続ける。そして暫く歩いていると木々が拓け、洞窟のようなものが見えてきた。洞窟の入り口は2メートル近くあった。時間的には大して歩いていないのだが、精神的に辛くなってきたので少し休もうと思い洞窟付近に腰を下ろす。
少し体を休め、今の状況について考える。先ず、起きたら森の中にいたこと。考えられるのは誰かに誘拐?されたか。んん…この可能性はないだろう。ニュースなんかでも誘拐されて森で発見されたら、大体が死体で見つかるはずだ。あとは、ものすごくリアルな夢か…。そう思い頰を抓る。
「痛っ…」
よく考えたら、腕に木の枝が刺さって目が覚めたんだからそれはない。
「はぁ。」
疲れているんだろうか、ひとりでに溜め息が出る。ぼーと周りの木々を見ていると右の方に反応を感じた。
ん?今、なんか右奥に?
と次の瞬間、「グワァーー!!」と何かの咆哮が耳に飛び込んできた。
「うわ!なんだ今の…」
ビクッと体が無意識に反応する。
今って熊の鳴き声か?
声の正体が先ほど右奥の方で感じた何かだと感じ、そちらの方を注視する。すると、その周辺の木々が揺れだした。
やばい、やっぱりそうだ。さっきの熊だ。
すぐさま立ち上がり、少し先にあった岩場に身を隠す。
「グワォ、グワォ」と鳴く声がどんどん近づいてくる。
痙攣が起こったかのように体が震えるが、必死でそれを抑え込む。
こっち来るなよ…、絶対こっちに来るなよ…。
そんな念じるような僕の声が聞こえたのか、岩場の近くで足音が止む。
おいっ、止まるなって。
「グオッ、グオッ。」
熊は俺を探しているのか、岩場付近を歩き回っている。耳を澄ませ、そのまま息を潜めていると足音がしなくなった。
よし、いなくなった…かな?
そう思い、熊が去ったか岩場から顔を出して覗いてみる。すると、そこには想像していた熊の大きさの3倍を軽く超える巨大熊がいた。
うっ、なんだあれっ、あれ本当に熊なのか?5m以上あるんじゃ…。
あまりの大きさとまだそこにいたことへの驚きで少しの間、固まってしまう。あまりの衝撃に体が固まってたことに気付き、すぐさま逃げようと体を引っ込める。しかしその時に「ジャリッ」と足元の石が靴に当たり音を立ててしまい、巨大熊がこちらに気づく。
「グオォー!!」
やばっ見つかった!
一目散に逃げようと岩場から離れたところで、
「バゴォン!」
何かが爆発したような音が響き渡る。と同時に背中に何かが突き刺さった痛みを覚える。
「痛っ!」
…うぐっ、痛っ。
背中だけでなく腕や足にも針が刺さったかのような痛みに襲われる。しかし、そんな痛みを感じていられるはど、今は余裕がない。体全身が痛みを訴えてくるが、それを無視し、全速力で走りだす。その直後、巨大熊の後方から女の子の声が聞こえてきた。
「おーい!にげるなー!くまー!」
今の状況に相応しくない可愛らしい女の子の声が耳に入ってきたが今は振り向いて確認する余裕なんてない。逃げることだけを考え、必死に足を動かす。だが体を動かすたびに、ギシギシと腕や足の喚き声が聞こえて来る。自分の足音なのか、巨大熊の足音なのか、無理に動かしている体の悲鳴か。何がなんだか分からなくなってきた。
はぁ、はぁ、もう無理だっ…。
「ガッ」そんな諦めの声を誰かが聴いたのか、大樹から伸びていた縁石ぐらいの高さのある根に躓く。その隙を巨大熊が見逃す訳もなく、一瞬で自分と巨大熊との距離を縮まり、巨大熊が腕を伸ばし横からスイングしてくる。必死に体をねじ曲げて巨大熊の一撃を避ける。
「ブウォン」と単に腕を振るったとは考えられない風切り音が直撃する。巨大熊の攻撃は避けれたが、スイングで生まれた風力によって後ろにふっ飛ばされる。
「ぐっ…」受身も碌に取れず、思い切り背中をぶつける。そうしているうちに熊が目の前まで来て、左腕を天高くに上げ、振り下ろしてくる。立ち上がって逃げようとしても、足が痙攣して上手く動かせない。
くそっ、おい、動けっ、
その間にもどんどん巨大熊の腕が迫ってくる。
「動け、動けよ!」
ついに声に出すが、体からの反応は返ってこない。そして、目と鼻の先にまで巨大熊の腕が近づく。
目の前には腕を振り下ろしてくる巨大熊。すると何かの違和感に気付く。
ん?動きが遅い?
そのことに気付いた時には視界が灰色の霧が薄くかかったようになっていた。熊の動きを注視すると、同時に体の中で何かの流れが加速する感覚を覚える。
なんだこれ?心臓の鼓動を体全身で感じてるみたい…。
そんな疑問を抱き、自分の体を見ると灰色のオーラみたいなものが体から溢れ出ていた。内心驚いたが、直ぐに巨大熊に意識を移し攻撃を躱そうと後ろに一歩引いたら、
「うりゃー!」と可愛い声が聞こえたと同時に「ブァゴォンッ!」と岩場が壊された音とは比べものにならない爆音にやられ、体がよろける。すっと顔を上げると、巨大熊は巨大な剣?で真っ二つにされていた。
そして、その巨大熊の間から巨大な剣を振り抜いたであろう金色の髪をした女の子とその横には薄紫色の髪をした女性が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます