第6話

ノートを取り出して、メモを取り始めたとき、

ふと顔をあげると、そこにはサークルを止めたはずの咲希がいた。

会わせるための孝と咲希の策略だった。

話さなきゃいけないらしい。


「何で、連絡くれないの?」

「だって……もう終わったじゃん」

「終わってないよ。何がいけないの。何が駄目なの。どうして加害者の娘と被害者が付き合っちゃいけないの」

ドラマのようなセリフだな。と僕は思った。

でもそれは、フィクションではなくノンフィクションだった。

実在の人物と団体の話だった。

孝は、ばつの悪そうな顔をしたかと思うと、どこかに行ってしまった。

他のメンバーも空気を察知したのか、二人以外は誰もいなくなった。

僕は、加害者だとか被害者の観点から話すとややこしくなるので、勝手にどんどん話を変えていった。


「どうせ、俺のことなんて好きじゃないんだろ、そりゃそうだよな。こんな手のかかる男、他にいないもんな」

「違うよ」

「何が違うんだよ。他の男と全然違うのは誰が見ても分かるじゃないか」

「だけど、私は……」

「私は、何だって言うんだよ。どうせ最初から興味本位で近づいてきたんだろ。それがこんなに世話がかかることが分かって嫌になったんだろ」僕は、一気にまくしたてた。

「良ちゃん、言ってること全然違うよ。めちゃくちゃだよ」

彼女の目にうっすらと涙が見えた。

それでも僕は、一気にまくしたてた。

言いたいことをすべて言い終えると、そこには沈黙があるだけだった。彼女は何も言わなかった。

ただ、うつむいていた。

じっとうつむいて地面にある何かを見つめている。

そんな感じだった。

しかし僕は、そんな彼女が、そんな何も言い返してこない彼女が、すごく嫌だった。

「何で何も言わないんだよ」そのときだった。バシッ

ほおにチクッとした痛みが走った。

そして、ジワーッと熱くなるのを感じた。

そのあとで、ヒリヒリとした痛みを感じた。

「好きだから。私は、どうしても良ちゃんのことが好きだから」咲希は、そう言った。


若いころの恋愛というのは、くっついたり離れたり、周りでも復縁だの元カノだのなんだの、そういう話は、よく聞いていた。

でも、自分がその当事者になるとは思ってもみなかった。

僕は、咲希とまた付き合うことにした。

最後の「好き」という言葉が、僕の心をどんどん溶かしていったのは確かだった。

家に着いた時には、完全にドロドロに溶けていた。

そして、その溶けたドロドロの心は、次第に僕も「好き」という形に固まっていった。

そんなに簡単に嫌いになんてなれなかった。


でもここからが、大変なときを迎えるのだ。

だって、被害者と加害者の娘が付き合うのだから。


どういうわけか瞬く間に、親にはバレた。

何かとてもまずいものを食べたときのように、

すごい痛みを味わったときのように、嫌な顔をされた。

そして、それは信じられないという顔に変わっていった。

思いっきり、怒られた。

それは、怒られたという言葉では表現できない以上のものだった。

理性では分かっている。

だけど、どうすることもできなかった。

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