閑話休題「あいのかたち」
ツイッター身内企画に参加した作品です。共通お題「あいのかたち」
登場人物
…幼馴染。高校1年生。
美しく、尊く、愛おしく、儚く。手に届かない、届いてしまうと消えてしまいそうな、こちらが死んでしまいそうな心地にさせる存在を、人間は感じることができながらも
飲み干すように名を呼んで、刻むように声にして、縋るように言葉にする。
そして、それが実現せぬ苦しみに、狂うような熱情を感じるのだ。
手を、離してしまいたかった。
もう止めようと、何度もそう思って、止めて欲しいと願って、そして今このときも、私は自分の中に眠る衝動を捨てきれずにいる。
「鼓実、どうしたの」
彼女は、近づいた顔に驚いているようだった。呼気が唇に触れたのがわかって、戸惑った私の心が、誘惑される。
瞳が近い。日本人形のように真っ黒な瞳孔が私の眼鏡を写している。綺麗な目だ。冷め切っている外見に似合わぬ苦悩を抱え、動揺しないようにと言い聞かせられた、怯えを隠した目。
「鼓実」
彼女の声が、耳朶に馴染む。肌に触れるたびに温かな気持ちと底なし沼に落とされていくような気持ちになって、現実の足場を忘れそうになる。
「なに、美恵」
手で、彼女の無防備な腕を掴んだ。このまま頭を傾ければ、彼女の唇に触れられる。
一番敏感で、繊細で、にくたらしい言葉ばかりを綺麗な声で紡ぐ口を、塞ぐことができる。
「離れて」
見つめ合うことに耐えきれなくなった目が、瞼で世界を拒んだ。
緊張を孕んだ声が、堪えていた震えを指先まで伝達する。
彼女でも怯えるのだ。こんな自分に、自分の抱える感情に、怯えるのだ。
「やだ、って言ったら、どうすんの」
「貴方なら、離れてくれると思うから言ったの」
じゃあ、あの子は離れないから言わないの?
過ぎった卑怯な問いかけに笑いが込み上げて、私は掴んだ腕を後ろに引いた。
突然背後に押しのけられた彼女が、ぽかんと口を開けて私を凝視する。鳩みたいに驚いた顔がおかしくて、愛おしくて、可愛くて、私は声を出して笑った。
「美恵ってほんと、にくいくらいいい女だよね」
「……は、」
「ありがと」
悔しさを隠せないのは、許して欲しい。
だって、本当は、踏み出したくて仕方がないんだ。
「私、美恵を好きでよかった」
この言葉が友達以上の意味を持てるように、弱くなりたかったんだ。
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